不動産の相続予定で、いざ遺産相続が始まると、手続きが複雑で期限がわからないと心配される人もいるのではないでしょうか。相続は複雑です。不動産を含む遺産相続は、さらに複雑さを増していきます。
相続では、手続きごとに期限が定められていて、延長制度もあるのです。不動産相続独自の手続きもありますので、混乱するかもしれません。
今回は、不動産相続の期限について、期限の短いものから解説します。この記事を読めば、不動産相続は何から始めるのが良いかを知ることができるかもしれません。
相続の始まりは被相続人の死亡
不動産相続に限らず、相続の開始は被相続人の死亡からです。近親者が亡くなることは、非常に残念なことであります。心では故人を忍びながら、頭はクレーバーな状態であることが望ましいでしょう。このような状態をキープすることは難しいので、準備のためにも、不動産相続に関する諸手続きの期限を知ることは、無駄ではありません。
被相続人の死亡=相続の開始日は、あらゆる手続きに関する期限の始まりとなることを認識しておくと必要があります。相続税法においても、相続の開始日は、被相続人が死亡した日と定められているのです。
不動産相続の相続放棄の期限は3ヶ月以内
被相続人が多額の債務を抱えている状態で死亡した場合、被相続人の配偶者や親などの直系尊属、子や孫などの直系卑属に借金の返済を求める債権者がいることは、周知の事実です。
配偶者や直系尊属・直系卑属には、責任を感じて債務(借金)返済に駆けずり回ることが、常識化している時代もありました。中には、夫や子、親の債務のために命を落としたり、大病を患ったりする親族もいます。相続放棄は、多種多様な理由で行われますが、このような事態にならないように講じる手段でもあるのです。
相続放棄とは
相続放棄とは、遺産相続の権利を放棄することです。遺産には、不動産や現預金など相続人にとって利益となるプラス遺産と、借金やローンなど相続人にとって不利益となるマイナス遺産があります。相続放棄を選択すると、その両方を放棄することになり、プラス遺産だけ相続するということはできません。
相続放棄は、相続開始日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きする必要があります。また、なんらかの事情で相続があることを知らなかった場合は、相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きする必要があるのです。相続放棄の手続の流れは以下のようになります。
- 相続放棄の手続きに必要な書類を揃える
・被相続人の戸籍全部事項証明書
・被相続人の住民票または戸籍の附票
・相続放棄をする相続人の戸籍全部事項証明書
・相続放棄申述書
・収入印紙(800円)
・郵便切手 - 相続放棄の手続をする家庭裁判所を確認
相続放棄の手続は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行うことになっています。 - 相続放棄申述書に必要事項を記入
申述書の誤りがあると受理されない可能性があるので慎重に記入しましょう。 - 管轄する家庭裁判所へ書類を提出
- 家庭裁判所から送付される照会書に記入して返信
- 相続放棄申述受理通知書がとどいて完了
相続放棄は、相続開始日または相続を知った日から3ヶ月以内に手続きをするのですが、この3ヶ月間を熟考期間といいます。3ヶ月で相続するか放棄するかの判断は難しいかもしれませんので、予め準備しておくことができれば、備えておきましょう。3ヶ月が過ぎてしまえば、単純承認とみなされて遺産を相続することになります。
限定承認も期限は3ヶ月
限定承認とは、遺産の全体的な調査をして、プラスの遺産から、債権などのマイナス遺産を精算後に残りの遺産があれば、相続人が受け取れる仕組みです。もし、マイナスの遺産が多い場合は、債権などを相続することはありませんが、プラスの遺産も相続できない相続放棄と同じ結果になります。
限定承認には、相続放棄にはない注意点があります。相続人全員が合意して限定承認の手続きを行うことです。また、限定承認にも相続放棄と同様の書類が必要となります。違いは、相続人全員の戸籍全部事項証明書が必要ということです。限定承認の手続きの流れは以下のようになります。
- 限定承認を家庭裁判所に申し立てる
- 除斥広告を行う
官報を通じて、債権者や受遺者に権利の申出とその期間を通知します。申出の期間は2ヶ月以上に設定しなければなりません。 - 申し出期間が過ぎれば、債権者に弁済する
- 受遺者がいる場合は受遺者に弁済する
- 残った相続財産を相続人が受け取る
