相続税の増税後、生前贈与が相続税の節税対策になると注目を集めています。不動産においても、生前贈与が相続税対策の有効な手段とされているのです。
では、実際にどのような効果があるのでしょうか。今回は、生前贈与の税金やメリットを解説します。この記事を読めば、不動産の生前贈与に対する知識を深めることができますので、ぜひ最後までお読みください。
不動産の生前贈与とは
不動産の生前贈与は、相続税対策として注目を浴びていますが、基本となる生前贈与についての基礎知識がなければ適切な相続税対策が難しくなります。ここでは、生前贈与の基礎知識と相続と生前贈与の違いについて解説します。
生前贈与の基礎知識
生前贈与とは、その言葉が表す通り、財産を所有している人が生きている間に、財産を贈与する行為です。贈与の対象となる財産は、現預金だけではなく、株式や不動産絵画や骨董品など価値のあるものから価値のないものまでさまざまなものです。
一定以上の価値がある財産を贈与した場合は、贈与税が課税される仕組みとなっています。贈与は、法律上では契約となるため、価値のある財産の贈与については、贈与契約書を交わしておくことをおすすめします。
相続と生前贈与の違い
相続と生前贈与の大きな違いは、財産の所有者が生存しているか死亡したかです。生存中に贈与をすれば、財産の所有者は贈与者と呼ばれ、死亡後に相続する場合は被相続人と呼ばれます。生前贈与の場合に課税される税金は贈与税であり、相続の場合に課税される税金は相続税です。
それぞれに特徴があり、税率や特例制度などに大きく変わります。生前贈与する場合は、贈与税と相続税の計算方法や適用される特例制度などをしっかり把握して行うようにしましょう。
不動産の生前贈与でかかる税金
不動産の生前贈与では、贈与税以外に納めなければいけない税金があります。1つは不動産取得税で、もう1つは登録免許税です。ここでは、不動産贈与における税金を紹介し、税金の計算方法を解説します。
贈与税
贈与税は、個人間の贈与に課税される税金で、1年間の贈与合計が基礎控除(暦年課税制度)の110万円を超えた場合に課税されます。受贈者が申告し納税する税制度です。不動産における贈与税も、基礎控除を超えた贈与に対して課税されます。
贈与税は、原則として時価に課税されることになっていますが、不動産の場合は時価が分かりにくいので、法に定められた評価方法で価額(時価)を算出します。不動産に限らず、価値あるものは価額を算出し、贈与合計が基礎控除を超えた場合は、申告と納税の義務が生じるのです。
不動産贈与での贈与税の計算方法
贈与税は、一般的に暦年課税制度を適用します。暦年課税制度とは、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額の合計が、110万円を超えたときに課税される制度です。暦年課税制度での不動産の贈与税計算方法は下記の計算式で算出されます。
贈与税=(1年間の贈与額合計-基礎控除110万円)×税率-控除
不動産の贈与契約が成立した場合は、不動産の評価額が贈与額です。不動産の評価方法は、土地と建物に分かれていますので、両方を贈与された場合は、個別に評価し計算することになります。
不動産取得税
不動産取得税は、不動産を取得した場合に課税される税金です。取得方法は、不動産の売買や贈与、交換、建築などとなります。ちなみに、相続による不動産取得の場合は、不動産取得税は課税されません。
不動産取得税には免税点があるため、土地は10万円未満、家屋を建築した場合は23万円未満、建築以外で家屋を取得した場合は12万円未満、これらのケースは不動産取得税の課税対象ではありません。
不動産取得税の計算方法
不動産取得税の計算方法は、固定資産税評価額がベースとなります。固定資産税評価額に4%の税率を乗じた額が不動産取得税の納税額です。なお、平成18年4月2日から令和3年3月31日までの間の不動産取得については税率が3%となります。
登録免除税
登録免許税は、不動産の所有権を移転登記する際に課税される税金のことです。贈与の場合も、所有権を移転登記するため課税対象となります。登録免許税は、登記を行う原因によって税率が異なります。不動産の贈与や売買においては、税率が2%です。相続による相続登記については、税率が0.4%と定められています。
登録免許税の計算方法
登録免許税の計算においても、固定資産税評価額がベースとなります。固定資産税評価額に2%の税率を乗じた額が登録免許税の納税額です。
不動産を生前贈与するメリットとは
