遺産相続となると現金は付き物ですし、遺産分割協議が決定すれば現金で授受することも珍しいことではありません。
しかし、残念なことに大金を目にすると、せっかく残してくれた遺産ですので、税務署に申告しなくてもバレないと思う人も少なくないのが現状です。
今回は、現金の遺産についての注意事項から、遺産隠しは犯罪になることなど解説します。特に現金のみの遺産相続に関連する方には是非御一読ください。
遺産を現金で相続する場合の注意事項
遺産を相続することになったが、内容を確認すると全てが現金と預貯金であった。これなら、相続人の間でトラブルになることも少ないと思われる人も多いでしょう。
しかし、現金ほど怖いものはありません。現金を見ると人格が変わるような人間は意外と多いです。用心に越したことはありません。
相続財産における現預金の取り扱いは、2016年12月の最高裁判決で遺産分割協議の対象となりました。
それまでは、相続人の間で共有財産のように扱われ、相続分はある程度自由に使えるお金です。
しかし、現預金も遺産分割の対象とすると判断がなされて以降、預金を引き出す際には、相続人全員の合意がない限り難しくなりました。
また、遺産分割協議書の提出がなければ引き出せない金融機関も増えてきています。被相続人の遺産を安易に使うとトラブルの元になるので注意が必要です。
現金で遺産相続するメリット
現預金遺産のメリットは、遺産分割が非常に容易であることです。現預金であれば1円単位まで分けることが可能です。遺言書があれば、その内容に従って分割すれば良いですし、仮に遺留分侵害請求権を行使されても現金で支払うことができます。
遺言書がない場合は、法律に従って分割すれば問題が起きる余地は非常に少ないです。また、相続税を申告し納税する際にも資金集めに窮することなく納税できるというメリットもあります。
現金で遺産相続するデメリット
多額の現金や預金を遺産相続するデメリットは節税対策がほとんどできないことです。相続税を計算する上で現預金以外は、評価で計算します。その場合、控除があったり、いくつかの評価の最低を採用したりするなど、何らかの節税ができるのですが、現預金だけは金額そのものが課税対象となります。
また、価値が解りやすく使い勝手が良い分、遺産分割協議で揉めやすいのも現預金です。複数の相続人がそれぞれの取り分を主張して譲らなければ、親族間の争いに発展することも稀ではありません。
先にも述べましたが、現金を目にすると人格が豹変する人は多いです。現金の相続で揉めないように、始めから相続に強いプロを第三者として協議に入れる方法も賢い選択肢です。
遺産分割協議と現金授受
遺産分割協議書とはどのようなものかを説明します。遺産相続で相続人が複数いる場合、遺産総額を算出し誰がどれだけの遺産を受け取るのかを協議します。
遺言書があればそれを優先し、法定相続や遺留分などを参考に協議を行うのが通常です。そして、全員が合意した内容を明らかにし書面にしたものが遺産分割協議決定書です。遺産分割における証明書のようなものと捉えると解りやすいです。
遺産分割協議決定書の保管
遺産分割協議で決定した遺産分割協議決定書は重要な書類です。これがなければ預金も引き出せませんし、有価証券の相続や売却もできません。また、不動産の相続、売却などを含めて遺産を動かすには必要な書類です。
大事な書類は大切に保管することです。自宅の金庫や銀行の貸し金庫などで保管することをお奨めします。
また、保管期限ですが、法律や制度で定められていない為、いつまでということはありません。しかし、できるだけ長く大事に保管するほうが良いでしょう。
後で、新たな財産が見つかる可能性もありますし、相続欠格者が判明する場合もあり得ます。そのような場合に必要な書類でもあります。
現金の受け渡しは領収書を残す
遺産分割協議で、相続人全員の合意のもと遺産分割協議決定書が作成されて、はじめて遺産の分割が可能になり、現預金も授受されます。現預金の授受後は、揉め事の種にならないように受け取りの証拠として領収書などを残しておくと良いでしょう。
生命保険金は遺産分割協議の対象外
生命保険の保険金は遺産分割協議の対象となる相続財産から離されて取り扱われます。従って、生命保険を上手に利用することで、被相続人の思い通りに相続させることができて、手続きもスムーズに済む可能性が高いです。
ただし、遺産分割協議の対象財産ではありませんが、申告や納税の義務は生じます。税金の種別は、相続税・取得税・贈与税のどれかでありますが、保険料を支払っていた人によって区分されます。
被相続人が保険料を支払っていた場合は相続税として申告します。保険金受取人が支払っていた場合は取得税です。そして、被保険者・保険料支払人・保険金受取人がそれぞれ異なる場合は、贈与税として申告し納税することになります。
遺言を残さなくても遺産を渡すことが可能
相続開始時点での保険金は、現金や預金ではなく生命保険金請求権です。これは保険金を請求できる権利であって現金化されている訳ではありません。
生命保険請求権は、保険契約の効力発生と同時に被相続人が受取人と指定した者の固有財産となるので遺産分割協議の対象とはなりません。すなわち、指定された生命保険受取人のみが取得することになります。
このことを利用すれば、被相続人は遺産を渡したい相続人を受取人に指定しておくだけで自動的に財産が譲渡されることになりますので、面倒な遺言書を認める必要性はありません。
法定相続人以外にも遺産を譲渡できる
被相続人が亡くなった後、遺言書が無ければ、法定相続で遺産を分割することになります。その場合、遺産を受け取ることが可能なのは、法定相続人に限られています。
生命保険であれば、保険金受取人を法定相続人以外にも指定できるので、遺産を渡したい者が法定相続外であっても遺産分割協議とは関係なく遺産を譲渡する事が可能です。
現金の遺産でも隠すことは犯罪
