賃貸物件の相続税評価とは?仕組みと計算方法を解説

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遺産相続において相続した財産には、相続税が課税されます。

現預金であれば、価値が簡単にわかりますが、価値がわかりにくい相続財産は評価によって遺産総額に加算しているのです。

中には、市場価値を考えると思った以上に低い評価となる相続財産もあります。そのような財産は相続税対策として有効です。賃貸物件も節税に有効な財産とされています。

今回は、賃貸物件の相続税評価に絞って解説します。賃貸物件の相続予定の人や賃貸物件を相続させようと考えている人の参考になれば幸いです。

 

賃貸物件の相続税評価とは

賃貸物件の相続税評価とは

相続税では、現金や金融資産などの資産価値がわかりやすいものもありますが、不動産や古美術品など資産価値の不透明なものもあります。このように、明確な価額が分からないものについて、国税庁は資産に対しての評価の基準を設けているのです。

賃貸物件においては、資産価値とは裏腹に資産を自由に使用することができないなど、現金や金融資産に比べて自由度が低い資産とされています。それ故に、相続税の評価は現金や自用不動産に比べて、軽減されているのです。

ここでは、基本的な相続税の仕組みと計算方法、そして賃貸物件における相続税の評価方法の概要を解説します。

 

相続税の仕組みと計算方法

被相続人から財産を相続したら、相続税の申告と納付の義務が生じます。しかし、財産の価額の合計が、基礎控除を超えなければ申告や納税は生じません。ちなみに価額とは、品物の価値に相当する金額のことです。

相続税の計算方法の概要

  1. 遺産総額の価額と相続時精算課税の適用を受ける財産の価額を合計します。
  2. 1の合計額から、債務や葬式費用、非課税財産を差し引きます(遺産額)。
  3. 遺産額に暦年課税に係る贈与財産の価額を加算します(正味の遺産)。
  4. 正味の遺産額から基礎控除を差し引きます(課税遺産総額)。
  5. 課税遺産総額を法定相続分どおりに相続したと仮定して、それぞれに税率を適用して仮の仮定の相続税額を計算します。
  6. 仮定の税額を合計します(相続税の総額)。
  7. 相続税の総額を実際に取得した正味の遺産額の割合に応じてあん分したものが各相続人の相続税となります。

実際に納める税額は、税額軽減や税額控除を差し引いて算出しますが、控除などは相続人の立場によって違いがあります。相続税の申告時にはよく確認するようにしましょう。

 

賃貸物件は土地と建物を別々に評価

相続税の申告において、不動産は自用や賃貸用に関係なく土地と建物に分けて評価し価額を算出します。

また、税法では賃貸建物が建っている土地は貸家建付地とし、賃貸用の建物は貸家とされています。

賃貸物件の相続税評価は、貸家建付地と貸家ともに自用の評価を基に算出される仕組みです。

1-1~1-2参照

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

 

貸家建付地の相続税評価方法

貸家建付地の相続税評価方法

貸家や賃貸アパートマンションなどの賃貸物件が建っている土地は貸家建付地です。貸家建付地は、相続税において評価が大幅に軽減されています。貸家建付地の評価が軽減される理由は自由度が低いからです。貸家が建っているため、所有者は自由に土地を使用することができません。

借主は、賃貸契約を結ぶことで借家権を得ます。借家権は、借主を法で守るために定められている権利なので侵害することはできないのです。

もし、所有者が自由に土地を使用したいのであれば、借主に立ち退きを要求しなければなりません。立ち退きを要求すれば、立ち退き料や引っ越し費用、慰謝料等を請求されることになります。

このように自由度の低い貸家建付地では相続税の評価も低くなるように定められているのです。ここでは、貸家建付地の要件や、相続税の評価方法及び、計算方法について解説します。

 

貸家建付地とは

貸家建付地とは、所有している土地にマンションやアパートなどの賃貸用の建物を建てて第三者に貸しだしている土地のことです。簡単に言えば、賃貸物件が立っている土地となります。

自用地であれば原則として、所有者は土地を自由に使うことができます 土地の上に賃貸物件が建っていて第三者に貸し出している場合は、土地の利用が制限され自由度も低くなります。

もし、土地を売却するとなると、入居者に退去してもらうしか方法がありません。しかし、中には頑なに立ち退かない借主がいる可能性もあります。つまり、不自由な土地なので相続税は安くしましょうということになるのです。

