賃貸物件を相続すると家賃収入も?受け手視点で賃貸相続を解説

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相続税法の改正施行の影響もあって、不動産投資から賃貸経営への流れが人気をよんでいます。今後、遺産相続においても賃貸物件の相続は増加傾向になるでしょう。

今回は、相続の受け手側視点から、賃貸物件の相続について解説します。

被相続人の立場の人もご一読くだされば、相続対策の一助になり、相続人との相互理解が深まるでしょう。

 

賃貸物件の相続こそ節税効果あり

賃貸物件の相続こそ節税効果あり

 

遺産を相続する際、受け手側として非常に気になるのが相続税ではないでしょうか?

相続税は、2019年7月に法が改正施行されて、大幅な増税傾向になりました。その中で、賃貸物件に関しては有効な節税手段として注目を浴びています。

遺産の受け手は、現金よりも賃貸物件を相続するほうが大幅な節税になるのです。ここでは、その仕組みについて解説します。

 

自用と賃貸用の違い

不動産には、自分で使用する自用と他人に貸す賃貸用があります。物理的な違いはなく、用途によって区別される場合があるのです。

用途による区別の例としては、融資が解りやすいでしょう。住宅ローンや不動産ローンでは、自用と賃貸用で区別されます。一般的に、賃貸用のローンは自用と比べて、審査が厳しく金利が高い傾向となる場合が多いです。

遺産相続においても、自用と賃貸用では不動産評価が違っています。相続税に関しては賃貸用のほうが、相続税評価は低い傾向なっている場合が多いのです。

 

自用物件の評価方法

不動産の相続税評価は、土地と建物に分けて評価します。自分が使用したり、居住したりする土地は「自用地」で、同様の建物は、自用建物や居住用建物とされています。

遺産の受け手が、自用地を相続した場合の相続税評価の計算は2種類です。一つは、路線価方式で、もう一つは倍率方式となります。

路線価方式は、定められた路線価を基に評価する方法で、下記の式で評価し価額を決定します。

自用地価額=路線価×面積(㎡)×奥行価格補正率

路線価は下記参照の「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で知ることができます。また、奥行価格補正率は下記参照の「奥行価格補正率表」で確認してください。

倍率方式は、路線価の決まっていない山林などの地域に用いられる評価方法です。固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて計算した金額で評価します。

自用建物は、固定資産税評価額と同額ですので、特別な計算式などはありません。評価額がわからない場合は、所在地の市区町村で確認しましょう。

 

賃貸物件の評価方法

次は、賃貸物件の相続税評価方法です。自用と同様に土地と建物に分けて評価します。相続税等の法令においては、マンションやアパートは貸家とされ、使用している土地は貸家建付地とされているのです。

先に土地である貸家建付地の評価方法を説明します。貸家建付地の評価は自用地の評価がベースで、以下の式で評価し価額を決定する仕組みです。

貸家建付地の価額=自用地の価額-自用地の価額×借地割合×借家権割合×賃貸割合

この式にある借地割合と借地権割合は、自用地で用いた「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で確認できます。賃貸割合は貸家の各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分)がある場合に、その賃貸状況に基づいて下記の式で計算された割合です。

賃貸割合=課税時期に賃貸されている各部分の床面積合計/当該家屋の各独立部分の床面積の合計

少し解りづらいのですが要するに、10戸のアパートで全く同じ間取りの場合で、満室なら100%となり、8戸が入居中なら80%となります。

続いて貸家の評価です。基準となるのは固定資産税評価額で、そこに借家割合と賃貸割合を乗じた価額を固定資産税評価額から差し引いて決定します。

貸家の価額=固定資産税評価額-固定資産税表額×借家権割合×賃貸割合

この式にある借家割合は、貸家建付地と同様に「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で確認し、賃貸割合も貸家建付地と同じ式で決定する仕組みです。

いずれにしても、自用物件の価額から控除されることになっているので、相続税としては大きな節税となります。

 

節税効果の具体的な計算例

それでは、具体的に相続人である受け手が現金で相続した場合と、賃貸物件で相続した場合の相続税を比べてみましょう。

例として相続人は子供が3人で相続額は3億円と仮定します。賃貸物件は、土地の実勢価格が1億5000万円で、建物の実勢価格が1億5000万円で合計3億円です。

■現金3億円を相続したケース

基礎控除は、相続人が3人なので4800万円

30000-4800=25200(万円)

2億5200万円を3人で当分

25200÷3=8400(万円)

8400万円の相続税率は30%となります。

その税額を3人分合計すると

8400×30%×3=7560(万円)

現金の場合、受け手が納める相続税総額は7560万円です。

■賃貸物件を相続したケース

土地の場合は実勢価格と路線価で差があります。一般的に路線価は公示価格の70~80%程度で、公示価格は実勢価格の90%程度です。ここでは目安として公示価格の80%と実勢価格90%を用いて計算します。自用地価額は路線価を基に算出することは先に説明したとおりです。