限定承認についても期限があります。相続開始日または相続を知った日から3ヶ月以内に手続をしなければなりません。この期間をすぎれば、単純承認とみなされる可能性があります。
熟考期間伸長で期限を延長
被相続人の遺産が複雑で整理がつかないなど、熟考期間中に相続に対する決断がつかない場合は、家庭裁判所に熟考期間伸長の申立を行います。申立が認められれば、3ヶ月~6ヶ月程度、熟考期間が延長されます。熟考期間の伸長は、必ず認められるとは限らないので、できれば3ヶ月の期限内に決断するようにしましょう。
不動産相続の準確定申告は4ヶ月以内
被相続人が、年度の途中で亡くなった場合の、所得税や地方税を含む税金をどのように扱えばよいのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。相続の如何にかかわらず、課税対象の所得や財産があったのであれば、亡くなった人の税金も誰かが申告し、納めなければならないのです。
準確定申告とは
準確定申告とは、被相続人が確定申告をしなければならない状態で亡くなった場合に、相続人たちが代わりに確定申告をすることを指します。具体的には、被相続人が個人事業を営んでいたり、給与所得者で2,000万円を超える収入があったりした場合です。また、医療費の控除を受けたい場合でも準確定申告の必要があります。
準確定申告には期限があります。この期限は明確に決まっていて、相続開始日から4ヶ月以内となっています。 相続放棄や限定承認の場合と違い熟考期間はありませんので注意が必要です。また、準確定申告の内容によっては、所得税が課税される場合もあります。所得税の納付期限も、準確定申告と同じく4ヶ月となっています。
不動産相続の準確定申告
不動産相続において、準確定申告の必要がある場合は、被相続人が賃貸事業などの個人事業で営んでいたり、その事業を継承したりしたケースがあげられます。4か月の期限内に準確定申告し、税金を納付しなければ、無申告加算税や延滞税が加算される可能性があります。放置しておけば差押予告通知が届く場合もあるので、期限を守るようにしましょう。
相続税申告の期限は10ヶ月以内
不動産相続にかかわる税金として最も大きなものは相続税です。相続税の申告納付期限は相続開始日から10ヶ月以内と定まっています。相続税は、不動産を相続した人すべてに課税されるわけではありません。ここでは、相続税を申告しなければならないケース、相続税の申告納付期限に間に合わない場合などを含めて解説します。
相続税を申告しなければならないケース
相続税は、不動産を含む被相続人の遺産総額が、基礎控除を超えた場合に課税される仕組みとなっています。つまり、遺産総額が基礎控除以内であれば相続税を申告し納税する義務は生じません。基礎控除は、基本的に認められている税金控除の金額のことです。相続税の場合は以下のように計算します。
相続税の基礎控除=3,000万円+法定相続人の数×600万円
相続人が1人であれば基礎控除は3,600万円となります。法定相続人が4人いる場合は、基礎控除は5,400万円です。遺言書や遺産分割で、相続人と認められた人の場合は、法定相続人ではないので人数に加算されません。相続税の申告に関しては、下記の記事で詳細に解説していますので参考にしてください。
税務署で自ら遺産相続申告をする方法とは?税理士との違いも
https://sozoku-susume.com/2020/06/26/tax-office/
遺産分割などで期限に間に合わない場合
相続税の申告と納付の期限は、遺産相続開始日から10ヶ月以内となっています。しかし、この期限内に間に合わない場合もあるのです。遺産分割協議は、全ての相続人が合意しなければ、遺産分割を決定することはできません。多数決で、決めることができないのです。結果的に、遺産分割協議が長引くことになりがちとなります。
相続税の申告期限に間に合わないからといっても税務署は、相続税の申告期限を待ってくれることはありません。法定相続分に応じて相続税を計算し、納税することになります。ただし、申告期限後3年以内の分割見込書に必要事項を記入し申告書とともに提出しておけば、3年の期限内なら、遺産分割協議の内容通りに相続税の配分を変更することが可能です。
配分を変更するには、相続税の更正請求という手続きを行う必要があります。この手続きを行えば、遺産分割協議の内容通りの相続分となりますので、相続税を払いすぎている相続人は、相続税の還付を受けることができます。ただし、不足している相続人は追加で納税することになりますので、納税分の現金を準備しておきましょう。
無申告扱いが適用された場合
相続税の申告・納税期限を過ぎると無申告扱いされる可能性があります。無申告とは、納税の義務を逃れるため申告しないことです。税の公平性を保つためにも、見逃される可能性は極めて低くなっています。