 

貸家建付地の要件

土地を貸家建付地として評価するには、2つの要件を満たす必要があります。

1つは当然のことですが、土地の上に建物が建っていることです 第三者に貸し出しているとはいえ、駐車場など建物が建っていない土地は、貸家建付地として評価できません。

建物が建っていて、その敷地内に存在する駐車場の場合は、賃貸物件と駐車場の利用単位を一体とみなすことができます。故に、全体を貸家建付地として評価することも可能となるのです。

もう1つは、家賃が世間相場並みであることです。土地の上に賃貸物件が建っていても賃料が無償であったり、相場から見て極めて低い賃料だったりすれば、貸家建付地として評価できません。

つまり、土地の上に建物を建てて賃貸住宅と申告しても、身内や知り合いなどにほぼ無償で貸し出していれば、貸家建付地として認められないのです。悪質な場合は、税金逃れと判断されることもありますので注意しましょう。

 

貸家建付地の相続税評価と計算式

貸家建付地の価額を算出するには、自用地の価額を知る必要があります。理由は、貸家建付地の価額が自用地を基に評価し算出されるからです。国税庁のホームページに貸家建付地を評価する計算式が載っています。

貸家建付地の価額=自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

この計算式の中で「自用地としての価額」とあります。相続税における自用地の評価方法は2つあるのです。1つは、一般的に採用される路線価方式で、もう1つは路線価方式で評価できない地域に用いる倍率方式です。路線価方式で自用地の価額を求める際には下記の式を用います。

自用地の価額=正面路線価×土地面積(㎡)×奥行価格補正率

路線価は国税庁が定める価格なのでいつでも下記の国税庁ホームページで確認できます。

国税庁:路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

土地面積は相続対象の貸家建付地の面積となります。また、奥行補正率は、下記の国税庁ホームページで路線価同様に確認できますので、どちらも確認するようにしましょう。

奥行価格補正率表

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/07.htm

自用地としての価額を計算しましたら、次は貸家建付地としての価額を算出します。計算式は先に記した通りです。借地権割合と借家権割合は路線価のホームページで確認することができます。賃貸割合は下記の式で計算します。

賃貸割合=課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計÷当該家屋の各独立部分の床面積の合計

この計算式を要すると、間取りが同じで総戸数が10戸の賃貸アパートで、9個が入居中であれば90%で10戸が入居中であれば100%となります。

以上で貸家建付地を評価する上で必要な数字は揃うことになります。実際には、賃貸物件の価額を算出することは非常に難しいかもしれません。しかし、目安として利用する手段もありますので活用すると相続税対策に役立つでしょう。

2-1~2-3参照

国税庁:No.4614 貸家建付地の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm

 

貸家の相続税評価方法

貸家の相続税評価方法

貸家も貸家建付地と同じように相続税の価額を評価で決定します。貸家の場合は、ベースとなるのが自用建物の評価です。相続税において、自用の建物の評価は、固定資産税評価額と同じになります。

固定資産税評価額の確認方法は、固定資産評価証明書を取得するか、固定資産税・都市計画税の課税明細書で確認することができます。

相続税の申告時には、固定資産評価証明書が必要になるので、こちらを取得して確認する方が良いでしょう。

 

貸家とは

貸家とは、人に貸している家屋のことです。貸家建付地と同様に第三者に貸し出しているので相続税の評価は自用よりも下がります。理由は、借主が賃貸契約において借家権を得るからです。

貸家の所有者といえども、借家権が発生している建物を勝手に取り壊したり、リフォームしたりすることはできません。

また、理由もなく借主に立ち退きを迫ることも難しいのです。借主に瑕疵がないのに、どうしても立ち退いてほしい場合は、相当の費用を用意する必要があります。

このように、自由度が低いので相続税の評価も控除されるのです。しかし、継続して賃貸経営するのであれば、相続税が節税できる恩恵を受けることと、安定した家賃収入を得ることが可能となります。

 

貸家の相続税評価と計算式

貸家の価額は、定められた相続税の評価によって計算されます。基となるのが自用建物の価額、すなわち固定資産税評価額となるのです。 貸家の価格は以下の式で算出します。

貸家の価額=自用建物の価額-自用建物の価額×借家権割合×賃貸割合

この計算式の中の借家権割合は、国税庁の路線価図評価倍率表で確認できます。賃貸割合は貸家建付地の評価方法で解説した計算式と同じです。

これで、貸家の価額は算出できます。賃貸物件の相続税評価額は、貸家建付地の価額と貸家の価額を合計したものになるのです。

3-1~3-2参照

国税庁:路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

国税庁:No.4602土地家屋の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm

 

