不動産は相続税と贈与税どちらが安い?覚えておきたい税金の知識

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相続発生時にそのまま相続をさせるか、前もって贈与しておいたほうが良いのか、税制的なことを考えると悩ましい。とい不動産オーナーは多いでしょう。人は自分の子や配偶者等にできるだけ多くの資産を残したいと思うため「どちらが安いのだろう?」と考えてしまうのは当然です。

先に結論を申し上げてしまえば「税率的に見れば相続税のほうが安い」という結果になります。つまり、今は贈与せずに相続発生時にそのまま相続させれば、贈与税よりも税金を抑えられるでしょう。

しかしこれはあくまでも「税率的に見れば」の話です。不動産は価格変動率が大きいこともあり一概に「〇〇税のほうがお得」とは言い切れないのが本当です。「税率が低い=安い(お得)」と、安易に判断してしまうと結果的に損をする可能性もあるでしょう。

そこで今回は、不動産は相続税と贈与税どちらが安いのか?について、いくつかのパターン別にご紹介しています。

そもそも相続と贈与の違いがわからない方はこちらの記事を参考にしてください。

不動産の贈与と相続は何が違う!どちらがお得かも検証

https://sozoku-susume.com/2021/02/23/gifts-and-inheritance/

 

不動産の課税価格が同じであれば「相続税」のほうが安い

不動産の課税価格が同じであれば「相続税」のほうが安い

不動産を相続させるべきか生前に贈与しておくべきか。税金的な部分で考え、どちらが安いのかに対する答えは「相続税」です。

不動産に対する相続税や贈与税を計算するときは、それぞれ定められている「税率」を参考に納税額を算出します。このとき、不動産の価格が同じなのであれば相続税のほうが圧倒的にお得になるでしょう。

しかし、不動産という財産はその性質上、価格変動率が大きいものでもあります。そのため「課税価格が同じであれば相続性のほうがお得になる」という点だけは念頭においてください。

詳しくは後述しますが、不動産の価格が今後、著しく高くなることが予想できるのであれば「生前贈与」のほうが納税額が安くなる可能性もあります。まずは「課税額が同じだったとき」のパターンでどちらが安いのかについて詳しくお伝えします。

 

相続税と贈与税の税率

相続税や贈与税は基礎控除や各種控除を差し引いた価格に対して課税されます。とくに不動産の基礎控除やその他の控除額は多く、税額をかなり抑えられる可能性が高いでしょう。

【不動産相続税の控除】

・基礎控除(3,000万円+相続人数✕600万円)

・被相続人の債務等

・葬儀費用等

・小規模宅地等の課税価格の計算の特例

・特定計画山林の課税価格の計算の特例

・特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例等

【不動産相続税の税率】

課税価格 税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円以上 55% 7,200万円

参考:国税庁|相続税の税率

たとえば相続人1人が課税価格1億円の不動産を相続したとしましょう。

※計算をわかりやすくするためその他の特例、債務、葬儀費用は考慮していません。

基礎控除3,000万円+600万円=3,600万円

1億円(不動産価格)-3,600万円(基礎控除額)=6,400万円

(6,400万円-700万円(控除額))✕20%=1,140万円

上記の通り、相続時に支払う相続税は「1,140万円」という計算になります。その他の控除や相続人数によって、さらに相続税額を軽減できる可能性も高いでしょう。

では続いて、不動産を生前に贈与したときの贈与税を見て行きましょう。

【贈与税の控除額】

・基礎控除(1年間110万円)

【贈与税の税率(一般税率)】

※「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用

課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円以上 55% 400万円

【贈与税の税率(特例贈与財産用)】

課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円以上 55% 640万円

参考:国税庁|贈与税の税率

一般税率とは、兄弟間や夫婦間での贈与、直系尊属(直系の上の世代)からの贈与であって受け取り側が未成年のとき等に利用する税率です。一方で、特例税率は直系尊属から20歳以上の者に対して行う贈与に対して適用される税率です。

仮に、父から子(成人済み)に対して1億円の不動産を生前贈与したときの、贈与税額は下記の通りです。

※受け取り側が1年間で他の贈与がなかったと仮定

1億円(不動産の価格)-110万円(基礎控除)=9,890万円

(9,980万円-640万円)✕55%=5,137万円

上記の通り、贈与を受けた側が納税する贈与税額は「5,137万円」になります。相続税と比較すると、その差は3,997万円であり、圧倒的に相続税のほうが安くなる計算です。

