賃貸物件は相続税対策になぜ有効?理由と賃貸物件相続のリスクを紹介

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「賃貸物件は相続税対策として有効である」そのようなことを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。しかし、なぜ相続税対策として有効なのか?と聞かれて「〇〇だから」と答えられる方は多くないでしょう。

なぜ、賃貸物件が相続税対策として有効なのか、その理由は「評価額を引き下げられるから」です。相続税は相続財産そのものに課税されるわけではなく、あらゆる控除をして最終的に残った財産に対して一定の税率を掛けて計算します。

「現金」で持っていればそのままの価値ですが、不動産になればその価値以下の評価になるため、相続税対策として有効です。たとえば、相続時の不動産の価格は固定資産税評価額によって決定します。

ところが、固定資産税評価額は時価の7割程度が相場と言われています。つまり、1億円を現金で相続させるときと時価1億円の賃貸物件を相続させるときでは、3,000万円もの差が発生するのです。

今回は、賃貸物件は相続税対策として有効なのか?なぜ有効なのか?と、疑問に思われている方に向けて、下記のことをお伝えします。相続税対策を検討されている方はぜひ参考にしてください。

・賃貸物件が相続税対策に有効と言われる理由は「評価額を引き下げられるから」「債務控除を受けられるから」の2つ

・評価額を引き下げるための3つのポイント「借家建付地の減額措置」「固定資産税評価額の軽減措置」「小規模宅地等の軽減措置」について詳しく紹介

・【危険】賃貸物件のメリットにのみ着目しているとかならず痛い目を見るので要注意。賃貸物件は知識や経験が必須。相続したあとのことまで考えたリスクヘッジが必要不可欠

・不動産は需要次第で買い手が付かないことも考えられる。目先のお金(相続税対策)のみではなく、長い目で見たときに本当に相続をさせるべきか?を考えたほうが良い

 

賃貸物件が相続税対策に有効と言われる2つの理由

賃貸物件が相続税対策に有効と言われる2つの理由

相続対策に賃貸物件が有効と言われる主な理由は2つです。

・相続制課税評価額を引き下げられる可能性があるから

・債務控除を利用できるから

相続税は相続や遺贈によって取得した財産に対して、各種控除を差し引いて下記の税率を掛けて計算されます。賃貸物件を所有することで、あらゆる控除を受けられるため、結果的に相続税対策として有効になるでしょう。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円以上 55% 7,200万円

参考:国税庁|相続税の税率

上記の通り、相続や遺贈によって取得する財産の評価額が高ければ高いほど、高額な税率で相続税が課税されます。もちろん、すべての相続に対して平等に、基礎控除や配偶者の税額軽減等の各種控除が準備されています。

それでもなお、相続税対策を検討するのであれば「賃貸物件」は有効です。なぜ賃貸物件が相続税対策として有効なのかについて、詳しく見ていきましょう。

 

理由①:評価額を引き下げれば相続税を軽減できる

不動産は相続税評価額を引き下げるのにとても有効です。たとえば、現金1億円があればその価値は「1億円」です。しかし、賃貸物件を1億円で購入したからと言ってその賃貸物件が「1億円の価値がある」とは認められません。

実際、賃貸物件の評価額を決めるためにはいくつかの方法が用意されており、最終的には現金で所有しているよりも課税評価額が下げられるのです。日本の税制度では土地や建物の実売価格よりも安く評価できるような仕組みづくりがされています。

賃貸物件の評価額を引き下げられるポイントは3つです。

・ポイント①借家建付地の減額措置

・ポイント②固定資産税評価額の軽減措置

・ポイント③小規模宅地等の軽減措置

賃貸物件の評価額を下げられる3つのポイントについて詳しく見ていきましょう。

ポイント①:借家建付地の減額措置

賃貸物件に付随する「土地」を相続するときは、借家建付地の減額措置を利用することで相続税評価額を2割程度軽減できます。

そもそも借家建付地とは、第三者が利用する建物が建っている土地のことを指し、賃貸物件が該当します。借家建付地になることで「借地権割合」および「借家権割合」によって評価額が敬田できる仕組みです。

