不動産の生前贈与と贈与税の仕組みとは?相続対策の効果も検証

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不動産を所持している人の中で、相続対策として不動産の生前贈与を考えられている人は多いのではないでしょうか。しかし、不動産の生前贈与に対して、関わりの深い贈与税の仕組みは複雑です。また、実際に生前贈与が、どれだけの相続対策効果をもたらすかも分かりにくい仕組みとなっています。

今回は、不動産の生前贈与と贈与税の仕組みを解説し、実際にどれだけの相続対策効果があるかを検証します。この記事を読めば、生前贈与の効果についての知識を深めることができるでしょう。

 

生前贈与と贈与税の関係

生前贈与と贈与税の関係

生前贈与とは、生存している人から別の人へと財産を無償で渡すことです。生前贈与を行う人を「贈与者」受け取る人を「受贈者」といいます。生前贈与は、贈与者が法定相続人以外にも自由に贈与できる仕組みとなっているのがメリットの1つです。

また、 相続税の節税対策が目的となっている生前贈与も多く見かけられます。 不動産の生前贈与の場合は、その傾向が顕著に現れているのです。しかし、生前贈与は、贈与税が課税されますので、相続税と贈与税を試算して、相続対策の効果がプラスにならなければ生前贈与を行う意味はありません。

贈与税とは、個人間の贈与のみに課税される税金です。贈与税の特徴は、相続税と比較すると税率が高い点です。また、贈与税の性質として相続税を補完する意味合いがありますので、税率は高くなる傾向となります。

また、相続税の基礎控除と比べて、贈与税の基礎控除は低く設定されています。つまり課税対象の範囲が広がるのです。不動産は、代表的な高額財産ですので、贈与税が課税される確率が他の財産と比べても高くなる仕組みとなっています。不動産の生前贈与の基本やメリット・デメリットなどは下記の記事を参考にしてください。

「不動産の生前贈与とは?基本からメリット・デメリットまで解説」

http://sozoku-susume.com/2020/11/18/what-is-a-gift-during-life/

 

不動産の生前贈与に課税される贈与税

不動産の生前贈与に課税される贈与税

不動産の生前贈与では、基本的に贈与税が課税されます。課税制度や特例によって贈与額が控除されるケースでは、非課税になったり税額が軽減されたりする場合もあるので、税制の知識を深めておくほうが損はありません。

 

不動産の贈与税の仕組み

不動産の贈与税は、贈与対象の不動産の時価に対して課税される仕組みとなっています。不動産の時価とは、市場での価値や実際に売買される価格とは別に、法律で定められている方式で計算された価額があります。

贈与税は、法律で定められた方式で計算された、不動産の時価(価額)に対して課税されます。この計算方式は、相続税で不動産の価額を算出する場合と同じで、土地と建物は別々に算出することが定められています。土地は、以下の2つの方式が主に用いられます。

路線価方式:路線価方式は路線価が定められている地域の評価方法です。市街地や住宅地などの価額を評価算出する場合は、主にこの方式が用いられています。路線価は、国税庁ホームページの路線価図・評価倍率表で確認できます。

倍率方式:倍率方式は、路線価が定められていないエリアを評価する方法です。倍率方式における土地の評価額は、その土地の固定資産税評価額に相当します。 倍率は、国税庁ホームページの路線価図・評価倍率表で確認可能です。

建物算出方法は、固定資産税評価額と同じです。ただし、賃貸物件であったり事業用に使われていたりする場合には、一定割合を減額する特例がありますので、注意が必要となります。

参考HP

財産評価基準書 路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm

 

不動産贈与税の計算方法(暦年課税)

不動産の贈与税を計算する方法として、暦年課税制度が一般的です。ここでは、暦年課税制度での不動産贈与税の計算方法の解説を進めます。

暦年課税制度を選択すると、基礎控除が年間110万円ですので、不動産贈与となると贈与税の課税対象となる確率は非常に高くなります。110万円以下の不動産は、稀にしか存在しません。