タンス預金などの現金が遺産の大半を占めたり、時には遺産が全て現金化されていたりするケースもあります。確かに現金であれば、必要な時に必要なだけお金を使うことが可能です。
しかし、盗難のリスクもあれば焼失する可能性もあります。なのに、あえて現金を大量に残している理由の1つが相続税逃れです。悪く言えば遺産隠しです。
マイナンバー制度の普及と比例するように、急速にタンス預金などの現金が家や蔵で蓄えられるようになっています。マイナンバーで自分の資産が把握されると思っている国民は意外と多いようです。あるシンクタンクは、国内のタンス預金などの現金を40兆円以上と推察しています。
タンス預金が増えているもう一つの理由が低金利です。長い低金利で銀行などに現金を預けるメリットが薄れています。ならば、家で保管しても同じとだと考える人が増えてもおかしなことではありません。
現金ならばれないと思ったら大間違い
税務署は現金であっても遺産隠しなら必ず見つけ出します。逆に現金を隠していても、遺族がそのことやその場所を知らなければ、ただの紙屑となる可能性もあります。
現金の遺産隠しを税務署に摘発される理由は、税務署の強い権限と調査能力にあります。
税務署は、過去の所得などをベースに亡くなった人がどれくらいの財産を築いているか検討をつけているようです。相続税の申告がなければ調査を開始しますし、想定外の低い申告であっても調査を開始します。
税務署の権限があれば、被相続人の預金口座や投資・金融商品の購入など簡単に調べることができます。そして、被相続人の自宅で税務調査が行われることになり、洗いざらい家の中を調べられ、尋問を受けることになります。
遺産隠しは犯罪
現金の遺産隠しは他の遺産に比べて悪質性が高いと判断されるケースが多いです。理由は、土地や家屋なら価値が低下していたり、思ったように売りさばけなかったりする場合があります。そうなると、遺産分割協議が難航し申告漏れや過少申告などになる場合があります。
しかし、現金の場合はそうはいきません。数えるだけですし、価値や評価もそのままです。ましてや預金ならばひと目で判断できるでしょう。
悪質な遺産隠しの場合は脱税とみなされます。そのペナルティは重いものになります。まず、重加算税として本来の税額に35~40%が加算されます。
さらに、国税局が検察に告発することもあり得ます。裁判で無罪になることはなく、相当の審判が下されることになるでしょう。
生活保護の現金遺産相続について
生活保護受給者の遺産相続は基本的に放棄できません。相続したら生活保護を打ち切られるからと言っても相続を放棄できないのです。だからといって、生活保護の打ち切りを恐れる必要もありません。憲法で健康で文化的な最低限度の生活は守られています。
しばらく生活できる遺産を相続すれば、生活保護の受給を休止すれば良いですし、生活できる最低限の遺産であれば、生活保護が打ち切られる可能性はほとんどありません。最低限度の生活が維持できるかどうかはケースワーカーが判断します。
レアなケースですが、放棄できる遺産もあります。債務超過の遺産や資産価値が見込めず維持管理費が必要な山林や農地などです。
このような負の遺産を引き継ぐことで生活が破綻してしまえば、生活保護の意味がなくなると判断された場合には、相続放棄の手続を行っても受給を継続できる可能性は高いです。
必ずケースワーカーに報告
生活保護受給者は、収入があれば必ず報告する義務があります。従って、遺産を受け取ることになった場合も同様でケースワーカーに報告しなければなりません。
保護費の減額や中止の判断の基準は最低限度の生活を営めるかどうかです。そこは、ケースワーカーが判断するので正確に報告すると良いでしょう。
誤っても、遺産を隠したり報告しなかったりしてはなりません。それこそ、生活保護が廃止される要因となりかねません。
現金の遺産相続で確定申告は必要?
遺産を相続した場合、確定申告をしなければならないと悩んでいる人も多いと聞きます。原則として遺産相続の場合は確定申告の必要はありません。特に現金だけの場合は何の心配もありません。ただし、遺産総額が基礎控除を上回る場合には相続税の申告が必要です。
遺産相続で確定申告しなければならないケースは2つです。1つは被相続人に代わって準確定申告する場合で、もう1つは収入を生む資産を相続し遺産以外の収入を得た場合です。
準確定申告が必要なケース
被相続人の代わりに申告することを準確定申告と言います。準確定申告は、相続人が行いますが全ての被相続人に当てはまるのではありません。
- 個人事業主の場合
- 賃貸住宅や駐車場を保持し収入を得ていた
- 会社の役員や従業員で年収が2000万円を超えていた
- 亡くなった年に株式や不動産を売却していた
- 亡くなった年に高額の医療費を払っていて還付が見込まれる場合
上記に当てはまれば、相続人は被相続人に代わって準確定申告をしなくてはなりません。準確定申告の期限は、被相続人の死後4ヶ月以内ですので早急に取り掛かるほうが良いでしょう。
相続人が確定申告するケース
相続した遺産の中に賃貸住宅や駐車場のなどの不動産があり、事業継承した場合は、確定申告しなければなりません。
被相続人が生前青色申告を行っていた場合で1~8月に相続が発生したケースでは、相続開始日から4か月以内が提出期限となるので注意が必要です。
また、相続した不動産を売却した場合でも所得税の確定申告が必要となります。
相続の悩みは難解
相続に関する税制は複雑で、明瞭な現預金だけの相続であっても、理解できないこともあります。特に、相続人が複数いる場合は遺産分割協議でトラブルが発生しやすいです。感情が拗れて確執が生じれば会議は難航します。
かといって、遺産分割協議決定書の作成までこぎつけないと、遺産の預金さえも引き出すことができないのが現状です。
本稿を参考に、現金の遺産相続でのお悩みが解決に向かうことを願います。
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