このように「不動産の価格」が同じであり、税率のみで判断するのであれば圧倒的に相続税のほうが安く済みます。ただ、税率が低い=納税額が少ないとは一概には言えず、生前贈与等を交えることで、より節税につながることもあるので注意してください。

 

相続税は基礎控除も大きいためお得になるケースがほとんど

相続税の基礎控除は「3,000万円+相続人✕600万円」です。たとえば、相続人が妻と子が2人いたときの基礎控除額は「3,000万円+1,800万円=4,800万円」という計算になります。

つまり、上記の例で言うと不動産の価格が4,800万円以下であれば、相続税が発生しないことになります。相続税の基礎控除は非常に大きいため、不動産の価格次第ではお得になる可能性が非常に高いでしょう。

【相続税の基礎控除一覧】

法定相続人 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円
5人 6,000万円

また、基礎控除の相続人は「法定相続人」で計算されます。つまり、相続放棄をした人がいても基礎控除に影響をあたえることはありません。また、産まれてくる前の子供も法定相続人に入ります。

【その他基礎控除の注意点】

基礎控除の法定相続人を計算するうえでいくつかの注意点があります。

・①:養子の人数

・②:代襲相続したときの人数

・③:欠格・廃除された人物

①:養子の人数

被相続人に養子がいるときは、養子も1人としてカウントします。しかし、被相続人に実子がいるときは、養子を1人とカウント(養子が何人いても)しなければいけません。また、実子がいない人でも、最大で2人までしかカウントできませんので、基礎控除を算出して相続税を計算するときは注意してください。

なお、養子の人数はあくまでも、相続税の基礎控除を計算するための人数制限です。実際に複数いる養子に不動産等を相続させることは問題ありません。

②:代襲相続したときの人数

代襲相続(相続人が死亡していたときは直系卑属(直系の下の世代)が代襲で相続する)によって、相続人が2人以上になったときは、すべての人数をカウントできます。たとえば、被相続人の子が3人の子供を残して先に死亡していたときは、3人を基礎控除の相続人としてカウントできます。

③:欠格・廃除された人物

欠格や廃除を受けたものは法定相続人にはなれないため、当然基礎控除にもカウントできません。

上記の注意点と不動産の価格等を考慮したうえで、相続税と贈与税どちらが安くなるのかを検討してください。

 

不動産価値の上昇に期待ができるなら「贈与税」がお得

不動産価値の上昇に期待ができるなら「贈与税」がお得

不動産の価格は需要と供給のバランスや金融情勢等によって変動します。仮に、現在の不動産価格が1,000万円であったとしても、10年後には3,000万円になっている可能性もあるでしょう。運良く、土地開発による不動産売却を持ちかけられたときは、相場よりも高値で売却できる可能性もあります。

このように、将来に向かって不動産の価格が上昇する可能性が見込めるのであれば、贈与税のほうが安くなる可能性もあるでしょう。しかし、将来の予想は難しく、具体的にどの程度の値上がり率に期待ができるのか、わかる方は少ないです。

あくまでもひとつの知識として「贈与税がお得になるケースもある」程度に考えておくと良いでしょう。

また、現在と将来の不動産の価値によっては「相続時精算課税制度」を利用するのもおすすめです。相続時精算課税制度とは、最大2,500万円まで贈与を受けても贈与税が発生しない制度です。その代わり、相続時に2,500万円(実際に贈与を受けた金額)を加算して相続税を支払います。

たとえば、将来に向かって明らかに不動産の価値が上がりそうなときは、生前に贈与を済ませておいて、その価格で相続税を支払うとメリットが最大になるでしょう。相続税と贈与税の組み合わせ次第では、本来の相続税以上のメリットを受けられる可能性もあるので検討してください。

不動産相続ではなく生前贈与を選ぶメリットとは!デメリットも解説

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贈与税は「贈与時」の価格に課税

不動産の贈与税額を算出するためには「評価額」を算出しなければいけません。この評価額は、不動産の相続税評価額もしくは固定資産税評価額を元に算出します(土地は路線価)。

