賃貸物件の相続税の計算方法とは?自分でできるシミュレーションも

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相続税の改定により大幅な増税になった影響で、節税効果が望める賃貸物件が注目を浴びています。最大55%の相続税を軽減するために、不動産投資を始める人が後をたたないのです。

今回は賃貸物件が、相続税対策としてどのような効果があるのかを説明し、シミュレーションできるように説明を進めます。

これから投資しようと考えている人も含めて自分で計算できれば計画も立てやすくなるでしょう。

 

賃貸物件の相続税について

賃貸物件の相続税について

相続税は、価値のある財産であればほぼ全てに適用されます。賃貸物件であっても例外ではありません。

そして、金額が明確でないものは、評価によって価額を決めるのです。具体的なシミュレーションも重要ですが、まずここでは、賃貸物件に対してどのように課税されるのかのあらましを説明します。

 

相続税の対象は土地と建物

不動産における相続税の対象は基本的に土地と建物です。それは、賃貸物件であっても変わりはありません。相続税の評価においても土地と建物は、個別に評価されることが定まっています。

また、太陽光発電やエネファームなどの資産価値が高いものは、相続税の対象となる場合がありますのでご注意ください。

不動産においては、自用と賃貸用では評価の方法が違います。しかし、賃貸用であっても評価のベースは自用の土地や建物となるのです。

 

1棟賃貸物件と区分賃貸物件の違い

相続する賃貸物件の内容によっては、相続税の計算方法に違いが生じる場合があります。例えば、マンションを相続するとして、1棟を相続する場合と分譲マンションの区分を相続する場合では違いが生じます。

1棟を相続する場合は、単純に土地と建物が相続対象です。分譲マンションは、所有者が単独で所有している専有部分と、所有者全体で共有している共有部分に分かれています。

そのため建物は、専有部分と共有部分が自己所有分となり、土地はマンションの土地全体に対する所有権の割合で分けたものが相続の対象となるのです。

1棟と区分を比較すれば、自由度の低い区分マンションが低く評価される傾向となっています。

 

基礎控除以内なら相続税は課税されない

賃貸物件を相続したからといってすべての相続において相続税が課税されるわけではありません。相続税には基礎控除というものがあります。この基礎控除内であれば相続税の申告も納税の義務も生じません。基礎控除は以下の式で計算します。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

つまり、最低3600万の基礎控除があるので、賃貸物件の評価などを含めた資産総額が3600万円以下で相続税は課税されません。

国税庁:No.4152相続税の計算

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm

 

賃貸物件の相続税評価方法

賃貸物件の相続税評価方法

相続税は、現金など自由度の高い遺産であれば評価が高くなります。逆に賃貸物件などは、借家権が生じて相続人の思い通りに資産を使用できないので、評価が下がる傾向となるのです。

相続税の評価が高ければ納める相続税も高額となり、評価が低ければ安価となるのです。 ここでは賃貸物件の評価方法について詳細に解説します。評価方法を理解すれば自分で賃貸物件の相続税をシミュレーションすることも可能となるのです。

 

土地と建物を別々に評価する

賃貸物件に限らず不動産の相続については、土地と建物を別々に評価することが定められています。土地は、基本的に国税庁が決める路線価を基に算出し、建物は市区町村が決定する固定資産税評価額を基に算出されるのです。

不動産には、自分が使用する自用と賃貸する賃貸用があります。賃貸用の相続税評価は、土地や建物ともに自用の評価をもとに算出する仕組みです。

 

土地の評価方法

賃貸用の建物が建っている土地を税法では貸家建付地といいます。貸家建付地の相続税評価は、自用地の評価を基に算出しますので、まずは自用地を評価しましょう。

自用地の評価方法は、路線価方式と倍率方式の2つです。倍率方式は、路線価が定まっていない地域の評価方法ですのでここでは説明を省略します。

路線価は、所有している土地が面している道路の1㎡あたりの価格で、国税庁が決定します。国土交通省が公表している公示価格の7割~8割程度に設定されていて、土地の評価の基準となる価格です。

自用地の評価は下記の式で計算されます。

自用地の価額=路線価×面積×奥行価格補正率

「奥行価格補正率」は、国税庁のホームページで確認できますが、住宅地などで奥行きが長い土地や旗竿地などは、補正率が低い傾向になっています。つまり、家や賃貸住宅が建てにくい土地は評価が低くなる仕組みとなっているのです。

奥行価格補正率表

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/07.htm

 

貸家建付地の評価方法

自用地を評価して価額を算出しましたら、次は貸家建付地の評価方法です。貸家建付地は、土地に貸家が建っているため、自由に使用したり、貸家を処分したりできない仕組みとなっています。

理由は、賃貸ししているために借主を守る借家権が発生するからです。したがって、相続税の評価も自用地に比べて大幅に下がることになります。貸家建付地の評価は下記の式で算出します。

貸家建付地の価額=自用地の価額-自用地の価額×借地権割合×借家権割合 × 賃貸割合

この式にある「借地権割合」と「借家権割合は、国税庁のホームページで確認できます。「賃貸割合」は、貸家の各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分)がある場合に、その各独立部分の賃貸状況に基づいて下記の式により計算した割合となります。

