賃貸物件は相続税対策になる!メリットとデメリットを徹底解説

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遺産を相続した場合、遺産総額に対して相続税を納めなければなりません。

遺産総額が多ければ多いほど相続税もたくさん収めることになります。特に、現預金は節税対策もできないので、安く抑えることは難しいのです。

相続税対策を行うのであれば、手段の一つに賃貸物件を視野に入れてみましょう。賃貸物件なら、同額の現預金を相続するよりも、大幅に相続税額を抑えることが可能です。

今回は、賃貸物件を相続した場合のメリットやデメリットと、相続税対策として賃貸経営を始めるメリット・デメリットを解説します。

賃貸物件と相続との関連性をご理解いただければ幸いです。

 

賃貸物件を相続するメリット

賃貸物件を相続するメリット

現金を相続するよりも、賃貸物件を相続するほうが相続税は安くなります。

現金1億円を相続する場合の相続税と、1億円の価値がある賃貸物件の相続税を比べると、現金の半分程度の相続税となる可能性があるのです。

賃貸物件を相続するメリットは節税です。ここでは、その仕組みを説明していきます。

 

相続税の仕組み

相続税は、被相続人の遺産を相続した場合に課税される税金です。基礎控除よりも遺産総額が上回っていたら納税の義務が生じますが、下回っていた場合は申告や納税の義務はありません。

相続税には、富の再分配や資産を特定の人に集中させないという意味合いがあります。したがって、遺産総額が大きければ大きいほど相続税額も大きくなる仕組みになっているのです。

しかし、遺産の種類のよっては、評価が大幅に下がり節税効果が期待できるものもあります。その代表的な遺産が賃貸物件なのです。

 

相続税の計算式

相続税を計算するためには、遺産総額を算出する必要があります。

まず、被相続人の遺産目録を作成しましょう。相続税の対象は、金融資産や不動産以外にも、価値あるもの全てが当てはまります。後で、税務署から指摘されたり、追加されたりしないようによく確認して仕上げることが肝要です。

遺産目録が完成したら、遺産の種類に応じて評価し金額を書き込みましょう。現預金などは100%評価になりますが、不動産は評価が現預金よりも低くなります。

遺産の種類に応じて細かく評価の方法が定まっていますので、難しい場合はプロに依頼したり、税務署で相談したりすると良いでしょう。

遺産総額から、マイナスの遺産を差し引いて、さらに非課税財産を差し引いたものが正味の遺産額になります。

正味の遺産から基礎控除を差し引いたものが課税遺産総額です。基礎控除は以下の式で計算します。

基礎控除=3000万円+600万円×法定相続人

相続税は、この基礎控除を上回った課税遺産総額に対して課せられるのです。相続人が一人の場合と複数の場合で計算式は異なりますが1人の場合は、以下のようになります。

相続税=課税遺産総額×税率-控除額

複数の相続人がいる場合は、課税遺産総額を遺産分割協議で決定した割合で分割します。その後、それぞれの分割額に応じて、定められた税率を掛けてから合算し相続割合であん分するする仕組みとなっています。

例として、正味の遺産額が3億円で、妻と子供2人で法定相続通りに相続するケースで解説します。

3億円-基礎控除4800万円=課税対象総額2億5200万円

・法定相続どおりに分割

妻の相続額と税額=1億2600万円で税額5040万円

子供の相続額と税額1人当たり=6300万円で税額1860万円

相続税の総額は8760万円

・総額を相続割合であん分して税額を決定

妻の税額4380万円

子供の税額1人あたり2190万円となります。

この税額に対して、一定の控除額が定められていて、配偶者には、特別な配偶者控除がありますので、実際の税額は0円になります。

相続税の計算は複雑なので、遺産総額が大きくて多種多様な遺産がある場合、個人では難しいかもしれません。プロフェッショナルへ依頼することも視野に入れておくと良いでしょう。

なお、税率や控除額などは下記の国税庁のホームページで確認できますのでご参照ください。

国税庁HP:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

 

