所有している不動産を贈与する場合と死後に相続する場合、どちらも不動産が相続人に引き継がれるのであれば、違いはないと思われる人もいます。不動産の贈与と相続は明確に違いがあります。中でも、贈与税と相続税では、内容が全く異なるのです。
今回は、不動産の贈与と相続の違いを明確にするため、それぞれのメリットやデメリットを解説し、贈与税と相続税の違いも説明します。この記事を読めば、不動産贈与と不動産相続についての見識を高めることができるでしょう。
不動産の贈与とは
贈与とは、自分の財産を無償で相手に送る行為であり、相手がこれを承諾することによって成立する契約です。不動産の贈与とは、不動産を所有している人が、無償で相手に不動産を譲る行為であり、不動産の贈与契約となります。不動産の贈与での受贈者は、一般的に贈与者の法定相続人や遺贈者が対象です。また、不動産贈与の大半は、相続税対策として行われているのが現状です。
不動産贈与のメリット
不動産贈与と相続の違いを知る上で重要なのは、贈与と相続の互いのメリットとデメリットを知っておくことです。まずは、不動産贈与のメリットを紹介します。
- 暦年課税制度を利用することによって毎年110万円の基礎控除を利用できます。
- 不動産の評価は、実勢価格よりも低くなるように定められています。
- 贈与者は、不動産贈与する時期を自由に選べます。
- 贈与者は、不動産贈与する相手を自由に選べるので、法定相続人以外にもそうよ可能となります。
- 先に贈与することにより、相続時のトラブルを事前に回避することが可能です。
- 節税効果が期待できる相続時精算課税制度を利用可能です。
- 相続税対策になりうる住宅取得資金贈与制度を利用可能です。
- 贈与税の配偶者控除を利用することで、相続税対策となりえます。
不動産贈与のデメリット
不動産贈与のデメリットは以下のようになります。
- 贈与税が相続税よりも高額になるケースが多いとされています。
- 基礎控除が相続税の基礎控除より低く設定されている。
- 登録免許税の税率が相続よりも高く設定されている。
- 不動産取得税が課税される。
- 贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合、贈与が無効となり相続税の対象となる可能性があります。
不動産の相続とは
相続とは、被相続人が死亡した時にその人の財産を特定の人が引き継ぐことです。不動産の相続とは、被相続人が所有していた不動産を特定または複数の相続人が引き継ぐことを意味します。贈与は契約であると解説しましたが、相続は契約ではなく法律で定まっている行為となりますので契約書などは不要です。しかし、被相続人の遺言書や遺産分割協議書など、遺産分割が正当であることを証明する必要があります。
不動産相続のメリット
不動産相続のメリットは以下のようになります。
- 不動産の評価は、現預金よりも低くなるように定められています。
- 相続では、基礎控除が贈与よりも高額である。相続税の基礎控除の計算式は以下の通りです。
相続税の基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人数 - 不動産取得税は課税されません。
- 登録免許税が4%なので、贈与税よりも低く設定されています。
- 小規模宅地等の特例などの適用を受けられる可能性があります。
- 配偶者控除が贈与税に比べて高く設定されています。
不動産相続のデメリット
不動産相続のデメリットは以下のようになります。
- 遺言書を認めても、自分の思ったように遺産を分割できません。
- 遺言書を認めても、相続相手を自由に選ぶことができません。
- 遺産分割協議によりトラブルが起こりやすいとされています。
- 一定の法定相続人に遺留分が生じるので、遺産分割不均等な遺産分割はトラブルの原因となるケースがあります。
相続においては、被相続人の遺言書よりも、遺産分割協議の決定事項が法的に有効なため、被相続人の思惑通りには遺産を分割することが難しいのが現状です。また、一定の法定相続人に認められている遺留分を侵害するような遺産分割であれば、多くの財産を譲り受けた相続人が、遺留分侵害請求を受ける可能性が高くなります。
不動産の贈与と相続の違いとは
不動産贈与と不動産相続のメリットとデメリットを解説しました。実際の不動産贈与と不動産相続の違いは、贈与税と相続税の違いであるといっても過言ではないかもしれません。ここでは、不動産贈与と不動産相続の税制の違いについて解説を進めていきます。
不動産の贈与税の仕組み
贈与税は個人から財産を贈与された場合に課税される税金です。会社や法人などから財産を贈与された時には贈与税は課税されませんが所得税がかかる仕組みとなっています。不動産の贈与受けた場合の贈与税は、現金と違った算出方法で税額を計算します。
不動産の贈与税を算出するにはまず、不動産の価値を知る必要があります。不動産の価値は、以下の5つに分かれます。
- 実勢価格(時価)
- 公示価格・基準地価
- 相続税評価額
- 固定資産税評価額
- 鑑定評価額