賃貸割合=課税時期に賃貸されている各独立部分の床面積÷当該家屋の各独立部分の床面積

国税庁:貸家建付地の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm

 

自用建物の評価方法

建物にも自分で使用する自用と賃貸用があります。税法では賃貸用の建物を「貸家」とされているので、この記事でも貸家を用いて説明します。

貸家の評価も自用建物を基に算出する仕組みです。自用建物の評価は、固定資産税評価額と同じですので、納税通知書で確認しましょう。

もし、納税通知書がなければ、市区町村に申請して確認することになります。相続人なら固定資産税評価額を知ることが可能です。

 

貸家の評価方法

貸家の評価は自用建物の価額、すなわち固定資産税評価額を基に算出します。貸家建付地と同様に借家が発生しますので、自由に貸家を取り壊したり、リノベーションしたりできないのです。

どうしても、自由に使いたいのであれば、借主に退去してもらうしかありません。しかし、引っ越し代などの退去費用のほかに、借家権に相当する金額を支払う可能性が高くなり、莫大な費用がかかるおそれがあります。

路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

No.4602 土地家屋の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm

 

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、相続税の納付により遺族の暮らしが圧迫されることがないように設定された特例です。

貸家建付地は貸付事業用宅地に相当しますので、200㎡までを限度に価額を50%に減額することが可能です。

ただし、被相続人の賃貸経営が3年以内の場合は、この特例を受けることができません。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm#hyoka

 

相続税の計算方法

賃貸物件の相続税を導き出すには、基本的な相続税の計算方法を知る必要があります。相続税の計算はまず、課税遺産総額を計算します。

その総額が基礎控除を超えた場合は相続税の対象となり、相続税を計算する仕組みとなっているのです。

 

相続税の課税対象となる遺産総額の計算

  1. 相続や遺贈によって取得した財産の価額と相続税精算課税の適用を受ける財産の価額を合計。
  2. 上記の価額から債務・葬式費用・非課税財産を差し引く。
  3. 相続開始前3年以内の暦年課税に係る贈与財産を加算する(正味の遺産額)
  4. 正味の遺産額から基礎控除を差し引いて課税遺産を算出
  5. 正味の遺産額が基礎控除を超えない場合は非課税

 

相続税の計算

  1. 遺産分割協議にて相続分を決定
  2. 相続分に適用して各相続人別に税額を計算
  3. 各相続人の税額を合算(相続税の総額)
  4. 相続税の総額を各相続人・受遺者・相続時精算課税制度適用人が実際に取得した正味の遺産額の割合に応じてあん分
  5. あん分した税額から各種の軽減や控除を差し引いて実際に納める税額を計算

言葉にすると難しくないかもしれませんが、実際の相続は複雑です。相続のプロフェッショナルに相談や依頼することも視野に入れておきましょう。

もし、申告もれがあれば、ペナルティが課せられる可能性があります。また、相続税の納付期限は、相続開始から10ヶ月以内と定められていることも認識しておく必要があります。

 

賃貸物件の相続税をシュミレーションしてみる

賃貸物件の相続税をシュミレーションしてみる

それでは実際に賃貸物件の相続税についてシミュレーションしてみましょう。

ここでは仮定として、相続人が3名で内訳は妻と子供が2人とします。賃貸物件の実勢価格は、土地が2億円で貸家が1億5000万円とし、合計3億5000万円の市場価値があるものとしてシミュレーションを進めていきます。

 

賃貸物件の評価

賃貸物件の相続税評価は、前途したように土地と建物に分かれます。まず、土地の価額を求めて行くことにしましょう。

路線価は、国土交通省が公表している公示価格の7割から8割程度に設定されていることは先に説明しました。 公示価格は実勢価格の90%程度が一般的ですので、公示価格は1億8000万円となります。

路線価を7割とするとこの自用地の相続税評価額は1億2600万円です。貸家建付地の計算式は以下のとおりです。

貸家建付地の価額=自用地の価額-自用地の価額×借地権割合×借家権割合 × 賃貸割合

借地権割合が70%で借家権割合が30%、賃貸割合が100%と仮定して計算すると

12600-12600×70%×30%×100%=9954(万円)

貸家建付地の相続税評価額は9954万円となりました。

次は貸家を計算しましょう。建物の固定資産税評価額は、実勢価格の70%が一般的ですので、この数値を用いて計算します。結果的に自用建物の相続税評価額は1億500万円となるのです。

貸家の相続税評価額の計算は下記のとおりとなります。

貸家の価額=固定資産税評価額-固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合

この計算式にシミュレーションの数値を当てはめてみましょう。

貸家の価額=10500ー10500×30%×100%=7350(万円)

貸家の相続税評価額は7350万円となりました。貸家建付地と合計すると1億7304万円となります。

 

課税総額を算出

このシミュレーションでは、遺産が賃貸物件のみと想定しますので、正味の遺産額は1億7304万円となりました。

次に課税総額を算出しましょう。基礎控除は相続人の人数分が増える仕組みとなっています。

基礎控除=3000+600×3=4800(万円)