不動産の贈与税を計算するには、 まず、該当する年の1月1日から12月31日までの1年間に、贈与を受けた財産の価額を合計する必要があります。仮に1年間に不動産贈与を以外の贈与を受けていないとすると計算式は以下のようになります。

暦年課税制度による贈与税額=(不動産評価額-基礎控除)×税率-控除額

暦年課税制度による税率と控除額は一般財産贈与用と特例贈与財産用に分かれています。詳細は下記の表で確認してください。

一般贈与財産用 特例贈与財産用
課税価格 税率 控除額 課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% 200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円 400万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円 600万円以下 20% 30万円
600万円以下 30% 65万円 1,000万円以下 30% 90万円
1,000万円以下 40% 125万円 1,500万円以下 40% 195万円
1,500万円以下 45% 175万円 3,000万円以下 45% 265万円
3,000万円以下 50% 250万円 4,500万円以下 50% 415万円
3,000万円超 55% 400万円 4,500万円超 55% 640万円

※課税価格とは、基礎控除を差し引いた価額です。

特例贈与財産とは、直系尊属からその年の1月1日において20歳以上の子や孫などへの贈与税の計算に使用できる特例です。また、一般贈与財産とは、特例贈与財産に該当しない場合に適用される税率と控除額になります。

 

不動産贈与の贈与税軽減措置の仕組み

不動産贈与の贈与税軽減措置の仕組み

贈与税には、税の軽減制度が設けられて、その中には、不動産贈与にも当てはまるものがあります。ここでは、このような制度をどのように利用すれば、不動産贈与の贈与税を軽減できるのかの仕組みについて説明します。

 

暦年課税制度の仕組み

暦年課税制度は、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額から、毎年110万円の基礎控除を活用できる仕組みとなっています。現金であれば、110万円未満の贈与を10年間毎年行えば約1,100万円の贈与が非課税となるのです。

1,100万円の贈与を1度に行えば、基礎控除は110万円なので、贈与額990万円に対して課税されることになります。税率は40%(一般贈与財産)で、控除は125万円となるので、271万円の贈与税が課税されるのです。

10年もの歳月を要しますが、毎年コツコツ贈与を続けることで、大きな節税効果を得ることが可能です。しかし、現金と違って不動産を毎年コツコツ贈与することは、難しいことになります。

不動産贈与で、このような方法を取り込むには、不動産を売却して現金化することです。その現金を何年かに分けて贈与すれば、上記のような節税効果を得ることができます。

 

相続時精算課税制度の仕組み

相続時精算課税制度では、2,500万円までの贈与が非課税となり、2,500万円を超えた贈与には、一律20%の贈与税が課税されます。また、相続時に相続時精算課税制度で受けた贈与を、相続時に精算する必要がある仕組みですので、節税効果はあまり期待できません。

それでも、この制度を利用すれば、被相続人が健在の間に、大きな財産を移転できる大きなメリットがあります。また、被相続人の財産が相続税の基礎控除内かもしくは、小額の納税で済むのであれば、早い時点で若い世代に財産を譲ることで、有効活用できる可能性が広がるでしょう。

不動産贈与では、暦年課税制度を選択して、多額の贈与税を納税するのであれば、相続時精算課税制度を選択することで、節税効果が期待できるケースがあります。

例として、路線価方式によって課税評価額が2,000万円の土地で贈与税を算出してみます。暦年課税制度の特例贈与財産で算出した場合は、税額が566万円になります。しかし相続時精算課税制度を選択することで、相続までの間は多額の贈与税を納める必要はありません。

また、相続時の清算において、被相続人の遺産総額が相続時精算課税制度の贈与部分を加えても、相続税の基礎控除内であれば非課税となります。課税されるケースでも、相続税の基礎控除は3,000万円に相続人1人当たり600万円が加算されますので、暦年課税制度における贈与税の額面を下回る可能性が高くなるのです。

 

住宅取得資金贈与の仕組み

住宅取得資金の直系尊属からの贈与については、暦年課税制度とは別に、非課税限度額が定められています。この制度は税制改正によって延長が繰り返されている状況で、現時点では、令和3年12月31日までとなっています。