これらの評価額は、毎年7月1日(相続税評価額)もしくは、1月1日時点に決まり3年毎に見直し(固定資産税評価額)となります。つまり、贈与税を計算するときの不動産課税価格は「贈与時」の価格です。

一方で、相続税が発生するタイミングも「相続発生時」です。そのため、現時点で1,000万円の不動産も、相続発生時には1億円になっている可能性も否めません(極端な例ですが)。このことを考えると、税率のみで安いか否かを考えるのは得策ではない。と言われる理由がわかるかと思います。

たとえば、現時点の評価額が1,000万円の不動産を生前贈与したとしましょう。

※父から子(成人済み)と過程

1,000万円(不動産の価格)-110万円(基礎控除)=890万円

(890万円-90万円)✕30%=240万円

同じ不動産を生前贈与せず、当該不動産の評価額が1億円になったときの相続税額

※計算をわかりやすくするため、相続人を1人、その他の特例、債務、葬儀費用の考慮なし

基礎控除3,000万円+600万円=3,600万円

1億円(不動産価格)-3,600万円(基礎控除額)=6,400万円

(6,400万円-700万円(控除額))✕20%=1,140万円

上記のように、同じ物件でも「今、贈与」するか「将来、相続」させるかによって、納めるべき税金が大きく異なる恐れがあるでしょう。

 

原則ではなく「将来性」を見据えて判断することが大切

不動産はとくに価格変動が大きい財産のひとつです。先程お伝えしたように、贈与税と相続税の関係は、今の価格と将来の価格で大きく変わる可能性が非常に高いです。

もちろん逆も然りであって、現在の不動産価格が1億円を超えるものでも、相続発生時には3,600万円以下になっている可能性も十分にあります。単に今の価格のみで相続税と贈与税、どちらが安いのか?と判断するのは得策とは言えません。

自分がいつ死ぬのか、不動産の価格がどのように変動していくのかわからない部分も多いですが、可能な限り先を見据えて選ばれたほうが良いでしょう。

 

贈与税と相続税を合わせればさらに安くなることがある

贈与税と相続税を合わせればさらに安くなることがある

贈与税と相続税を合わせればさらに税金を安く抑えられる可能性があります。

そもそも、贈与税も相続税も「合算不可」等のルールはありません。当然、2つのメリットを合わせても良いです。たとえば贈与税の基礎控除額は1人あたり「110万円/年間」なので、数年に分けて毎年110万円ずつ贈与していれば、相続時に発生する相続税を軽減できるでしょう。

ただ、不動産(土地を除いて)を分割で贈与することは難しいため、贈与税と相続税を利用するときは、不動産以外の財産を贈与することをおすすめします。ただし、相続が発生した3年以内に得た贈与は相続税の課税対象になるので注意してください。

たとえば、2020年1月1日から2022年12月31日までの3年間で、毎年110万円ずつ贈与したときは贈与税の基礎控除内であるため課税されません。しかし、被相続人が2020年12月31日に死亡したときは、過去3年に遡って330万円の贈与を受けた分が相続税の課税対象になります。

相続時の相続税を軽減すべく何年も掛けて贈与していたとしても、3年以内に受け取った分は、相続時に受け取る不動産の価格に合算して相続税が課税されます。

自分がいつ死ぬのかは誰にわかることではないため、何が安いとは一概に言えません。さまざまなパターンによって安く抑えられるか否かが異なるため、相続人とよく話し合ったうえで終活を進めていくと良いでしょう。

 

まとめ

今回は、不動産は贈与して贈与税を支払ったほうが安いのか、相続させて相続税として税金を支払ったほうが安いのか?結局どちらがお得になるの?についてお伝えしました。

税率的には「相続税」のほうが安いとのことでしたが、納めるべき税金は税率のみで判断できるものではありません。不動産の価格や状況、相続人数等によっても大きく異なります。

そもそも不動産の評価額(他に相続財産がなければ)が3,600万円以下であれば、相続税が課税されることはありません。一方で、贈与税の基礎控除は「毎年110万円」です。これらを上手に組み合わせることで、節税効果が最大に働くこともあります。

結果、贈与税VS相続税のどちらが安いのかは「ケースバイケース」ということになるでしょう。今回お伝えしたことを参考に、贈与と相続どちらで不動産を渡すのか検討してください。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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