貸宅地の相続税評価方法

貸宅地の相続税評価方法

相続税の軽減を受けることができる土地には、貸家建付地と別に貸宅地というものがあります。 ここでは貸宅地とはどのようなものか、また、貸宅地の相続税の評価や計算式について解説します。

 

貸宅地とは

貸宅地とは土地の所有者以外の第三者が建物を建てるために借りた土地のことです。 土地を第三者に貸した場合は借地権が発生するので、所有者はその土地を自由に使用したり、処分したりすることができません。そのため自用地よりも相続税の評価額が安くなる仕組みとなっています。

 

貸宅地と貸家建付地の違い

貸家建付地と貸宅地は似ているようで全く違いがあります。貸家建付地とは、自分が所有している土地に、自分で賃貸用の建物を建てて、第三者に賃貸ししている土地のことです。

貸宅地は、所有している土地に第三者が建物を建てます。すなわち貸家建付地の場合の建物の所有者は、土地の所有者と同じになりますが、貸宅地の場合は土地の所有者と建物の所有者が別々となるのです。

 

貸宅地の相続税評価と計算式

貸宅地の相続税評価は、その宅地の上に存在する権利の区分に応じて評価が違ってくるのです。区分とは以下のようになります。

  1. 借地権の目的となっている宅地
  2. 定期借地権等の目的となっている宅地
  3. 地上権の目的となっている宅地
  4. 区分地上権の目的となっている宅地
  5. 区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である宅地

一般的な貸宅地とは「借地権の目的となっている宅地」ですので、ここでは借地権の目的となっている宅地について相続税の評価と計算式を解説します。貸宅地は以下の式で評価し価額を算出します

貸家の価額=自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合

借地権割合とは、土地の自用地評価額に占める借地権の価額の割合です。借地権割合は、国税庁の路線価図に掲載されていますので、下記から確認すると良いでしょう。

また、借地権の取引慣行がないと認められている地域の借地権割合は、借地権を20%として算出します。借地権の取引慣行のあるなしも、路線価図で調べることができます。

No.4613 貸宅地の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4613.htm

国税庁:路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

 

小規模宅地等の特例について

小規模宅地等の特例について

土地についての相続税評価の中には、小規模宅地等の特例があります。小規模宅地の特例には3つの種類があります。特定居住用宅地等・特定事業用宅地等・貸付事業用宅地等の3種類の土地です。

この記事は、賃貸物件の相続財産評価を解説していますので、小規模宅地等の特例の中で、貸付事業用宅地等について解説します。

 

貸付事業用宅地の対象と要件

小規模事業宅地等の特例における貸付事業用宅地等の要件は、この特例に適用する被相続人が亡くなる前から、その土地で不動産賃貸業を営んでいる必要があります。

また、土地の相続人が相続税の申告期限まで不動産賃貸業を継続していなければなりません。

平成30年の税制改正によって、相続開始前3年以内に不動産賃貸業に使われ始めた土地は、小規模宅地等の特例の対象外となっています。

要するに、被相続人が3年以上前から不動産賃貸業を行っていた所有地に、適用される特例だということです。

 

貸付事業用宅地の場合の減額率

貸付事業用宅地等で小規模宅地等の特例が適用する場合の限度面積は200㎡です。そして減額率は50%となっています。

つまり、200㎡までの賃貸事情用宅地なら、相続税評価額からさらに50%減額されるということになりのです。

200㎡を超える土地の場合は、200㎡まで減額されますが、200㎡を超えた分は対象外となります。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

 

賃貸物件が相続財産なら節税にプラスαも

賃貸物件が相続財産なら節税にプラスαも

ここまで賃貸物件の相続税評価について、その概要や貸家建付地、貸家、貸宅地などの評価について解説してきました。賃貸物件の相続財産評価は、自用不動産と比べて非常に難解です。

賃貸物件の複雑な相続について、迷いや悩みが生じたら相続税のプロに相談すると良いでしょう。

当サイト「相続対策のすゝめ」は遺産相続のプロフェッショナルが監修し運営しています。ご利用いただければ、賃貸物件の相続についての悩みもすぐに解消することができるでしょう。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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