1億5000万円の土地の自用地価額は

15000×90%×80%=10800(万円)となります。

次に建物ですが、建物の固定資産税は、実勢価格の70%が目安です。ここではこの目安を用いて計算します。

1億5000万円の建物の固定資産税評価額は

15000×70%=10500(万円)となります。

賃貸物件ですので、自用の価額から控除があります。

借地割合は70%・借地権割合は30%・賃貸割合は100として計算すると

貸家建付地価額=10800-10800×70%×30%×100%=8532(万円)

貸家の価額=10500×30%×100%=3150(万円)

賃貸物件の相続税評価額は1億1502万円となり、基礎控除差し引くと6702万円が課税対象額となるのです。

これを3人で当分すると1人あたりの相続額は2234万円となり、税率は15%になります。

1人あたりの相続税額は335万1000円で、3人分を合計すると相続税総額は1005万3000円です。

現金の場合は7560万円だった相続税総額からすると、大幅に節税できることになりました。このような節税が可能ということは、受け手としては現金より賃貸物件を相続したほうが良いと考えるのではないでしょうか。

 

賃貸物件の相続後売却

遺産の受け手である相続人は、相続後であっても遺産を売却することができます。相続後なので、すでに相続人の財産となっているからです。賃貸物件で賃貸し中であっても問題ありません。

ただし、注意事項があります。譲渡所得に関しては、所得税と住民税が課税されるので、被相続人が取得した費用や譲渡費用などしっかりと把握しておきましょう。

もし、取得費がわからない場合は、譲渡収入の5%がみなし取得費として計上できます。しかし、不動産の取得費がそのような低額なわけはありませんので、相続前から準備しておくほうが賢明です。

また、現金が必要になってから相続した賃貸物件を売却しようとしても、すぐに現金化できる保証はありません。買い手がつかなければ売買は成立しないのです。賃貸物件の売却は計画的に行うようにしましょう。

 

賃貸物件の相続=賃貸経営の場合

賃貸物件を相続し、賃貸経営を承継する場合は、家賃収入を得ることができます。資産を自由に使えない代償として、安定した不労所得を確保できるのであれば、こちらのほうが良いと考える人も増えています。

遺産の受け手である相続人が、大幅な節税の恩恵を受けて家賃収入を得られるのであれば、被相続人も納得できるのではないでしょうか。

「自用物件の評価方法」~「賃貸物件の相続=賃貸経営の場合」の参照

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

国税庁:財産評価基準書路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm

国税庁:奥行価格補正率表

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/07.htm

国税庁:貸家建付地の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm

国税庁:土地家屋の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm

 

賃貸経営なら所得税や住民税も節税可能

賃貸経営なら所得税や住民税も節税可能

賃貸物件を相続して、その事業を継承すれば賃貸経営者になります。賃貸経営者は、家賃収入の受け手となり不動産所得を得るので、毎年確定申告しなければなりません。つまり、所得税と住民税を納める義務が生じるのです。

しかし、賃貸経営には、所得税と住民税を節税する効果もありますので、ここで説明します。

 

損益通算とは

賃貸経営における損益通算とは、給料所得や事業所得と通算できることをさします。賃貸経営において不動産所得が赤字だとしても、給料所得からその赤字を差し引くことができるのです。逆に、事業所得が赤字でも不動産所得や給料所得から事業所得分の赤字を差し引くことができるので、節税効果が生じることになります。

 

繰越控除とは

繰越控除とは、損益通算しても当期で差し引くことができなかった赤字分を3年間繰り越して控除できる仕組みです。例えば、今季の不動産所得が赤字の1000万円ならば、来季に黒字が500万円でても繰越控除で500万円の赤字となります。

つまり、本来ならば、500万円に対して所得税と住民税を納める義務があるのに、繰越控除によって赤字となるので非課税となるのです。非課税になれば、国民健康保険税も非課税となり、国民年金保険料も免除となる可能性があります。

 

減価償却費の効果

賃貸経営において節税効果を上げる要因が減価償却費です。減価償却費とは、建物などの取得費を耐用年数に分けて経費計上することをさします。ちなみに土地は減価償却費の対象ではありません。

減価償却費は定額法と定率法で計算しますが、建物などは一般的に定額法が用いられますので下記の式で計算します。

減価償却費=取得価額×定額法の償却率

定額法の償却率は耐用年数によって定められています。下記の耐用年数と減価償却資産の償却率表で確認してください。

耐用年数(建物/建物附属設備)

https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html

減価償却資産の償却率表

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/pdf/3.pdf

例えば、木造貸家を建てた場合なら、耐用年数は22年で、償却率は0.046です。

1億5000万円の貸家の減価償却費は、

15000×0.046=690(万円)となります。

つまり、22年間毎年690万円を経費計上できることになるのです。貸家を相続し、賃貸経営を継承した場合は、減価償却費が残っていればそれも継承することになります。

 

具体的な所得税の節税効果

次は、具体的な節税効果について説明します。給料所得者は年収に応じて所得税を納めています。仮に年収が800万円であれば、税率が23%で184万円の所得税となります。

先に述べた貸家が1億5000万円の建築費で、減価償却費が残っているとすると減価償却は690万円です。家賃収入から経費を差し引いた所得が500万円とすれば、不動産所得は減価償却費を差し引くのでマイナス190万円となります。