賃貸物件は評価額が下がる

相続税の評価は現金と不動産では不動産のほうが低くなります。また、自用の不動産と賃貸用の不動産では、賃貸用の不動産のほうが評価は低くなる仕組みです。

相続税の場合、現預金以外はそれぞれ評価する方法が定まっています。賃貸用の不動産も土地と建物に分かれて定められているのです。

賃貸用の建物が建っている土地を貸家建付地といいます。貸家建付地の相続税評価は以下の式で計算します。

貸家建付地評価額=自用地価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

自用地価額とは、居住用の相続税評価額をさし、以下の計算式で算出します。

自用地価額=路線価×土地面積(㎡)

路線価や借地割合は下記の国税庁ホームページで確認できます。

路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

賃貸用の建物の相続税評価以下の式で計算します。

賃貸用建物の評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

それでは例として

土地の自家用価額が1億5000万円

賃貸用建物の固定資産税評価額が1億5000万円

合計3億円の賃貸物件の相続税を計算します。

借地割合は、住宅地として70%・借家権割合は30%固定・賃貸割合は満室想定で100%として計算。

貸家建付地評価額=15000×(1-70%×30%×100%)=11850

賃貸用建物の評価額=15000×(1-30%×100%)=10500

(単位:万円)

3億円の賃貸物件の評価は2億2350万円となります。この評価額に先程の親子3人で法定相続どおりに相続した場合の相続税を計算します。

課税相続額=22350-4800=17550

(単位:万円)

妻の相続額と税額=8775万円で税額2632万5000円

子供の相続額と税額1人当たり=4785万5000円で税額877万5000円

相続税の総額は3510万円

3億円の現金の場合の相続税総額が8760万円でしたので、現金での相続に比べて5250万円分の相続税が節税できたことになります。

賃貸物件の場合、相続税での評価は下がりますが、市場価値はそのままです。また、住環境の変化によっては上がる可能性もあるのです。

国税庁:No.4614貸家建付地の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm

 

評価額が高いと節税にならない

ここまで、現金での相続税と賃貸物件の相続税を説明してきました。現金は、評価が最も高いので節税には不向きな資産といえるでしょう。

他にも金融資産などは、換金性が高くて自由度が高いので評価が高めとなります。評価の高い遺産は、節税対策になりにくい遺産と認識してください。

相続税の評価が低い遺産は、換金性が低くて自由度が低い遺産です。賃貸物件は確かに換金性も自由度も低い遺産ですが、家賃収入という安定収入が毎月手に入る遺産であることも確認しておきましょう。

見出し「賃貸物件を相続するメリット」の参照

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

 

賃貸物件を相続するデメリット

賃貸物件を相続するデメリット

賃貸物件は、相続税対策に向いている遺産ではありますがデメリットもあります。賃貸物件を貸し出すことはで、借主は借家権を持つことになります。つまり、簡単に取り壊したり、自由に使用したりすることが難しいのです。

ここでは、賃貸物件を相続するデメリットを説明します。これから賃貸物件を相続する予定に人は、知識を持っていれば対策を練ることが可能です。

また、賃貸物件に深く関連する借地借家法が令和2年4月1日に改正施行されました。賃貸物件の相続に関係する人は確認しておきましょう。

電子政府の総合窓口e-GOVを利用すれば簡単に調べられます。下記のURLを参照ください。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000090

 

遺産分割協議で揉めやすい

遺産相続において、相続人が複数いる場合は必ず遺産分割協議が行われ、遺産について協議し決定しなければなりません。そして、遺産分割決定書がなければ、遺産を分割し相続する事ができないのです。例えば、決定書がないと預金を引き出せなかったり、登記を変えたりすることもできません。

遺産分割決定書には、全ての相続人の合意が必要です。法定相続どおりに相続が進んだり、遺言書通りに相続が進んだりすれば問題ありません。

しかし、賃貸物件が遺産の中で大きなウェイトを占めている場合は、協議が難航するするおそれもあります。相続人によっては、売却して現金を相続と主張する人がいる可能性があります。また、共同名義で相続と主張する人がいるかもしれません。

相続税は、相続開始から10ヶ月以内に申告し納税しなくてはなりませんので、協議が難航しないように事前に話し合うか遺言書を認めるようにしましょう。

 