不動産の生前贈与が注目を浴びているのは多くのメリットがあるからです。ここでは、不動産の生前贈与のメリットについて解説を進めます。
相続税の節税効果を得られる
不動産の生前贈与においては、相続税を節税できる効果を得られる場合があります。不動産の評価額を含めた遺産総額が、相続税の基礎控除内なら生前贈与による節税効果は期待できません。しかし、不動産の割合が多く、遺産総額が相続税の基礎控除を上回るようであれば、不動産の生前贈与により節税効果を得られる可能性が高まります。
下記の記事では、不動産の生前贈与による節税効果を実際に検証していますので、ぜひ参考にしてください。
不動産の生前贈与と贈与税の仕組みとは?相続対策の効果も検証
http://sozoku-susume.com/2020/12/18/gift-tax-system/
贈与税の節税制度を利用できる
不動産の生前贈与では、贈与税を節税できる控除を受けることができます。不動産の贈与税の控除制度は以下のようになります。
- 暦年課税制度
- 配偶者からの贈与の特例
- 相続時精算課税制度
- 住宅取得の際の贈与税の特例
これらの制度を利用すれば、贈与税の節税対策になります。また、相続税の節税対策も可能な場合もあるのです。
相続人を選べる
不動産の生前贈与を利用すれば、法定相続人以外にも不動産を譲り渡すことができます。相続となれば、法定相続人以外に不動産を相続させるためには、遺言書が必要ですが、遺産分割協議や遺留分を考慮した遺言書を作成する必要があります。しかし、生前贈与なら、そのような面倒な手間をかけずに所有者が自由に不動産を贈与することが可能です。
贈与の時期を自由に決められる
不動産の生前贈与については、時期が決められていませんので、所有者が自由に時期を選んで贈与できます。例えば、将来的に資産価値が上がると想定される不動産であれば、資産価値が低い間に生前贈与することで、贈与税相続税どちらであっても大きな節税効果を得ることが可能です。ただし、遺産相続開始日から3年前までの贈与については、不動産を含むどのような財産であっても相続とみなされます。
相続トラブルを減らせる
不動産の生前贈与では、受贈者を自由に選べることができて、贈与する時期も自由に選べます。また、生前贈与を検討することで、将来の相続を見越した財産分割を検討することになるため、相続のトラブルを事前に防ぐことが可能となります。
不動産収益を受贈者に
賃貸物件などの収益物件を生前贈与することで、受贈者に不動産収益を引き継がすことができます。 不動産そのものには、贈与税が課税されますが、不動産収益については、贈与税も相続税も課税されません。
収益物件を生前贈与せずに所有していると、所有者の預貯金が増える可能性があり、増えた預貯金に対しては、遺産相続時に相続税となり課税される可能性があがります。収益物件を早めに生前贈与することで、不動産収益は受贈者のとなるため、現預金に関する税金の節税につながります。
不動産を生前贈与するデメリットとは
不動産を生前贈与するメリットはたくさんありますが、逆に不動産の生前贈与でデメリットが生じる場合もあります。ここでは、不動産の生前贈与に関するデメリットについて解説します。
相続税より税が高額になるケースもある
贈与税と相続税では、税率や基礎控除が大幅に違います。贈与税の基礎控除は暦年課税制度で毎年110万円です。一方、相続税の基礎控除は、3,000万円に法定相続人1人に対して600万円が加算されます。つまり、相続税の基礎控除は最低でも3,600万円あることになります。
贈与税と相続税では税率にも大きな違いがあります。以下に贈与税と相続税の速算表を載せていますので確認してください。
贈与税速算表
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
相続税速算表
課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この表でもわかるように、課税価格に対しての税率は贈与税のほうが高く設定されています。単純に生前贈与すると相続税の税額を超える贈与税を納めることになりますので、贈与税、相続税共によく計算して賢明な判断で生前贈与するとよいでしょう。
不動産取得税がかかる
先程解説しましたが、不動産の生前贈与では不動産取得税が課税されます。しかし、相続であれば不動産取得税は課税されません。
登録免許税の税率が高い
不動産の生前贈与の登録免許税は、固定資産税評価額の2%です。不動産相続時の相続登記の場合は、固定資産税評価額の0.4%となります。つまり、相続よりも生前贈与の方が高い税率ということになります。
