あなたは遺言書を残しておくべきか迷っていませんか?
遺言書がない場合、自分に万が一のことがあれば残された遺産は法で定められた割合で相続人に分配されることになります。
しかしながら、遺産が不動産など分割しにくい場合は相続人同士が揉めるケースも珍しくありません。
また、相続人以外にも財産を残してやりたい者がいるといったケースもあるかと思います。
そんな場合は、遺言書によって自分の死後の財産の使い方(分け方)を明確にしておくことをおすすめします。
ここでは、遺言書の効力や遺言書の種類別作成方法、必要書類、遺留分とは何かなどをわかりやすく解説します。
遺言書の効力とは
遺言書は相続の際に強い効力を発揮します。しかし、その強い効力も正しい書き方がされていない場合は無効となってしまう可能性があります。
遺言書の効力とその効力が無効になるケースを以下に解説していきます。
遺言書の法的な効力
・財産の分割方法を指定する
法定相続では相続人の分配率が定められていますが、遺言書によって分配の比率を変えたり分割の方法を指定したりすることができます。
・遺贈できる
法定相続人以外の人は財産を相続できないのが一般的ですが、遺言書によって法定相続人以外の人にも遺贈できます。
・相続人の廃除
相続人の廃除とは、さまざまな理由により(虐待や侮辱・著しい非行による被害に合ったなど)相続させたくない者がいる場合、遺言によってその相続人から相続権をはく奪することができます。
・相続人の廃除の取り消し
一度廃除された相続人でもいつでも取り消すことができ、遺言書でも取り消しが可能です。
・子供の認知
婚外子がいる場合などは、遺言によって子供を認知することができます。認知した場合は相続人となり遺産相続することができます。
・未成年後見人の指定
相続人が未成年で親権者がいない場合などは、遺言によって未成年後見人(相続財産の管理などを行う)を指定することができます。
・遺言執行者の指定
遺言によって、遺言を執行してくれる人を指定することができます。
遺言執行人は必ず必要ではありませんが、遺言で認知や相続人の廃除・廃除の取り消し・不動産の遺贈がある場合などは遺言執行者の選任が必要です。
遺言の効力が無効になることもある!
以下のようなケースは遺言書が無効になってしまうため、自筆証書遺言書の作成時には入念にチェックが必要です。
・要件が満たされていない遺言書
遺言書の成立要件が満たされていない場合は無効となります。例えば、日付がない、押印を忘れているなどのケースです。遺言書の成立要件が1つでも欠けていないかしっかりチェックしましょう。
・加筆や修正などの手順の間違い
遺言書を書き間違えた場合、二重線を引いて訂正するのが基本ですが、遺言書では非常に厳格なルールがあります。
具体的な方法は、訂正箇所に二重線を引き、横書きの場合は上部に、縦書きの場合は左側に正しい文言を書きます。二重線の近くには訂正印を押します。その行の余白に訂正内容を明確に示し署名します(例:2字削減2字加入 山田太郎)。
これらの手順が1つでも欠けていた場合は無効となってしまうため、一から書き直すことをおすすめします。
・不明確な遺言書
不動産を相続させる場合、登記簿に基づいた正確な所在地や地番・地目・地積・家屋番号などの必要項目を漏れなく記載する必要があります。
通常の住所表記で遺言書を書いてしまった場合、不動産の特定ができず無効になることもあります。
・他人の意思が介在した可能性のある遺言書
被相続人が認知症であった場合、自筆証書遺言を書いた時期によっては、本人の意思で書かれたものか疑われるケースもあります(一部の相続人の介在など)。
遺言の作成時に遺言能力がなかった場合は無効となってしまいます。
遺言書の書き方
遺言を残す方法は3種類あり、自分に合ったものを選ぶ必要があります。ここでは遺言書の種類と、自筆で書く「自筆証書遺言書」を作成するための要件を解説します。