無申告とみなされると以下の3つのペナルティを受けることになります。
延滞税
相続税の納付が遅れた場合に課される税金で、利息と同じような意味合いがあります。納税すべき税額に対して以下の表にある年率が加算されます。
計算期間 | 年率(原則) | 適用 |
相続税納付期限から2ヶ月以内 | 年7.3% | いずれか低い割合を適用 ・年率7.3% ・特定基準割合※+1% |
2ヶ月を経過した場合 | 年14.6% | いずれか低い割合を適用
・年率14.6% ・特定基準割合※+7.3% |
※特例基準割合とは、各年の前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合です。
無申告加算税
相続開始日から10ヶ月以内に、相続税を申告しなかった場合に課税される税金です。基本的には以下のように加算されます。
相続税の課税額 | 税率 |
50万円まで | 15% |
50万円超 | 20% |
重加算税
あってはならないことですが、相続税の課税を免れるために遺産を隠蔽し、申告を行わなかった場合などの悪質な税金逃れに対しては、重加算税が加算されます。重加算税の税率は、相続税額に対して40%です。重加算税が適用されると無申告加算税が加算されることはありません。
過少申告加算税
期限内に申告したが、申告内容に誤りがあった場合には修正申告を行い追加文の相続税を納めなければなりません。通常は延滞税と過少申告加算税が加算されますが、悪質な場合には重加算税の対象となります。その場合の税率は35%です。過少申告加算税の年率は以下の表でご確認ください。
相続税の課税額 | 税率 |
50万円まで | 10% |
50万円超 | 25% |
税務署から指摘を受ける前に、自ら間違いに気付いて自主的に修正申告を行った場合は、過少申告加算税は加算されません。
相続税は、申告の期限を守らなかったり、偽りの申告をしたりした場合は、ペナルティが加算される制度となっていますので、期限内に正確な申告をするように心がけましょう。
相続税の納税も10ヶ月以内
相続税の納税期限は、相続税申告と同じく相続開始日から10ヶ月以内となっています。相続税の納税で注意したいのは、基本的に現金一括払いであるということです。相続税に相当する以上の現金を用意していなければ、納税が難しい状態となります。納税期限に間に合わなければ、先ほど説明した延滞税が加算されるのです。
期限内に納税できない場合
不動産相続においては、期限内の相続税納付に注意を払わなければなりません。被相続人の遺産の大半が、換金性の低い不動産であれば、相続税を申告しても納税することが難しくなります。不動産は、相続税対象財産の中でも高額な財産ですので、軽減措置があったとしても、比較的に高額な相続税を納めなければならないケースが多いのです。
このような場合はまず、相続税の延納制度を利用します。延納期間に不動産を売却し現金を用意できれば、相続税を納めることが可能となります。しかし、延納しても現金を準備することができない場合は、物納制度によって納税します。つまり、相続した不動産をそのまま納税することになるのです。
相続した不動産がそのまま納税対象となるようでは、遺産を相続した意味がありません。相続税の納税に足りる程度の現預金は、被相続人と話し合って準備するようにしておきましょう。
遺留分の請求期限は原則1年
法定相続人には、遺産を相続する権利があります。この権利が何らかの形で侵害されて、相続できる遺産を得ることができなかった場合には、侵害された分の遺産を請求する権利を得ます。これを遺留分侵害額請求権といいます。
遺留分と期限
遺留分とは、法定相続人に認められている最低限の遺産の取得分です。遺留分が侵害されるケースとして多いのは、遺贈や生前贈与が起こったときとなります。遺言書によって、特定の人物にすべての遺産を相続させるなどの偏った遺産分割が行われた場合。また、生前贈与により、第三者に被相続人の財産の大半が贈与されたケースなどは、遺留分が侵害されている可能性が高くなります。
不動産相続では、遺留分が侵害されるケースが増えます。不動産は分割しにくい財産です。共有分割は、デメリットが多いので避けるほうが良いとされています。そこで、被相続人が遺言書や生前相続で、特定の相続人に相続させたり贈与したりするようになるのです。
このような場合に相続人に与えられている権利を行使して、遺留分を請求することが可能となるのですが、遺留分侵害額請求権には期限がありますので注意しましょう。
- 相続開始または、遺留分が侵害された贈与を知った日から1年以内