非課税限度額は、住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日や住宅の性能によって異なりますので、以下の表を確認してください。

①消費税等の税率が10%である場合の非課税限度額

住宅用家屋の契約締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成31年4月1日~令和2年3月31日 3,000万円 2,500万円
令和2年4月1日~令和3年3月31日 1,500万円 1,000万円
令和3年4月1日~令和3年12月31日 1,200万円 700万円

①以外の場合の非課税限度額

住宅用家屋の契約締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
~平成27年12月31日 1,500万円 1,000万円
平成28年1月1日~令和2年3月31日 1,200万円 700万円
令和2年4月1日~令和3年3月31日 1,000万円 500万円
令和3年4月1日~令和3年12月31日 800万円 300万円

上記の表にある省エネ等住宅とは、省エネ等基準に適合する住宅用の家屋をさします。住宅性能証明書などを贈与税の申告書に添付する必要があります。

国税庁:直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm

 

夫婦間での居住用不動産の贈与

夫婦間の居住用不動産の贈与については、特例として暦年課税制度による基礎控除以外に、最高2,000万円までの配偶者控除を受けることが可能です。 ただし、この特例の適用を受ける場合には、下記の要件を満たす必要があります。

  • 婚姻期間が20年以上経過した後の贈与であること
  • 配偶者からの贈与財産の使用目的が、居住用の不動産又は、居住用不動産取得であること
  • 受贈者が、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産に住んでいて、引き続き住む見込みであること

居住用不動産の配偶者控除の適用を受けるためには、贈与税申告の手続きも必要となります。その際には以下の書類が必要となります。

  • 財産の贈与を受けた日から10日以上経過した日に作成された、戸籍全部事項証明書または戸籍個人事項証明書
  • 財産の贈与を受けた日から10日以上経過した日に作成された戸籍の附票の写し
  • 居住用不動産の登記事項証明書や居住用不動産を取得したことを証明する書類

※現金などではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、上記の書類のほかに該当する居住用不動産を評価するための書類が必要となります。具体的には固定資産税評価証明書などです。

日本人の平均寿命が伸びていて、男性と女性では女性の方が長生きする傾向となっています。夫が先に無くなる可能性が高いことは事実ですので、機会をとらえて居住用不動産を妻に譲渡しておけば、相続時の争いの種が減ることになるでしょう。

 

生前贈与の具体的な効果を検証

生前贈与の具体的な効果を検証

次に、不動産を生前贈与することによって、どのような相続税対策の効果があるのかを検証していきます。ここでは、生前贈与を利用しなかった場合の相続税を算出し、贈与税の制度や特例を利用したケースと比較検証します。

 

生前贈与を利用しなかった場合の相続税

まず、生前贈与を利用せず、法定相続どおりに相続したとする相続税を算出します。

被相続人は男性で、妻と実子が2人とします。財産は、不動産にのみで、土地は路線価方式で算出した場合5,000万円で、建物の固定資産税評価額は、2,000万円です。

現実では、稀なケースですが、不動産における相続効果を算出するため、現預金などはなしとしました。このケースでの遺産総額は、土地と建物を合わせて7,000万円となります。相続税の基礎控除は、3,000万円に法定相続人1人あたり600万です。この例では、法定相続人が3人なので基礎控除は下記のようになります。

相続税基礎控除=3,000万円+1,800万円=4,800万円

課税対象遺産総額は、遺産総額から基礎控除を差し引いた金額になりますので2,200万円です。法定相続分であん分すると、それぞれの法定相続税額は下記のようになります。

妻=2,200万円×50%=1,100万円

子1人あたり=2,200万円×25%=550万円

妻の仮定相続税は、1,100万円ですので税率は15%が適用されて165万円。子の仮定相続税は、税率が10%なので1人あたり55万円で相続税の総額は275万円となります。

この相続税総額を実際の相続分であん分すると、妻は50%ですので137万5,000円で、子は1人あたり68万7,500円となります。実際に納める税金は、妻には配偶者控除が適用されるので非課税となります。子は、1,000万円以下の相続額ですので、控除はありません。つまり、実際に納める相続税総額は137万5,000円となるのです。