遺言書の種類
遺言書には「自筆証書遺言書」「公正証書遺言書」「秘密証書遺言書」があります。
それぞれの違いや特徴を以下に解説していきます。
・「自筆証書遺言書」
自筆証書遺言書とは、自分一人で全文を書いて作成する遺言書のことです(添付する財産目録はパソコンなどで作成可能になった)。
費用もかからず最も手軽に作成することができるため、多くの人が利用している方法です。しかし、書き間違いがあったり、要件を満たしていなかったりする場合、また内容が曖昧な場合などは遺言書が無効になってしまうこともあるため注意が必要です。
・「公正証書遺言書」
公正証書遺言書とは、公証人に作成してもらう遺言書のことです。
作成は2名の証人の立ち合いのもと、遺言内容を公証人に口頭で伝えた内容を公証人が筆記します。遺言人と証人に読み聞かせの後、間違いがなければ全員が署名押印して完成させます。作成された遺言書は公証役場にて保管されます。
専門家によって遺言書が作成されるため費用はかかりますが、方式の不備による無効などの心配がなく安心安全で確実な遺言書です。
遺言書作成にかかる費用は、財産の価値に対応する形となります(例:100万円以下5,000円、100万円~200万円7,000円、・・・5000万円~1億円43,000円・・・など)。
・「秘密証書遺言書」
秘密証書遺言書とは、遺言書の内容は秘密にしたまま存在(遺言書の)だけを証明する遺言書のことです。
公正証書遺言書と同じく2名の証人と公証人が必要で面倒な手続きがかかる割にメリットが少ない(遺言書としての要件に欠け無効になる可能性もある)ため、あまり利用されていません。費用は定額で11,000円です。
自筆証書遺言の要件
せっかく作成した自筆証書遺言書が無効にならないためには、遺言書の成立要件をしっかりチェックしておくことが大切です。
自筆証書遺言書の要件は以下の通りです。
〈遺言者についての要件〉
・遺言書の作成時に遺言能力がある人
遺言能力の有無は、法律上では15歳以上になっています。また、認知症などで意思能力がない場合も遺言書は無効になります。
〈遺言書についての要件〉
・全文自筆であること
遺言者が全文自筆にて遺言書を作成しなければなりません。代筆やパソコンなどで作成した遺言書で、名前だけが自筆などの遺言書は無効となります。
・作成した日付を記載する
遺言書は作成した日付(年月日)の記載が必要です。日付が記載されていない遺言書は無効です。年は西暦でも元号でもよいですが、日まできちんと記載されていない場合(年と月だけなど)も無効になってしまいます。
・手書きの署名がある
遺言書は自らがフルネームで署名しなければなりません(スタンプなどは不可)。
・押印がある
押印は実印でなく認印でも可能ですが、実印を使用し印鑑証明を添付しておくことをおすすめします。これによって、本人が書いたという証にもなり偽造予防にもなります。
スタンプ式の印鑑などは避けた方がよいでしょう。
遺言書作成(公正証書)に必要な書類
最も確実で安全な遺言書である公正証書遺言書ですが、公正役場から求められる必要な確認書類が多くあります。以下は公正証書遺言書の作成に必要な書類の一覧です。
〈遺言者に関する書類〉
・戸籍謄本
・印鑑証明書(3か月以内のもの)
・実印
〈受遺者に関する書類〉
・戸籍謄本(遺言者の戸籍謄本に記載されている場合は不要)
・住民票(受遺者が相続人でない場合)
・法人の登記簿謄本(受遺者が法人の場合)
〈財産に不動産が含まれる場合〉
・固定資産税納税通知書
・登記事項証明書(法務局で取得する)
〈預貯金やその他の財産〉
・通帳のコピー
・通帳の残高や有価証券・その他財産の内容がわかるメモ
※上記の書類の他に、証人と遺言執行者(遺言執行者が相続人や受遺者以外の場合に限り)の住所・職業・氏名・生年月日が確認できる書類が必要です。
遺言書がない場合の相続はどうなる?