賃貸物件の残債と収益

賃貸経営が黒字の物件であれば良いのですが、賃貸物件によってはローンの残債があったり、赤字経営だったりする場合があります。ローンの残債がありながら、赤字経営の物件ならば相続を考え直さなくてはなりません。

相続放棄をいう手段がありますが、相続放棄すればプラスの遺産も放棄することになります。このような事態にならないように、被相続人と相続人は、事前に賃貸物件を含めた遺産についてよく話し合いましょう。

 

賃貸物件の収益性と修繕バランス

築年数が古い賃貸物件の相続では、修繕費がかさむ可能性があります。毎月のように修繕費が必要となると収益を圧迫して赤字になるかもしれませんし、すでに赤字の物件を相続することもあります。

相続段階で、修繕費がかかって赤字になると予測を立てたなら、相続税申告までに売却したり、相続後に売却したりすることも視野に入れましょう。

収益のバランスを見極めることが難しい場合は、賃貸経営や遺産相続のプロフェッショナルを頼ることも必要です。

 

共同名義物件は単独で売却できない

相続対象の賃貸物件を売却する場合、遺産分割協議中であれば相続人全員の合意が必要です。

また、相続時に共同名義にした場合では、共有者全員の合意がなければ売却できない仕組みとなっています。

賃貸物件は、自由度が非常に低いので、相続税を大幅に節税できるのです。このメリットを活かすには、相続対象の賃貸物件を活かして上手に賃貸経営することになります。

 

相続税対策で賃貸経営を始めるメリット

相続税対策で賃貸経営を始めるメリット

現金などの金融資産が遺産の大部分を占める場合は、相当な相続税が予測されます。そこで、金融資産を使って不動産投資し、賃貸経営を始める人が年々増えています

その傾向は、2019年7月に施行された相続税法の改正によって、さらに加速されています。では、相続税対策として賃貸経営を始めるメリットとはどのようなものかを説明していきます。

 

相続税や所得税の節税効果

賃貸経営が相続税対策になる理由は、賃貸物件を相続した場合と同じで効果は大きいでしょう。さらに、所得税や住民税、固定資産税の節税にもなります。

所得税が節税できる要因は、損益通算と繰越控除、減価償却が大きな役割を果たすからです。損益通算は他の所得と合算できる仕組みになっていて、仮に賃貸経営が赤字でも、事業所得や給与所得から赤字分を差し引くことができます。

繰越控除では、今年度の赤字を吸収できない場合は、3年間繰り越して控除を受けることができるのです。

減価償却は、利益が出ていても圧縮できる仕組みになっています。不動産投資した建築費や設備費などは、耐用年数に応じて減価償却費として経費計上できます。

すでに投資済みなので、実際には支払っていないのですが、経費として計上することで利益だけが圧縮されるのです。

要するに、減価償却によって黒字から赤字になった分を、他の所得と損益通算することで大幅な節税が可能だということになります。

 

安定した家賃収入

家賃収入は、賃貸経営における最大のメリットといえるでしょう。大学生向けのワンルームであっても、入居すると4年は安定して家賃を得られます。

また、競合する賃貸住宅との差別化を図るなどで、経営を軌道に乗せればさらなる資産を築くことも難しくありません。

 

融資が受けやすく事業計画が立てやすい

賃貸経営での融資は、不動産投資ローンや事業ローンがあります。いずれにしても、物件が担保になり、家賃収入で返済が見込めるので高額な融資が比較的に受けやすいメリットがあります。

また、収入や支出が明確なので事業計画や資金計画が立てやすいという特徴があります。

ただし、満室利回りを想定した事業計画や資金計画では、空室が出れば経営が難しくなる可能性が高くなるでしょう。周辺地域をリサーチし分析してから、空室率を含めることが肝要です。

 

相続税対策で賃貸経営を始めるデメリット

相続税対策で賃貸経営を始めるデメリット

相続税対策で賃貸経営を始めるにあたって、たくさんのメリットがあります。しかし、デメリットもあるのです。ここでは、賃貸経営のデメリットについて説明します。

 

空き家が出ると家賃収入が減少

賃貸経営では、事業計画での想定以上に空室がでると、家賃収入が減少し経営を圧迫する可能性があります。

空き家問題を取り上げている報道を耳にした人もいるでしょう。入居率100%を維持することは、難しいかもしれませんが、事業計画で算出した空室率を上回る空き家が出ることは避けたいものです。