- 相続開始日から10年以内
遺留分の請求方法
遺留分侵害額請求権の行使は、相続人の自由判断ですので、侵害されているからといっても納得済みなら行使する必要はありません。しかし、遺留分を請求し引き継ぐべき遺産を取り戻すには、この権利を行使することになります。
遺留分侵害額請求権の行使方法は、遺留分を侵害して遺産を受け取っている相手に請求するだけです。しかし、それだけで問題が解決することは、珍しいケースとなります。まず、請求したことを残すために内容証明で請求の意思を伝えましょう。
素直に請求分が支払われれば問題ないのですが、トラブルに発展する可能性があれば、すぐに弁護士などのプロフェッショナルに相談・依頼しましょう。遺留分が侵害されるようなケースでは、具体的な侵害分もあやふやな場合も多いので、相続に強いプロに任せることも賢明な方法です。
遺産分割には期限がない
先程、遺産分割協議がまとまらないため、相続税の申告期限に間に合わないことがあると説明しました。その大きな理由の1つが、遺産分割に期限がないことです。申告期限に間に合わなければ、法定相続に従って、一旦は申告・納税を行いますが、肝心の遺産分割協議に期限がないので、相続人によっては、引き伸ばせるだけ、引き伸ばすこともあり得るのです。
遺産分割を引き伸ばすデメリット
遺産分割を引き伸ばすメリットは根本的にありません。よほどのことがない限り、円満な遺産分割へと進めていくことは、被相続人に対する相続人の役割でもあるからです。しかし、親族間の感情がこじれて遺産分割が円満に進まいことケースが多いことも事実です。
メリットはありませんが、遺産分割が、引き伸ばされるデメリットは大いにあります。まず、相続税の申告と納付は、期限とともに法定相続どおりに行わなければなりません。しかし、実際に遺産を分割し相続しているわけではないので、相続していない遺産の相続税を納めなければならないのです。
不動産の名義変更ができないので、亡くなった被相続人に対して固定資産税などの納付書がとどきます。現預金も分けることができない状態となります。要するに、遺産分割が成立しなければ、被相続人の財産を有効に活用できないだけでなく、相続税だけ納なければならないということになります。
相続登記にも期限がない
不動産相続には、相続登記が必要となりますが、相続登記は期限もなければ、ペナルティもありません。ここでは、相続登記の概要と相続登記しないデメリットを説明します。
相続登記とは
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合に、その不動産を相続した人が名義の変更を行うことです。相続登記することで、相続した不動産が相続人のものであることを公に証明することになります。
相続登記を引き伸ばすデメリット
相続登記には、期限や罰則はありませんが、放置することで多くのデメリットを生じることがあります。
- 共同相続人がいる場合勝手に相続登記をされる
この相続登記により第三者は不動産の所有者は共同相続人のみと判断される可能性があります。 - 2度3度の相続が起こり手続きは複雑化する
相続人が相続登記を放置している間に、相続人自身が死亡し2度目の相続が起こる可能性があります。また、2度目の相続人たちも相続登記を放置することによって、3度目の相続が起こり手続きは複雑化する可能性があるのです。 - 相続登記を放置することによって不動産の売買が成立しない。
相続した不動産の相続登記を放置することによって、いざ不動産を売却しようとしても、所有者である証拠がないので売却できない可能性がある。
相続登記は、相続税の申告などに比べて複雑な手続きではありません。また、相続登記のプロフェッショナルである司法書士に任せても多大な費用がかかるわけでもないのです。相続登記に課税される登録免許税も0.4%ですので、相続後は速やかに相続登記を済ませておくことをおすすめします。
不動産相続の手続きは早めがおすすめ
不動産相続には、いくつもの期限があり、先延ばしにすればペナルティを課せられたり、相続人が不利な状況に陥ったりすることを解説してきました。相続の手続きは事前に準備して早めに完了させることをおすすめします。
しかし、不動産相続の手続きは、どれも複雑なうえに書類も多いので、個人で済ますことは難しいかもしれません。そのような場合は、プロフェショナルに相談・依頼すると良いでしょう。また、この「相続対策のすゝめ」を活用してください。このサイトは、相続に関する専門サイトですので、お役に立てる記事がきっと見つかるはずです。
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