借家建付地の評価方法計算式は下記の通りです。

【賃貸割合(下記計算を参照)✕借家権割合✕借地権割合✕自用地としての価額-自用地としての価額=貸家建付地の価額 】

【当該家屋の各独立部分の床面積の合計(A)÷Aのうちの課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計=賃貸割合】

参考:国税庁|貸家建付地の評価

ポイント②:固定資産税評価額の軽減措置

建物に関する相続税は「固定資産税評価額」をもとに計算されます。この固定資産税評価額も賃貸物件として利用されているときは、軽減措置を受けられるため相続税対策として有効です。

本来納税すべき固定資産税評価額から借家権割合(全国一律30%)と、賃貸として貸し出している部分を控除できます。賃貸物件としてアパート等を所有していたとしても、空室がある分については差し引かれます。

たとえば10室あるアパートを賃貸物件として所有していたとき、満室経営であれば賃貸割合が100%になります。しかし、半分の5室が空室だったとすれば賃貸割合は50%になり、固定資産税の軽減が少なくなるでしょう。

参考:国税庁|土地家屋の評価

一般的に固定資産税は時価の70%程度が相場と言われています。つまり、時価1億円相当の賃貸物件であれば7,000万円程度の評価、さらに賃貸割合等に応じた控除を受けられるため、節税効果はとても大きいと言えるでしょう。

ポイント③:小規模宅地の特例による軽減措置

小規模宅地の特例とは、被相続人が生前に生活をしていた物件もしくは事業として利用していた物件は、評価額を50%~80%軽減する措置です。この軽減措置を利用すれば200㎡まで評価額が50%軽減できます。

また、条件次第では最大で80%の減額が見込めるため、賃貸を開始したことによる経済的メリット、節税効果はとても大きいと言えるでしょう。

小規模宅地の特例を利用できる事業用物件は下記に限定されているので注意してください。

・特定事業用宅地等

・特定同族会社事業用宅地等

・貸付事業用宅地等

通常の賃貸物件で該当するのは「貸付事業用宅地等」です。これには、不動産貸付業の他、駐車場・駐輪場なども該当します。ただし、相続発生3年以内に賃貸物件として利用を開始したり取得したりしたときは、小規模宅地の特例を利用することができません。

 

理由②:債務控除を利用できるから

不動産を購入される方のほとんどは、金融機関等から多額の融資を受けているため、債務控除も利用できます。債務控除とは、被相続人が残した債務や葬儀代の控除のことです。

たとえば、1億円の賃貸物件を購入して6,000万円の債務が残っていたとすれば、6,000万円を債務控除できます。その他、固定資産税評価額や他の控除を考慮すれば、実質負担0で賃貸物件を相続させることができるでしょう。

各種控除や特例を利用することで大きな節税が見込めるため「賃貸物件は相続税対策として有効」ということが言えるでしょう。

 

賃貸物件の相続にはリスクを伴うので要注意

賃貸物件の相続にはリスクを伴うので要注意

賃貸物件は相続税対策として「有効」ですが、不動産貸付事業に関する知識を持っていない方が安易に手を出せば、かならず失敗します。とくに、債務が残っている不動産は、債務控除を受けられるため、非常にメリットは大きいです。

そのため、少し無理のある借り入れを検討されている方がいるかもしれません。しかし、無理のある借り入れはかならず破綻します。また、相続人も急に多額の債務を背負うことになり、かならず苦労するでしょう。

「相続税対策として有効」このことだけに注目してしまい、結果として破綻してしまう恐れもあります。しっかり賃貸物件に伴う「リスク」も把握したうえで、相続税対策をしての賃貸物件所有を検討してください。

 

老朽化した不動産は維持管理に苦労する

老朽化した不動産や空室率が高い不動産を相続しても、不動産を維持管理するための労力が必要以上にかかり「迷惑」と感じてしまう相続人が多いでしょう。また、仮に不動産としての価値が一切ない状態になってしまえば、解体費用も発生します。