この中で贈与税を算出する基準となるものは、相続税評価額です。相続税評価額は土地と建物を別々に評価し算出します。
土地の評価方法は、路線価方式と倍率方式があります。国税庁で路線価が定められているエリアは路線価方式で算出し、それ以外のエリアは倍率方式が適用します。また、建物については固定資産税評価額に1.0を乗じて計算しますので、評価額は固定資産税と同じです。
土地と建物の評価額が分かれば、合算して贈与額を計算します。贈与額から暦年課税などの基礎控除を差し引いて課税対象額を算出し、速算表で 課税対象額に当てはまる税率を適用します。課税対象額にその税率乗じた額から定められている控除額を差し引けば、不動産の贈与税を算出することができるのです。
不動産の相続税の仕組み
相続とは被相続人が亡くなった場合に、被相続人の財産を配偶者や子供などの相続人が引き継ぐことです。被相続人が残した財産を遺産といいます。遺産は、現預金や不動産、車だけではなく、株式や絵画、著作権など多種多様なものがあり、価値があるものは全て遺産とみなされるのです。
不動産を相続した場合は、相続税評価によって不動産の価値を算出した価額に対して相続税が課税されるかどうか判断します。不動産の相続税評価額を算出する方法は先に贈与税で述べた方法と同じです。
不動産の相続税評価額が算出できれば、相続税の基礎控除を差し引いて基礎控除以内であれば非課税となり、基礎控除を超える遺産については相続の課税対象となります。課税対象額が分かれば、速算表で課税対象額に当てはまる税率を探します。課税対象額を法定相続で分割し、税率を乗じた額を合計し、相続税の総額を算出します。相続税総額に対して、実際に相続する価額で税額を計算し定められている控除額を差し引けば、不動産の相続税を算出することができるのです。
不動産の贈与と相続の違いを簡単説明
不動産の贈与と相続の違いの中で大きな違いは税制です。しかし、不動産相続のメリット・デメリットでも解説したように、双方には多種多様な違いがあります。以下で、表にまとめましたので確認してください。
贈与 | 相続 | |
不動産を渡すのに必要な契約/合意 | ・贈与者と受贈者間で贈与契約が発生 | ・被相続人の死亡により相続が発生するので契約はなし
・遺産分割時に相続人全員の合意が必要 |
不動産を渡すのにための遺言書 | ・必要なし | ・自分の意志を伝えるのなら必要で、遺産分割時に最も尊重される。 |
不動産を渡す相手 | ・所有者が自由に相手を選んで贈与できる | ・法定相続人に権利が発生する。
・一定の法定相続人に遺留分が発生する ・遺言書により遺贈者を決めることも可能 |
不動産を渡す時期 | ・いつでも良いが、相続開始3年以内の贈与は無効となる可能性がある | ・被相続人が死亡した日が相続開始日となる |
課税される税金 | ・贈与税
・不動産取得税 ・登録免許税 |
・相続税
・登録免許税 |
相続税税率の速算表
不動産の相続税と贈与税では、税を算出する基になる税法上の時価(不動産評価額)を算出する方法は同じです。ただし、相続税と贈与税では、税率と控除額に大きな差がありますので表を確認してください。
相続税の速算表
法定相続分に応じる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超以上 | 55% | 7,200万円 |
贈与税と相続税の違いは、速算表を使っての計算方法にもあります。相続税は、取得した財産に上記表にある税率を直接乗じて計算しません。先に述べたように、正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた残りの額を求めます。その額に民法に定める相続分によりあん分した額に税率を乗じます。そこで、一旦相続税の総額を算出し、その総額を実際の相続分であん分して、上記表の控除額を差し引いて相続人ごとの税額を算出する仕組みとなっているのです。
複雑で分かりにくい仕組みとなっていますので、詳しく知りたい人は、以下の国税庁ホームページで確認してください。
国税庁:財産を相続したとき
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm
贈与税税率の速算表(一般税率)
贈与税(暦年課税制度)については、一般税率と特例税率に分かれています。一般税率は、特例税率に該当しない贈与税の計算に使用します。
贈与税速算表(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与税については、相続税のような複雑な計算はしません。課税価格に税率を乗じて控除額を差し引いた額が贈与税額となります。
贈与税税率の速算表(特例税率)
贈与税(暦年課税制度)の特例税率とは、直系尊属から20歳以上直系卑属への贈与税の計算に使用します。直系尊属とは、父母や祖父母などのことで、直系卑属とは子や孫のことをさします。
贈与税速算表(特例税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