通常の遺産相続では、現預金などの財産もあるので、相続税の計算はさらに複雑になります。また、遺産分割についても、相続人が複数人となれば遺産分割協議を行い、相続人全員の合意を得た遺産分割協議書がなければ分割することさえできません。

この例では、妻の相続税が配偶者控除により、非課税となっています。しかし、配偶者控除の適用を受けるには相続税の申告が必要となります。

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

 

生前贈与を利用したケース

上記の例では、遺産総額7,000万円での実際に納める相続税総額は137万5,000円でした。ここでは、生前贈与を利用した場合の税額を算出し効果を検証します。

 

夫婦間での居住用不動産の贈与の特例を利用した場合

建物を妻に贈与した場合の贈与税と相続税の税額を求めます。建物の評価額は2,000万円です。夫婦間での居住用不動産の贈与の特例の控除が2,000万円、暦年課税制度による基礎控除が110万円ですので、最大控除額は2,110万円となります。

建物の価額よりも控除額が上回っているので、妻の贈与税は非課税です。

妻への建物譲渡により、夫の遺産は土地のみとなり、遺産総額は5,000万円となります。この例での相続税基礎控除は、4,800万円ですので課税総額は200万円です。結果として、妻は非課税のままで、子の相続税は税率が10%ですので、1人あたり5万円、合計10万円となります。

贈与税が非課税ですので、相続税の10万円が実際に納める税金です。生前贈与の効果は、127万5,000円となります。

 

不動産を売却し特例を2つ利用した場合

不動産を売却し、夫婦間での居住用不動産の贈与の特例と住宅取得資金の贈与の特例を利用したケースを説明します。不動産売却による譲渡収入は、遺産総額と同じ7,000万円で、譲渡所得は建物の経年劣化により、買ったときの価格より値下がりしていたとして0円とします。

不動産の譲渡所得については下記の記事を参考にしてください。

土地相続に関する税金とは?相続税以外も詳細に解説・譲渡所得に対する所得税

http://sozoku-susume.com/2020/12/03/other-than-inheritance-tax/

7,000万円の現金を得れば、以下のように贈与します。

  • 子二人に省エネ住宅を建てる前提で2,500万円ずつ贈与
  • 夫婦で暮らす妻名義の居住用不動産の購入資金として2,000万円を贈与

このように贈与すれば、贈与税は非課税となります。また、夫の財産を全て贈与しているので、相続税も非課税となります。つまり、137万5,000円の節税効果があるということです。

このような方法が有効な環境は、子が独立していて、大きな家が不要となった家庭などとなります。しかし、土地の値段が買ったときの価格より跳ね上がっていたら、考え直す必要があります。贈与税、相続税の基礎控除や特例控除以内に収まるか少しはみ出す程度の財産であれば、問題なく効果を得ることができるでしょう。

実際の相続は、現預金がなしということは稀なケースとなります。現預金は、暦年課税制度を利用して、妻や子に毎年コツコツと贈与すると良いでしょう。しかし、毎年同じ金額を贈与し続ければ、税務署によりますが、一括贈与と同様とみなされて、高額な贈与税が課税されるおそれがあります。贈与する金額には注意してください。

 

生前贈与は上手に活用して相続対策を

生前贈与は上手に活用して相続対策を

ここまで、不動産の生前贈与における贈与税の仕組みを解説し、贈与税の計算方法や軽減措置について説明してきました。また、相続対策として2つのケースを検証しています。

相続対策として、不動産の生前贈与を行えば、贈与税が課税されます。しかし、上手く利用すれば、相続・贈与をあわせて大きな効果を得ることも可能です。それには、複雑な計算や手続きが必要となります。

不動産の生前贈与で悩みが生じたら、相続のプロフェッショナルに相談や依頼するようにしましょう。また、この「相続対策のすゝめ」を有効に活用してください。このサイトは、相続対策に特化していますので、きっとお役にたてる記事があるはずです。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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