正味の遺産額から基礎控除を差し引いた金額が課税遺産総額となります。

課税遺産総額=17304-4800=12504(万円)

シミュレーションの結果、課税遺産総額が1億2504万円となりました。これが、現金の相続でしたら、3億5000万円から基礎控除の4800万円のみが控除となりますので、3億200万円が課税遺産総額となります。賃貸物件との差額は、1億7696万円もあるのです。

 

相続税総額を算出

課税遺産総額の算出できましたら、次は相続税総額を算出しましょう。

このシミュレーションでは、法定相続どおりに遺産分割したと想定します。法定相続では、妻の相続分が50%で子が25%ずつです。

相続額は、

妻:12504×50%=6252(万円)

子:12504×25%=3126(万円)

となります。

次は、相続額に税率をかけます。この相続額では、妻の税率は30%で子の税率は20%です。ここで計算する税額は、あくまでも相続税総額を算出するための仮の税額となります。

妻の税額:6252×30%=1875.6(万円)

子の税額:3126×20%×2=1250.4(万円)

子は2人いますので2人分として計算しました。

この税額の合計が相続税総額となります。

相続税総額=1875.6+1250.4=3126(万円)

現金で相続した場合を試算すると

妻:30200×50%×40%=6040(万円)

子:30200×25%×30%×2=4530(万円)

相続税総額=6040+4530=10570(万円)

税率は妻が40%で子が30%となり、相続税総額は1億570万円となりました。

現金での相続と賃貸物件での相続とでは、相続税が7444万円も違ってくるのです。

 

相続割合であん分して算出

それでは、実際に課税される相続税額を算出します。各人の相続税額は、相続税総額に対して、実際の相続割合であん分する仕組みです。

このシミュレーションでは、法定相続どおりに相続したと想定していますので、妻が50%で子が25%ずつです。

妻の相続税額=3126×50%=1563(万円)

子の相続税額=3126×25%=781.5(万円)

3億5000万円の実勢価格の賃貸物件を相続したケースでの相続税をシミュレーションした結果、妻の相続税は1563万円で、子はそれぞれ781万5000円ずつとなりました。

また、相続税総額でみると、現金で相続した場合との対比では、7444万円もの節税効果があると算出されています。相続税だけを捉えると、賃貸物件が相続税対策に有効といえるでしょう。

参照

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm#hyoka

路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

奥行価格補正率表

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/07.htm

 

相続後の賃貸物件について

相続後の賃貸物件について

相続した賃貸物件は、売却するか賃貸経営を承継することになります。いずれにしても被相続人が残してくれた財産ですので、大切に扱うことを心がけましょう。ここでは、売却する場合の注意事項や賃貸経営について解説します

 

賃貸物件を売却する場合

相続した賃貸物件を売却する場合は、名義人の意思表示が必要です。相続人した人が1人なら何も問題ありません。

しかし、遺産分割協議にて共有名義となっている場合は、相続人全員の合意が必要となります。1人でも反対者がいれば、売却は不可能です。

いざ売却できる段階になっても、いくつかの注意事項がありますので説明します。

  • 売却の際は、印紙税などの税金や諸経費が必要
  • 優良な不動産会社を見つける必要あり
  • 売却には多種多様な書類が必要なので先に準備する
  • すぐに売却先が決まらないケースも視野に入れる
  • 売却後は、所得税の申告と納税の義務が生じる

これ以外にも問題が生じる可能性はあります。不動産の売却は、時間や資金に余裕をもって取り組むようにしましょう。

 

賃貸オーナーとなって経営する場合

相続人が1人なら、賃貸オーナーも1人なので賃貸経営に勤しむとよいでしょう。相続人が複数の場合は共同経営か、もしくは代表者が経営を行うことになります。

いずれにしても、オーナーチェンジしたのですから、借主に報告し、以後の家賃の振込先などの連絡を周知しなければなりません。

賃貸経営にはいくつかのリスクがありますので説明します。

  • 空き家リスクにより家賃収入が減る場合がある
  • 経年劣化による老朽化リスク
  • 災害や火災による損害リスク

これらのリスクに備えておいて、臨機応変に対応できれば安定した家賃収入が得られます。もし、賃貸経営について不安があるようなら、賃貸経営のプロフェッショナルに相談すると良いでしょう。

安易にサブリース契約したり、管理会社に任せたりすると思わぬ落とし穴が潜んでいるかもしれません。毎年のように、報道に取り上げられたり訴訟が起こったりしていますので注意しましょう。

 

シミュレーションでモアベターな相続を

シミュレーションでモアベターな相続を

ここまで、賃貸物件の相続税について、賃貸物件の評価方法や相続税の計算方法を解説し、シミュレーションしてきました。実際の相続は、この記事のシミュレーションのように財産が賃貸物件だけと言う訳ではありません。複雑な相続税を税の素人がシミュレーションすることは困難といえるでしょう。

しかし、賃貸物件を含めて相続税をシミュレーションすることは円滑な相続に繋がります。相続税のシミュレーションが難しいと思われたならこの相続対策のすゝめをご活用ください。きっと円滑な相続の手助けになるでしょう。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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