課税価格は、その年の1月1日から12月31日までに受けた贈与の合計です。贈与税は、基礎控除を上回る贈与があれば、1年毎に申告しなければなりません。
国税庁:贈与税の計算と税率(暦年課税)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
生前贈与を利用した相続税対策は税率だけでは判断しない
贈与税と相続税の速算表を単純に比較すると、贈与税の税率が高いので贈与税のほうが多くの税を納めるように感じられるかもしれません。また、基礎控除も贈与税(暦年課税制度)は、110万円なので、単純に比較すると低いのです。
しかし、生前贈与には、さまざまな特例措置が設けられています。それは、相続税でも同じことがいえます。不動産における贈与税と相続税は、単純な計算だけでは判断できません。どちらがより納税額が低いかを判断するには、贈与税・相続税ともに精通しているプロフェッショナルに相談するとよいでしょう。
贈与税率は相続税率より高いけどお得になる理由
先の項目でも述べましたが、贈与税と相続税の税率を比べると贈与税の税率が高くなります。ただし、配偶者控除や暦年課税制度を上手に利用することで、相続税よりも税金が税額になるケースもあります。生前贈与で、相続税対策をする人たちは、その仕組みをりようしているのです。
不動産の生前贈与でのケース
贈与税の中で、最も一般的な制度は、暦年課税制度です。不動産の贈与を得て、何もしなければ、暦年課税制度が適用される仕組みなっています。ここでは、暦年課税制度での生前贈与で相続税対策ができるケースを紹介します。
例として、相続税評価額が1億5,000万円の土地を子が2人で相続するとします。遺産分割は法定相続に従って1/2ずつです。
・生前贈与を行わなかった場合
課税遺産総額=1億5,000万円-基礎控除4,200万円=1億800万円
相続税の総額=5,400万円(子1人の法定相続分)×30%(税率)×=1620万円
2人なので3,240万円
控除後の相続税=1,620万円-700万円=920万円
2人なので納める相続税の合計は1,840万円となります。
・生前贈与として子にそれぞれ1,000万円分の持分を贈与した場合
贈与税
贈与税=(1,000万円-基礎控除110万円)×30%(税率)-90万円(控除額)=177万円
2人分なので贈与税額354万円
相続税
課税遺産総額=1億3,000万円-基礎控除4,200万円=8,800万円
相続税の総額=4,400万円(子1人の法定相続分)×20%(税率)×=880万円
2人なので1,760万円
控除後の相続税=880万円-200万円=680万円
2人なので納める相続税の合計は1,360万円。
贈与税と合わせて納める税金は1,714万円となります。つまり、126万円の節税効果があったことになります。
このケースでは、暦年課税制度だけを採用しましたが、贈与税のメリットでも紹介した制度が利用できれば、この例よりも大きな相続税対策効果を得ることも可能です。
相続税対策として不動産を贈与する際の注意点
相続税対策として不動産を贈与するに当って注意すべき点があります。生前贈与で不動産を贈与したが、結果的に納める税金が増えたり、トラブルになったりするケースがあるのです。
相続財産が相続税の基礎控除未満の場合
遺産総額が相続税の基礎控除以内であれば、不動産の生前贈与をする必要はありません。相続税の基礎控除によって非課税となるからです。ただし、どうしても贈与したい人がいて、相手が承諾すれば贈与契約は成立します。この場合、法定相続人の遺留分を侵害しないように注意しないと受贈者は、他の相続人から侵害請求されるおそれがあります。
相続開始日から3年以内の生前贈与の場合
生前贈与で不動産さんを贈与しても、贈与者が贈与日から3年以内に亡くなれば、贈与した不動産は相続財産に加算されることになります。贈与税を納めている場合は、相続税から控除されるので、生前贈与は実質的になかったことになるのです。人の生死を予見することはできませんが、相続税対策で生前贈与するのであれば、事前に贈与計画を立てるなどの準備が必要かもしれません。
不動産の贈与と相続はバランスが重要
ここまで不動産の贈与と相続の違いについて、それぞれのメリットとデメリットを紹介し、贈与税と相続税の違いを解説しました。また、生前贈与が相続税対策になるケースと生前贈与の注意点についても説明しています。不動産の生前贈与をお考えの人は、相続税対策には緻密な計算と計画が必要であることをお分かりになったのではないでしょうか。
不動産の生前贈与の計画を立てるなら、プロフェッショナルに相談したり、依頼したりするとよいでしょう。ただし、肩書を持っているからといっても、贈与や相続に精通しているかどうかを確認するようにしましょう。また、この「相続対策のすゝめ」もご活用ください。相続に関するあらゆる記事が網羅されているので、きっと役立つ記事が見つかります。
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