損益通算により、年収の800万円から不動産所得のマイナス190万円を差し引いた課税対象額は、610万円となります。税率は20%ですので税額は122万円となるのです。

減価償却と損益通算がなければ、給料所得の800万円と不動産所得の500万円、合計1300万円に対して課税されて税率が33%で税額は429万円となります。つまり、307万円もの所得税が節税できる結果となりました。

なお、所得税の税率は下記をご参照ください。

所得税の税率

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

 

賃貸物件の相続は受け手の人数によって違う

賃貸物件の相続は受け手の人数によって違う

賃貸物件の相続については、相続人の人数によって違いが生じます。相続人の数が増えるほど問題も起こりやすい状態になりがちです。遺産分割するためには遺産分割協議を行う必要があります。そして、相続人全員の合意を得て遺産分割決定書を作成します。この書類がなければ預金も引き出せず、登記を変えることもできません。

しかし、賃貸物件が主たる相続財産であれば、各々の主張が異なるケースも増えてくるのです。ここでは、相続人が1人の場合と複数の場合に分けて説明します。

 

相続人1人で相続

相続人が1人の場合は、さしたる問題も起こりません。賃貸経営承継又は売却のどちらかを選択することになります。売却の場合は相続を受けて、申告や納税などを済ませてからが良いでしょう。

賃貸経営を承継する場合は登記を変更し、被相続人が契約していた各種の契約を確認します。継続するものは名義を変更し、継続しないものは解約手続きを済ませます。

オーナーチェンジについて、借主に告知する義務は法律上ありません。しかし、家賃の振込先など変更することになりますので、通知しておくほうが良いでしょう。

 

複数の相続人で相続

賃貸物件に限らず、分割相続には以下の4つの方法があります。

現物分割

代償分割

換価分割

共有分割

現物分割や代償分割で、賃貸物件を1人で相続するなら問題は起こらないでしょう。また、換価分割で賃貸物件を売却し、現金を分けていた場合もトラブルが起こる要素が減ります。

問題は共有分割です。共有分割の場合は、1つの賃貸物件が複数相続人の共有名義になります。賃貸物件の共有名義とは、その物件を相続人の数や相続割合に応じた持ち分という形で共同所有することです。

公平な相続に変わりありませんが、賃貸経営の経営方針が違ったり、いきなり売却を主張する人があらわれたりするかもしれません。また、共有名義であれば、名義人全員の合意がなければ何もすることができないのです。

縁が深かったり、人間関係が上手く行っていたりする間は、さまざまな問題を乗り越えることができるかもしれません。しかし、共有名義であっても財産ですので、代替わりしていくものです。代替わりが起これば、縁も浅くなり、人間関係も希薄になるかもしれません。問題が起こっても、当人間で解決できなくなる恐れもあるでしょう。そのようなことにならないように、賃貸物件の相続は、受け手が慎重に協議する必要があります。

 

家賃収入も受け手人数によって違う

家賃収入も受け手人数によって違う

賃貸物件を相続し賃貸経営に乗り出したら、家賃収入を得ることができます。家賃収入も1人で相続する場合と複数で相続する場合とでは違いがあります。ここでは、1人で相続したケースと共有分割相続した場合に分けて説明します。

 

家賃収入を1人で受け取る場合

賃貸物件を1人で相続した場合は、賃貸経営を継承すれば家賃収入が得られます。家賃収入は不動産所得なので、確定申告し所得税と住民税を納める義務が生じます。しかし、節税効果が見込めるので、上手に経営すれば安定した所得となるでしょう。

 

家賃収入を複数で受け取る場合

賃貸物件が複数の相続人の共有名義であれば、家賃収入は遺産分割決定書に記された相続分で分けることになります。分割した家賃収入も不動産所得ですので、各々に確定申告や納税の義務が生じるのです。

共有名義で賃貸経営するとデメリットが生じます。リフォームやリノベーション、建て替えなど経営上必要な行為に対して、常に共有者全員の合意が必要となります。1人でも反対がでれば修繕さえもできません。

民法251条では「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」と定められています。つまり法的にも常に全員合意が求められているのです。

多数決なら事が進んでも全員合意なら、よほどの人間関係が構築されていなければ賃貸経営は難しいといえるでしょう。

民法251条

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail/129AC0000000089_20190701_430AC0000000072/0?revIndex=4&lawId=129AC0000000089#848

 

賃貸物件の相続は準備が必要

賃貸物件の相続は準備が必要

賃貸物件の相続は、大きな節税効果が見込めます。そして、相続の受け手は安定した家賃収入が得られて、所得税などの節税まで期待できるのです。相続税の増税後は年々注目度が増しているといえるでしょう。

しかし、相続人が複数だと問題が起こりやすいという反面もあります。被相続人と相続人が、相続についてよく話あうことも重要ですし、遺言書を認めるなどトラブルを未然に防ぐ備えも必要となります。

相続のプロに相談しながら進めると、トラブルの種は大幅に削減できます。複雑な賃貸物件でも円満な遺産相続が可能となるでしょう。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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