だからといって、安易な家賃の値下げは、さらなる経営悪化を招くおそれがあります。女性オンリーにチェンジすれば、不動産会社の売り言葉になりますし、ペットを飼えるようにするだけで、入居率が上がる可能性もあるのです。

清掃がいき届いているマンションやセキュリティ万全のアパートなどは高い人気を保っています。他の物件との差別化を図るなどの経営努力を惜しまず、入居率を維持するようにしましょう。

 

赤字経営に転落する可能性あり

実際は黒字ですが、減価償却によって赤字であれば問題はないのですが、単純に家賃収入から必要経費を引いて赤字なら問題ありです。

赤字経営になる理由はさまざまですが、将来の投資でもあるリフォームやリノベーションが原因であれば、黒字転換は見込めるかもしれません。

サブリースや人件費などで赤字だと人材を解雇するかサブリース会社と交渉するしかありません。問題が大きくならないように慎重な賃貸経営を心がけましょう。

 

災害リスクがある

地球の温暖化が問題視されている近年では、想定外の降雨による水害や台風の被害などが頻発しています。思いもよらない災害によって賃貸物件に被害が及ぶ可能性も視野に入れる必要があります。地震の多い日本では、東南海をはじめ大きな地震に対しても注意しなければなりません。

賃貸物件に限らず、不動産を所持しているなら天災リスクを想定することは当然のことです。自分が所有している物件やこれから所持する物件について、行政が発表しているハザードマップなどをよく確認しましょう。

そこで、危険性が高いと判断したなら、経営を断念する勇気も必要な時代になっているのではないでしょうか。

 

老朽化や修繕・リフォーム

不動産投資する前に、建物の構造や耐用年数を調べておきましょう。老朽化すれば、修繕費やリフォーム・リノベーション費が想定上にかかる場合もあります。新築・中古物件を問わず、老朽化に伴う修繕リスクはあるのです。

減価償却の確認も含めて国税庁の耐用年数(下記URL)で確認しておいて損はありません。

https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html

 

相続した賃貸物件を売却する場合の注意点

相続した賃貸物件を売却する場合の注意点

せっかく相続した賃貸物件ですが、さまざまな理由で売却しなければならない場合もあるでしょう。相続物件の売却そのものに問題はありませんが、共同名義で相続した場合は名義人全員の合意が必要となります。

また、譲渡費用が発生したり、相続税ではなく所得税を納めたりする必要が生じる場合もあるかもしれません。ここでは、賃貸物件の売却に関わる注意点を解説します。

 

譲渡費用がかかる

賃貸物件を売却するにあたっては、譲渡費用が必要となります。主な譲渡費用は以下のとおりです。

  • 仲介手数料
  • 印紙税
  • 借主への明け渡し立退料
  • 土地を売却するための建物取壊し費用など
  • 借地権を売る場合の名義書換料など

 

譲渡所得税を納める可能性がある

相続した賃貸物件を売却して利益が出た場合は、所得税と住民税の課税対象となります。所得は、以下の式で計算します

課税譲渡所得=譲渡収入の金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

取得費とは、被相続人が対象物件に対して支払った費用だけでなく相続税や登記費用不動産取得税なども加算できます。建物の取得費は、減価償却の累算を差し引いた額になりますので、相続時に取得費に関する事項をよく確認しましょう。

また、相続税を取得費に加算できるのは、相続開始から3年10ヶ月以内に売却したことが条件となりますので計画的に売却することが肝要です。

 

相続税対策と賃貸経営のバランスを考えよう

相続税対策と賃貸経営のバランスを考えよう

ここまで、賃貸物件が相続税対策になることやその他の注意事項などを説明してきました。賃貸物件での相続税対策には、必ず賃貸経営がセットになってついてきます。

管理会社に全てを任せることやサブリースも可能ですが、被相続人が残してくれた財産ですので大切にすることを心がけましょう。

相続税対策と賃貸経営はバランスが大事です。もし、わからないことがありましたら、当サイト「相続対策のすゝめ」を活用してください。相続に関する疑問を解決できるでしょう。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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