不動産を相続するときに思い浮かぶことといえば名義変更ではないでしょうか。
とはいえ名義変更のやり方はおろか、何の書類が必要なのか、どこに届け出をすればいいのか、費用はいくらかかるのかなど多くの疑問が浮かぶことでしょう。
そもそも名義変更はしなければならないのか、そのままにしたらどんな問題があるのか。
そんな名義変更に関することを今回は解説していきます。
不動産を遺産相続する際に名義変更は必要ない
不動産を相続することになったときに、真っ先に名義変更の手続きを思い浮かべる方も多いです。具体的な手順の前に、まずは名義変更が義務でないことから書いていきます。
名義変更は義務でもなく期限もない
実はあまり知られていませんが、不動産を相続する際に名義変更は義務でなはありません。
そのため名義変更をしなかった場合も罰金や大幅に課税されることはありません。
更に言えばいつまでにやらなければならないという期限もありません。
「面倒な手続きも多いし、義務でないならばやらなくてもいいのでは?」と考える方も多いのですが、名義変更をしないために発生する問題は少なくありません。
名義変更をしない場合に発生する問題
名義変更をしなかったために発生する問題は主に以下の4点です。
- 相続人が増えて相続の取り決めが破綻する。
- 他の相続人のせいで差し押さえられる。
- 必要な書類を入手できなくなる。
- 売却できない。
一つ目は「相続人が増えて相続の取り決めが破綻する」です。
これは兄弟二人で親の不動産を含めた遺産を相続するとき、兄が不動産を、弟が動産を相続すると決めたとしましょう。
しかし兄が不動産の名義変更をしないままでいると、弟が亡くなったとき弟の妻や子どもが新しく相続人になります。
それまでに兄弟でいくら取り決めをしていようとも、名義変更がされていない状態の不動産は相続人全員の共有財産とみなされます。
こうなると、また一からの話し合いになり時間も手間も労力もかかることでしょう。
遺産相続の配分を決めた際は、速やかに手続きをすることが大切です。
二つ目は「他の相続人のせいで差し押さえられる」です。
これも先ほど書いた通り、不動産は名義変更されないと相続人全員の共有財産とみなされるために起きる問題です。
ある相続人が借金を返済できなくなった場合、その相続人の財産の一つとして不動産を差し押さえられる可能性もあります。
また取り決めをしておいても名義変更されるまでは共有財産となるため、一人の相続人が勝手に売り出すといった事例もあります。
三つ目は「必要な書類が手に入らない」です。
遺産相続の際など各種手続きで被相続人の住民票は必要になります。
他にも必要なものは多いですが、時間が経つにつれて必要な書類が取得にしにくくなることがあります。
名義変更は確かに義務でもなく期限もありませんが、放置しておくと必ず後で問題が発生したり変更の手間が増えたりします。
最後は「売却できない」です。
売却したい土地や建物が被相続人名義の場合、相続人は売却することができません。
これは名義変更をしない際の大きなデメリットといえるでしょう。
土地や建物を何らかの理由で売却したい場合も、まずは名義変更の手続きをしなければなりません。
土地や建物は売却するときにも多くの手順を必要とすることもありますで、余計に時間がかかるといえます。
また不動産は基本的に長く持っていると価値が下がっていきます。
急に売却しなければならない事情ができた、価値が下がる前に売却したいということも多くありますので不動産の名義変更は早めに済ましておく方が良いでしょう。
名義変更の際に必要な手続きは4つ
名義変更を何度も経験する方は一般的にあまりいないでしょう。
そのため、なじみがなく非常に複雑だと思われがちですが主な手続きは4つといえます。
- 書類の収集
- 遺産分割協議書の作成
- 登記申請書の作成
- 法務局への提出
もちろん必要な書類の収集や作成は慣れていないと想像しにくいところですが、簡単に各手続きを解説していきます。
書類の収集
名義変更の際に手間や時間がかかる作業の多くは書類の収集です。
必要な書類は以下の6点です。
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 相続人の印鑑証明書
上の書類をどこで取得できるのか、具体的な発行の手続きは次の章で解説していきます。
まずはこの書類を集めなければなりませんが、これらの書類は公的なもので法務局や住んでいる市役所などで入手できます。
法務局や市役所は、休日は閉まっているため、平日に行かなければなりません(郵送で取り寄せられるものもあるが)。
あらかじめ必要な書類をどこで入手できるのかをまとめておいて、なるべく一度に手続きをする方が手間も時間もかかりません。
遺産分割協議書の作成
上記の書類を集め終えたら、次に遺産分割協議書を作成します。