このように、不動産の生前贈与では、贈与税の税率が相続税の税率よりも高く、不動産取得税が課税され、登録免許税の税率も高くなります。税金だけで単純計算すれば、不動産の生前贈与のメリットはないと思われる人もいるかもしれませんが、制度や特例などをうまく活用すれば、不動産の生前贈与は相続税対策になり得るのです。
小規模宅等の特例の適用外になることもある
相続税では「小規模宅地等の特例」により、相続する宅地の評価額を最大8割減額することができる制度があります。不動産の生前贈与時に相続時精算課税制度を適用した場合や生前贈与から3年以内に贈与者が死亡した場合には、生前贈与は無効となり相続の対象となるのです。このケースでは、小規模宅地等の特例は適用されないため、通常よりも相続税額が増える可能性があります。
不動産の生前贈与の流れ
不動産を生前贈与する場合には、契約書の作成や名義変更など煩雑な手続きがあります。ここでは、生前贈与の流れから、手続きの方法やポイントを解説します。
不動産贈与契約書の作成
贈与は民法で定める契約です。不動産の生前贈与においても契約とみなされるため、実際の生前贈与では不動産贈与契約書を作成しましょう。口約束でも契約は成立しますが、親族間など親しい間柄であっても後々のトラブルになる可能性もあります。
過度な節税対策とみなされると税務署が不動産贈与を否認する場合も考えられますので、できる限り不動産贈与契約書を作成することをおすすめします。
不動産贈与契約書には下記の内容が記載されているか確認しましょう。
- 贈与者と受贈者の指名
- 対象となる不動産の所在地など
- 登記費用の負担者
不動産の生前贈与契約は、贈与者受贈者の承認がなければ契約は成立しません。不動産贈与契約書作成の際は、必ず直筆で署名する必要があります。
不動産の名義変更手続き
不動産の生前贈与契約が完了したら、所有権移転登記の手続きを行います。不動産贈与契約書を取り交わして、取得した不動産の所有者であることを証明するための手続きです。
この手続を行わなくても罰則や罰金はありませんが、手続きをしておかないと自分の所有物である証明ができないため、売却や賃貸し、不動産担保融資など不動産を活用することができません。
所有権移転登記に必要な書類は以下のようになります
登記申請書
不動産の登記識別情報通知
贈与者の印鑑証明
受贈者の住民票
不動産の固定資産評価証明書
不動産贈与契約書
所有権移転登記時には、登録免許税を納付しなければなりません。固定資産税評価額の2%分の金額の収入印紙を購入し、登記申請書に貼り付けて法務局に提出します。
不動産取得税を申告する
不動産の課税価格とは、総務大臣が定めた固定資産評価基準により評価された価格であり、新・増築家屋等を除いて、固定資産税評価額を用います。不動産の購入価格や建築工事費ではありません。不動産の贈与を受けた場合も、固定資産税評価額が課税価格となります。
不動産取得税は地方税です。東京都の場合は、取得した日から30日以内、大阪府の場合は20日以内(各都道府県よって違いがありますので確認が必要)に、不動産の所在地を所管する各都道府県事務所に申告します。未登記物件を取得した場合も申告が必要となります。申請後は、各都道府県から送付された納税通知書に記載されている納付期限までに納めなければなりません。
贈与税を申告納税する
贈与税は、贈与を受けた翌年の確定申告期限内に贈与税を申告し、納税する仕組みです。仮に税金がかからない基礎控除を以内の贈与であっても、申告しておくほうが無難です。申告と納税は、申告する人の住所地を所管する税務署で行います。しかし。近年はe-Taxなどを利用することが推進されていますので、ITに抵抗がない人はe-Taxを利用すると手間を省くことができるでしょう。
生前贈与は賢く計算してから
相続対策だからといって、安易に不動産を生前贈与することは避けるほうが無難です。生前贈与には多くのメリットがありますが、反対にデメリットもあるため、相続税や贈与税などのバランスを考慮した対策が望まれます。
しかし、生前贈与のメリットは節税効果だけではないので、節税だけにとらわれることがない賢明な生前贈与が賢明な対策といえるでしょう。
相続や生前贈与でなど、相続対策で悩みがあるようでしたら、この「相続対策のすゝめ」をご活用ください。相続に関するあらゆる記事を掲載していますので、きっとお役に立てます。
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