親族が亡くなった場合、葬式の手配や各種手続きなどやるべきことは多くありますが、どのような事を行うべきか事前に知っている人は少ないと思います。
なかでも遺産相続はその最たるものの一つです。
遺産相続は法律的な知識も必要になり、ないがしろにすれば親族間で裁判に発展することも珍しくないため適切に行わなければなりません。
様々な手続きや書類が必要になり、大変そうだと先延ばしにしたくなる気持ちもわからないでもないですが、実は遺産相続の手続きのなかには期限があるものも多いです。
期限を知らずに過ぎてしまった場合は、徴税や遺産放棄ができないなど重大な事態につながることもあります。
そこで今回は、遺産相続の様々な期限について解説していきます。
遺産相続に期限があるものとないものがある
相続手続きには期限があるものとないもので分かれており、期限を過ぎてしまうと
・故人の負の遺産(つまり借金)をまるごと背負い返済する羽目になった
・払い過ぎた多額の税金が還付されるはずだったが、戻ってこなくなった
などの金銭的な大きなデメリットが生じます。
このような事態を回避するためにも、自分にとって必要な手続きやその期限を知ったうえで計画を立てながら完了させていく必要があります。
相続に期限のある手続きと期限のない手続き
期限のある主な手続きは以下の5つです。
1.相続放棄
2.準確定申告
3.相続税の申告および納税
4.遺留分の侵害額請求
5.その他(保険会社への連絡、税金の還付請求)
反対に、期限がない主な手続きは以下の4つです。
1.遺産相続協議
2.銀行での預貯金の解約や名義変更
3.土地の相続登記
4.そのほか(株や有価証券)
項目によっては、する必要がないものもありますので、まずは自分が何をするべきかを知ることから始まります。
遺産相続の手続きが完了する一般的な期間
目安として10ヶ月以内に完了させると認識しておくと無難です。
なぜ10ヶ月以内なのかと言うと、その期間内に、相続放棄や相続税の申告および納税という必ず終わらせるべき手続きがあるからです。
10ヶ月を目安に考えたとき
・どのような手続きをしなければならないのか
・手続きをいつまでに完了させるのか
を踏まえて、計画的に進めることがなにより大切です。
両親や兄弟などが亡くなった後は、精神的にも大変なうえに、葬儀やお墓に関する手続き、そして相続の手続きが重なります。
そのため、面倒で何をしたら良いかわからないことを先送りにしたくなる気持ちはわかりますが、後回しにすれば故人の遺産によっては多額のお金を支払わなければなりません。
そのため、事前に何をすれば良いのかをはっきりさせておいて、計画的に書類集めや相続人同士の話し合いを進めることが重要です。
相続に期限のある遺産相続手続き
期限のある主な手続きは以下の5つです。
1.相続放棄
2.準確定申告
3.相続税の申告および納税
4.遺留分の侵害額請求
5.その他(保険会社への連絡、税金の還付請求)
それぞれの手続きの概要、必要な書類、期限の延長の可否に関しては、後に詳細に解説していきます。
相続放棄は3ヶ月以内
概要:
故人の遺産を完全に受け取らないこと。
基本的には、借金などが他の遺産よりも多い場合に行います。
また、遺産の価値が限られたもの、もしくは遺言のため特定の一人が受け取ることになった場合には、他の相続人が相続放棄を行います。
必要な書類:
・相続放棄申述書(裁判所のホームページからダウンロード、もしくは家庭裁判所で受け取り)
・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(出生した場所や死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・故人の住民票の除票(死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・相続放棄する人の戸籍謄本を全員分(本籍地の市区町村役場で入手可能)
期限延長の可否:
申請をした場合に延長が可能。
申請先は、故人が死亡した場所にある家庭裁判所であり、申請書である「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」は、裁判所のホームページからダウンロードできます。
他にも出生から死亡までの戸籍謄本と住民票除票、そして申請する相続人の戸籍謄本が必要です。
相談放棄に関しては、故人のすべての財産の把握(借金以外にも不動産や預貯金など)をしつつ、必要な書類を集めなければなりません。
特に、故人や遺産を受け取る人の戸籍謄本をすべて集めるには、昼間に市区町村役場に行かなければならないため、あらかじめ必要なものを書き出して、一度に入手できるようにしましょう。
相続放棄は期間を伸ばせますが、さらに言えば、3ヶ月が過ぎたあとも2つの特別な場合に該当する際には相続放棄を認められます。
その2つの場合が「故人の借金の存在を知らなかった場合」と「故人と関係が遠くなっており自分が相続人だったことを知らなかった場合」です。
延長はできますが、相続に関わる手続きは時間が経てば経つほど、書類集めが大変になったり、相続人が変わったりなど難しくなるため、早めに完了させることを意識しましょう。
準確定申告は4ヶ月以内
概要:
準確定申告とは、故人が個人事業主だったときに行う確定申告を相続人が代わりとなって行うことです。
故人が個人事業主でない場合は、必要ありません。
準確定申告の期限は、相続が発生したことを知った次の日から4ヵ月であり、申請先は故人が死亡した場所を担当する税務署です。相続人が複数いるときは、連名で署名して提出します。
必要な書類:
・確定申告に関わる書類(収入や経費など事業の収支がわかる書類)
・付表(国税庁のホームページからダウンロード、もしくは税務署で入手可能)
期限延長の可否:
基本的には不可
確定申告と準確定申告について、必要な書類や記入事項など基本的に同じです。
そのため、遺産を受け取る人も個人事業主であれば、後は付表を記入して提出するだけのため、そこまで難しくありません。
しかし、相続人が会社員などの場合は、確定申告に必要な、故人の書類を集める作業から始まります。
会社員の場合、確定申告は会社が年末で行ってくれるため、個人で行うには何をすれば良いかわからない人が大半です。
経理の知識がある人でないと難しいため、不安な人は時間をかけてイチから独学するよりも税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。
また、申告と納税は同じ期日のため、納税忘れで余分なお金を払わないためにも同じ日にやることがおすすめです。
相続税の申告と納税は10ヶ月以内
概要:
故人が残した遺産の総額が「3,000万円+600万円×法定相続人」の額を超える場合は、相続税を支払わなければなりません。
申告と納税の期限は、相続発生を知った次の日から10ヶ月以内で、申請先は故人が死亡した場所を担当する税務署です。
申告の期日と納税の期日は同日です。
必要な書類:
・相続税の申告書
・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(出生した場所や死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・遺産分割協議書のコピーと相続人全員分の印鑑証明書(相続人が複数人の場合)
・遺言書のコピー(ある場合のみ)
期限延長の可否:
基本的に不可
必要な書類が少ないように思われる方がいると思いますが、上記の書類はあくまで税務署に提出するものです。
相続税がかかるのかを知るには、不動産、有価証券、預貯金などを含めて、すべての価値を調べたうえで計算しなければなりません。
そのため、遺産に不動産がある場合には、10ヶ月以内だとほったらかしにせず、早めの準備が必要です。
とにかく、支払う必要があるのかだけ知りたい人は、まず国税庁のホームページにある「相続税の申告要否の簡易判定シート」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sozoku-tokushu/souzoku-aramashi.htm
を使って、おおまかな計算をしてみましょう。
概算値のうえ、正しく財産価額を把握できているのかによりますが、参考になるでしょう。
遺留分の侵害額請求は1年以内
概要:
遺留分とは、故人の妻や子といった法定相続人が最低限受け取れる金額のことです。
そして、侵害額請求とは、故人の妻や子が遺留分を受け取れなかった際に、別の誰かが受け取った遺産から遺留分を受け取るための請求です。
故人が遺言書で、愛人に全財産を譲渡すると書いていた場合などに必要になってくる手続きです。
遺留分は厳密に決まっているわけではありませんが、故人が扶養していた相続人が生活できるのか、また故人の財産形成に相続人がどれだけ貢献していたのか、の2点で決められます。
必要な書類:
・申立書とそのコピー
・添付書類
・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(出生した場所や死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・相続人全員の戸籍謄本
・遺言書のコピー
・遺産に関する証明書
期限延長の可否:
中断は可能
遺留分の侵害額請求は、まず妻や子、そして愛人などの当事者間での話し合いが求められます。
話し合いで決まらなかった場合のみ、家庭裁判所に申し立てを行います。
また、故人の兄弟姉妹は請求ができません。
その他の手続き
その他の手続きとして
・死亡保険の保険会社への請求(3年以内)
・相続税の還付請求(5年10ヶ月以内)
などがあります。
相続税の還付請求に関して、改めて正確に計算したとき税額が違った、相続人が新たに見つかり計算し直した場合などで税額が少なくなったときに請求します。
相続税は支払う金額が大きいため、税額が少なくなったことがわかれば5年10ヶ月以内に請求をしましょう。
相続に期限のない手続き
期限がない主な手続きは以下の4つです。
1.遺産相続協議
2.銀行での預貯金の解約や名義変更
3.土地の相続登記
4.そのほか(株や有価証券)
それぞれの手続きの概要、必要な書類、期限の延長の可否に関しては、後に詳細に解説していきます。
遺産分割協議
概要:
遺産分割協議とは、遺言書がない状態で複数の相続人が遺産をどう相続するのかを決める協議です。
遺産を実際に受け取る際に必要になるため早めにやっておくべきことと言えますが、期限はありません。
遺産分割協議によって決められたこと(具体的には「誰が」「何を」「どの割合で」受け取るか)は、遺産分割協議書にまとめられ、すべての相続人が捺印しなければ効力が出ません。
そのため、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、相続人が死亡して新たに相続人が発生した場合や、新たに相続人が発覚した場合は、初めからやり直さなければなりません。
必要な書類:
・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(出生した場所や死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・故人の住民票の除票(死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・相続人の戸籍謄本全員分(本籍地の市区町村役場で入手可能)
・相続人の印鑑証明書全員分と実印
遺産分割協議書には遺族間のトラブルを防ぐ、不動産や銀行口座の名義変更に必要になります。
そのため、遺言書がない場合は将来的なリスクを回避するためにも作っておきましょう。
銀行での預貯金の解約や名義変更
概要:
故人の口座は、相続人が勝手に遺産を引き出さないよう、銀行が故人が死亡したのを把握した時点で凍結されます。
凍結された口座はお金の引き出しはもちろん、引き落としもされません。
凍結の解除には名義変更が必要であり、名義変更された後は解約も可能です。
必要な書類:
・遺産分割協議書(遺言書がなく、遺産分割協議をした場合)
・相続人の印鑑証明書全員分
・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(出生した場所や死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・相続人の戸籍謄本全員分(本籍地の市区町村役場で入手可能)
必ずしも急いでやることとは言い切れませんが、準確定申告や相続税の支払いがある場合は、お金が緊急で必要になるため、早めに対応しましょう。
土地の相続登記
概要:
相続登記とは、いわゆる不動産の名義変更のことです。
相続登記を行わなければ、売却や貸し出すことができないため、遺産に不動産が含まれる際は早めにやっておくことがおすすめです。
必要な書類:
・相続登記申請書
・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(出生した場所や死亡した場所の市区町村役場で入手可能)
・相続人の戸籍謄本全員分(本籍地の市区町村役場で入手可能)
・不動産を相続する人の住民票のコピー
・遺産分割協議書(遺言書がなく、遺産分割協議をした場合)
手続きに期限はありませんが、不動産は価値が大きくなりやすい分、放置しておくと後々のトラブルになりやすいです。
そのため、遺産分割協議を行った場合はすぐにでも手続きをしておくべきものと言えるでしょう。
その他の手続き
その他の手続きには、株式や有価証券の手続きがあり、こちらも期限はありません。
また必要な手続きや書類に関しては、基本的に銀行口座と大きくは違いません。
取引のある証券会社などに事前に問い合わせておけば、後で必要なものが判明して集める手間が省けるためおすすめです。
相続手続きの期限が切れた場合はどうなる?
各項目でも簡単に解説しましたが、改めて期限を過ぎた場合にどのようなことが起きるのか、期限が過ぎないための方法を知っておきましょう。
相続放棄の場合
3ヶ月を過ぎた場合は、延長を申請していない場合、もしくは特別な事情がない場合は認められません。
上記の2つの場合に該当していない際、故人に多額の借金があっても相続人で返済しなければならなくなります。
相続放棄が必要になるのは、故人が借金を背負っている場合、遺産を特定の相続人だけが受け取る場合です。
そのため、期限を過ぎないようにするには、まず故人の借金の有無や額を把握すること、そして遺産を特定の人だけが受け取る際の合意形成を早めに済ませることが大切です。
準確定申告の場合
準確定申告は4ヵ月という期限を過ぎると、延滞した分の支払いが生じます。
準確定申告は故人が個人事業主の場合のみのため、故人が個人事業主であるとわかっていれば、生前に収支などの書類について聞いておくと良いでしょう。
また、相続人が会社員で確定申告についてわからない場合は、本で勉強する、もしくは税理士に依頼することがおすすめです。
相続税の申告と納税の場合
相続税も、準確定申告と同じく、納付期限を過ぎた場合に延滞した分や追加で徴税されます。
しかし、準確定申告と違う点は、金額が大きい点です。
そのため、追加で徴税される金額も大きくなるため、必ず10ヶ月の期間内に納付しましょう。
相続税の納税期限を過ぎないためには、遺産の総額を正確に把握しておくことが大切です。
遺産が多額にあるという人は、まずは国税庁のホームページにある先ほども紹介しました「相続税の申告要否の簡易判定シート」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sozoku-tokushu/souzoku-aramashi.htmで概算値だけでも知っておくと良いでしょう。
専門家に相談することがおすすめ
遺産相続に関する手続きは、基本的に法律の専門家でなくともできます。
集める書類も、公的機関で発行されたり、国税庁や裁判所のホームページからダウンロードできたり、もしくはインターネットからひな形得られたりなど、資格がないとできないことはありません。
しかし、準確定申告や相続税の計算、遺産の総額を調べることなどは正確さを求められるうえに、必要な書類も膨大です。
こういった手続きを期限内に行わなければなりませんが、会社員をしている人は平日に公的機関を訪れることが難しいでしょう。
そういった場合は専門家に依頼する方が、正確な納税ができたり、後に親族間でトラブルが起きなかったり、精神的な負担が減ったりなどするため得策です。
「自分でやってみる!」という人は、相続の手続きのいたるところに専門的な知識が必要になる部分や、正確に把握しなければならない部分があることは覚えておきましょう。
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