遺産分協議書とは、全ての相続人が不動産や株式、預貯金を含めた遺産の分割協議で合意した内容を取りまとめた文書を指します。
この書類があることで、誰がどの遺産を相続するかを明確に取り決め、合意したことの証明になります。
相続人が一人であったり、法定相続をしたりなどの場合は基本的に必要ありません。
この文書は法務局や市区町村の役場に置いてあるわけではなく任意で作成しなければなりません。
とはいえインターネット上にテンプレートがあるため、自ら作成する場合は参考・活用した方が良いでしょう。
この文書は相続人全員が署名押印する必要があるため、相続人同士が遠方に住んでいる場合はタイミングを合わせなければなりません。
また遺産分割協議書とは別に、相関関係説明図も作っておいた方が良いでしょう。
これは相続人と被相続人がどのような続柄なのかを証明する、いわば家系図のようなものです。
手続きをする中で求められることも多く、また遺産分割協議をするにあたって相続関係を整理することもできます。
スムーズに手続きを進めていくためにも作っておいて損をすることはないでしょう。
登記申請書の作成
必要な書類を集めた後、最後に登記申請書を作成します。
これも見本や雛形はありますが、申請内容によって記載する情報が変わるため注意が必要です。登記申請をする際には登録免許税も納付しなければなりません。
登録免許税は不動産の固定資産評価額の0.4%であるため、先に収集しておいた固定資産評価証明書から算出し、登記申請書にも記入することになります。
法務局への提出
登記申請書と集めた書類を法務局へ提出したら手続きは終わりです。
法務局は各地方法務局が管轄している地域があるため、提出する前に法務局のHPでどこに提出するのかを確認しておきましょう。
手続きは以上ですが、提出しても書類に不備がある場合は修正を求められます。
慣れていなければ一度で完了させることは難しく、何度も足を運ばねばならないことも多いです。
書類を集める、文書を作成する自信がない方や、そもそも手続きをする時間がない方は専門家である当サイトの「相続対策のすゝめ」に相談するのが良いでしょう。
名義変更の際に必要案書類は主に7つ
名義変更の手順のなかでも時間と手間のかかる書類の収集について、
どこで入手できて、どれくらいの費用がかかるのかなど解説していきます。
固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は土地や建物などの評価額が記載された証明書です。
不動産の名義変更の際に納付する登録免許税の算出のためにも必要となります。
この書類は市区町村の役所で発行でき、自治体によって異なりますが1通約300~400円ほどで購入できます。
郵送で取り寄せることも可能ですが、その場合は小為替が必要です。
まずは登記事項証明書を用意
登記事項証明書は、不動産の地番や所有者に関すること、そして担保などの情報がまとめられたものです。
法務局で誰でも取得することができるうえ、取得するための書類等はありません。
ただし1通600円かかります。
被相続人の戸籍謄本は“全て”用意
被相続人の戸籍謄本は“全て”用意する必要があります。
この“全て”というのは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本全てのことです。
どこで誰と誰の子として生まれたのか、誰と結婚したのか、子どもは何人いるのかなど被相続人のあらゆる事実関係を確認しなければなりません。
場合によっては隠し子の存在が明らかになることもありますが、相続人であるためもちろん話し合う必要があります。
市役所で出生から死亡までの戸籍謄本として請求できますが、結婚や引っ越しを機に本籍地を変えている場合も多いです。
集めるだけでも手間と時間がかかるため、早めに動くことが肝心です。
相続人が用意する書類3つ(戸籍謄本・住民票・印鑑証明書)
相続人の書類で用意しなければならないものは「戸籍謄本」「住民票」「印鑑証明書」の3つです。3つの書類も基本的には数千円あれば全て発行できます。
これらの書類も市区町村の市役所で請求することになりますので、出来れば被相続人の戸籍謄本や固定資産評価証明書と併せて入手してください。
遺産分割協議書や登記申請書は以上の書類を収集し、インターネット上にあるテンプレートを参考にして作成できます。
作成した登記申請書に記載してある情報と、提出した他の書類の情報との整合性は法務局で厳しく見ることができます。
遺産分割協議書や登記申請書などの不慣れな書類づくり、被相続人の戸籍謄本を全て集めるなど不動産の名義変更には時間と手間と労力がかかります。
しかし名義をそのままにしておくと将来的に問題が発生する可能性は大きいです。
自分で名義変更の手続きをする際は事前に手順や必要な書類を確認しておきましょう。
不動産の遺産相続の名義変更を自分でする場合の注意事項