更地にして使いみちがある土地であれば良いですが、更地にしてもまったく需要のない土地であれば、税金ばかりが課税されてしまいます。とくに、建物が建っていない「土地のみ」の不動産は固定資産税がとても高額です。

黙っていてもお金が発生する不動産であるからこそ、慎重に相続をされるべきです。また、現在は確実に収益を上げられている不動産だったとしても、オーナーが変わった瞬間に右肩下がりになることもめずらしくはありません。

不動産経営は知識があって成功するものです。相続人が賃貸物件を相続したところで、今後も順調に経営できるとは限りません。まったく知識のない者、不動産経営に関する経験がない者が相続をすればどうなるかは明確でしょう。

空き家率が上がってしまえば、借金の返済ができない、更地にするにしてもできない。結果的に社会問題にもなっている「空き家」になってしまうでしょう。先々まで考えたとき、必ずしも賃貸物件が「最適な相続税対策」とは言い切れません。

目先のお金だけを見れば、あらゆる控除や特例によってその効果は絶大です。しかし、先々のリスクを考えれば、上記のようなことも起こり得ると思っておいてください。

 

知識がないまま賃貸を始めればかならず失敗する

相続が発生したことによってある日、突然賃貸物件を相続した相続人はどう思うでしょうか。すぐにその不動産を売却できれば良いですが、なかなか買い手が付かなければ嫌でもその賃貸物件を経営していかなければいけません。

不動産経営は、空室やあらゆる危険性へのリスクヘッジ等、必要な知識や経験がたくさんあります。ある日突然相続した人が不動産経営で成功できるほど甘くはありません。

実際に入居者がいる物件もしくは、空室の物件を相続するということは、その時点で多くのリスクを背負っています。通常は、しっかり知識をつけたうえで賃貸を開始するはずです。

もし、相続税対策として賃貸物件を検討されているのであれば、相続人もふくめて不動産の知識を付けておくこと。また、不動産経営に関する情報の共有、終活による相続後の手続き管理まで徹底して準備しておいてください。

そこまでしてもなお、不安が残るのが賃貸物件です。相続人は、あらかじめリスクについて承知しておき、万が一のときにはどうするべきか、どうしたいのかをしっかり話し合っておくようにしましょう。また、無知識であればほぼ100%失敗すると思っておいてください。

 

まとめ

今回は、賃貸物件は相続税対策として有効なのか?についてお伝えしました。今回お伝えしたことをまとめると下記の通りです。

・賃貸物件が相続税対策として有効と言われる理由は「評価額を引き下げられるから」「債務控除を利用できるから」の2つ

・評価額を下げる方法は3つ「借家建付地の減額措置」「固定資産税評価額の軽減措置」「小規模宅地等の軽減措置」

・賃貸物件は相続税対策としてかなり有効。しかし、リスクが伴うので要注意。賃貸物件は知識と経験がなければかならず失敗する

賃貸経営は相続税対策として有効です。その理由は、評価額を下げられるから。とのことでした。通常、不動産を相続するときは固定資産税を基準に評価します。固定資産税は時価の7割程度が相場であるため、現金等で相続させるよりも相続税対策効果は大きいです。

さらに、各種控除や軽減措置等を利用することで不動産の価格を引き下げることが可能です。また、物件に債務が残っていたときは、債務控除も受けられるため、賃貸物件に対する実質的な相続税はほぼかからないこともめずらしくはありません。

もそも相続税は多額の「基礎控除」も受けられるため、さらに賃貸物件も相続させることができれば、相続税の節税効果は絶大です。

ただその一方で、賃貸物件ならではの「リスク」も多く伴うとのことでした。何も知識を持たない方が不動産を相続して、不動産経営を開始してもほぼ100%失敗するでしょう。相続税対策としてはとても有効。だけど、多くのリスクも伴う。ということを忘れずに、しっかり検討したうえで賃貸を開始されてみてはどうでしょうか。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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