ここでは、亡くなった人に遺言書がない場合の相続について解説します。
遺言書が本当にないかを確認
遺産分割で大きな効力を発揮するのが遺言書になるため、まずは遺言書が書かれていないか確認しましょう。自筆証書遺言の場合は自宅で保管しているか、誰かに保管してもらっていることが考えられます。
公正証書遺言が作成されている場合は、公証役場で遺言書の有無を確認できます。
公証役場にて検索してもらうには、以下の書類が必要です。
・被相続人の死亡事実がわかる除籍謄本
・被相続人と相続人の関係がわかる戸籍
・相続人の身分証明書
※必要書類は公証役場によって異なる場合があるため、事前に確認しておくとよいでしょう。また、相続人以外の人が代理で確認する場合は相続人からの委任状・印鑑証明書が必要です。
検索の結果、遺言書がなければ費用はかかりませんが、遺言書があった場合は謄本の交付手数料1,000円~3,000円程度かかります(遺言書を閲覧するのみなら手数料200円)。
相続財産と債務を把握
遺言書がない場合、財産や債務がどれほどあるのかわからない状態です。
相続人が財産を相続するということは、債務があった場合は債務も相続することになります。そのため、見落としている財産や債務がないか確認することが大切です。
相続財産はお金と不動産だけでなく、有価証券や生命保険・骨董品・ゴルフ会員権なども対象です。
確認した結果、財産よりも債務の方が多いということもあります。そんなケースでは、「限定承認」や「相続放棄」といった制度を利用することができます。
法定相続人で分割
相続財産を確認した後は、法定相続人の遺産分割協議によって相続人全員が納得する分割方法を協議します。
お金の場合は分割しやすいですが、不動産の場合は分割が難しいです。不動産の分割方法は以下の4つがあります。
・「現物分割」:不動産をそれぞれの相続分に則り、相続人それぞれが所有権を持つ方法
・「代償分割」:相続人の一人が不動産を相続し、他の相続人に対して不動産の評価に応じて現金を支払う方法。
・「共有」:相続人全員の共有財産にする方法。
・「換金分割」:不動産を売却しお金に換えて分割する方法。
遺産分割協議は、相続人全員が参加し(遠方の場合は電話でも可能)全員の合意が必要です。協議が成立した場合は、誰がどの財産を相続したかを明記した遺産分割協議書を作成します(相続人全員の署名・押印が必要)。
どうしても遺産分割協議で決まらない場合、最終的には裁判で決着をつけることになります。
遺留分とは相続人に認められた最低限の権利
遺留分とは、本来は相続できるはずの財産が遺言書により相続できなくなった場合などに、一定範囲の法定相続人に認められる遺産の最低限の取得分のことです。
遺留分が認められる法定相続人とは、「兄弟姉妹以外の法定相続人」となっており、具体的には配偶者と子供、父母です。
遺留分の割合は、配偶者や子供の場合は被相続人の財産の1/2(配偶者と子供1人がいる場合は配偶者、子供ともに財産の1/4ずつ)です。
配偶者や子供がいなくて父母だけの場合は財産の1/3が遺留分となります(1/3を父母で分ける)。
遺留分減殺(げんさい)請求の手順
遺留分があるとはいっても、何もしないままでは遺留分を取得することはできません。
遺留分を取得するには、「遺留分減殺請求」を行いますが、時効があるため注意してください。
相続の開始及び減殺すべき財産の贈与・遺贈があったと知った時から1年間行使しない場合は時効となります。
以下は「遺留分減殺請求」の手順です。
・内容証明を送付する
受遺者に内容証明を送り、「残留分減殺請求」を通知します(内容証明は1年以内に「残留分減殺請求」を行った証拠となる)。
内容証明郵便にかかる費用は1,000円~2,000円。
・協議で解決を目指す
遺留分減殺請求の後は相続人と遺留分侵害者との間で遺産の分配について協議し、話し合いによって解決を図ることを目指します。
双方の合意がまとまった場合は、その内容を書面に残しておかなければなりません(口約束で終わらせないために)。
書面の書き方に正式なルールはありませんが、遺産の分配方法を記載し協議者全員の署名・押印が必要です。
・話し合いで解決しない場合は調停へ
話し合いで解決しない場合、相続人は家庭裁判所に遺留分侵害額調停を申し立てることができます(相手方の住所を管轄する家庭裁判所へ申し立てる)。
話し合いを重ね、双方で折り合いがつけば調停調書が作成されます。もし相手側が約束を反故にした場合、調停調書に基づいて強制的に合意内容を執行できます。
しかし、調停でも折り合いがつかない場合は、調停不成立となり相続人は裁判所に残留分侵害額請求訴訟を提起することになります。
まとめ
一般の人が遺言書を書くということは以外と難しいものです。
いつでも書けると先延ばしにしないで、早めにチャレンジして残しておくことをおすすめします。
自分で書いて無効になることを避けたい場合は、司法書士や弁護士に依頼して公正証書遺言を残しておきましょう。
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