以上のように必要な書類を集め、作成し、法務局へ提出することは弁護士や司法書士など特別な職業や資格がなくともできます。
なかには自分で手続きをするという方も少なからずいることでしょう。
次に自分で手続きを進めていきたい方のために、3つの注意事項を解説していきます。
名義変更には免許登録税がかかる
登記申請書を提出する際に納付する免許登録税についてです。
固定資産評価額の0.4%を納付することになりますが、固定資産評価額は固定資産評価証明書に記載されています。
注意が必要なのは、固定資産評価証明書は被相続人の戸籍のある市役所ではなく、不動産を管轄する市役所で取得することです。
他にも不動産の固定資産評価額を確かめる方法は2つあります。
一つは、1月1日時点の所有者に対して市町村から送付される固定資産税課税明細書を確認する方法です。
もう一つの方法は、所有する土地や建物について記載された固定資産税台帳を閲覧することで、その方法でも確認できます。固定資産台帳も不動産を管轄する市役所で閲覧できます。
ちなみに名義変更の際には必要ありませんが、実際に不動産を相続する際には相続税が発生します。
相続税額=(相続財産額-基礎控除額)×相続税率
相続財産額とは、不動産以外にも預貯金や株式など全ての遺産の金額の合計のことです。
相続税の基礎控除額の計算式は以下の通りです。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の人数)
法定相続人が一人の場合でも、相続財産額が3600万以上にならなければ相続税を支払うことはありません。
慣れていない場合は1ヵ月以上かかることも
手続きに時間がかかるということは繰り返し書いてきました。
とはいえ実際にどれくらい時間がかかるのでしょうか。
会社を退職した、在籍しているなどその人の状況によって大きく変わりますが、1ヵ月以上かかることもあります。
会社を既に退職して比較的時間に余裕がある方であれば、平日に市役所に行くことができ、不足した書類をその都度取りに行くことも問題ないでしょう。
また遺産分割協議書については相続人全員の署名押印が必要になるため最低でも一度は相続人全員で話し合うことが必要です。
相続人全員が近い場所に住んでいる場合は問題ありませんが、遠方に住んでいる場合は日程の調整にも時間がかかります。
名義変更に期限はないため早くする必要はありませんが、先延ばしにすればするほど手続きは億劫になり、手続きをする気力も萎えるでしょう。
不動産を相続する可能性があるとわかった時点で、事前に準備できる書類や被相続人の戸籍謄本がどこにあるのかなど調べておくと良いです。
平日に仕事を休む必要がある
戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、その他の書類のほとんどは市役所や法務局で取得できます。
会社に在籍している方の場合は平日に時間を取ることは難しいでしょう。
どうしても休みが取れない場合は郵送で取り寄せるか、委任状などを書いて代理人に依頼するしか方法はありません。
また法務局に書類を提出する際は修正されることも念頭に置かなければなりません。
会社に在籍している方は、何日間か会社を休む必要があるでしょう。
専門家に相談することがおすすめ
では名義変更を自ら行うメリットとデメリットを比較してみましょう。
名義変更を自分で行うメリットは「専門家への依頼する費用がかからないこと」の一点です。手続きを代理してもらう場合は司法書士に依頼することになりますが、その場合は当然、手数料が発生します。
手数料は一律ではなく、また事案によっても手数料は異なります。
必要な書類を集めることから依頼をするのか、それとも遺産分割協議書や登記申請書の作成の依頼もするのか。
依頼する範囲が広くなればその分手数料の金額も大きくなりますが、最低でも数万円は必要です。
一方、名義変更を自分でするデメリットは繰り返しになりますが「時間・手間・労力がかかること」です。
どんな手続きが必要なのかを調べるところから、実際に書類を集めて文書を作成して提出するところまで時間も手間もかかります。
わからないところは法務局に尋ねることもできますが、わかりやすい回答をもらえることは多くないようです。
被相続人が亡くなった場合は葬儀など他のことにも時間を割く必要が当然あります。
そういったことを総合した場合、以下に当てはまる方は専門家への相談・依頼を検討した方が良いでしょう。
- 手続きや必要な書類、作成すべき文書を見て、相続や名義変更の手続きをやり切る自信が出ない方。
- 忙しくて、そもそも名義変更の手続きをする時間すら取れない方。
不動産の名義変更は公的な書類が多くある分、手続きは簡単ではありません。
不明な点がある場合には、まず専門家に相談をしてみることが確実といえます。
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