不動産相続は節税になる?相続対策につながる節税方法

  1. 不動産相続
  2. 24 view

不動産を相続させたり、相続したりする人の中には、できるだけ相続税を抑えたいと考えている人がいるのではないでしょうか。不動産相続に限らず、節税意識を持つことは当然のことです。できれば、現状のままで相続させたい、相続したいと思うことがあっても不思議ではありません。

今回は、不動産相続についての節税方法を詳細に解説します。不動産相続は、多種多様なケースがあり、複雑な要素があります。しかし、この記事を読めば、不動産相続の節税対策に対する知見を深めることができるでしょう。

 

現金相続と不動産相続の違いを知り節税する

現金相続と不動産相続の違いを知り節税する

不動産相続に対して、密接に関わる税とは「相続税」です。相続税は、遺産総額が基礎控除を上回った場合に課税される税金で、基礎控除以内なら非課税となり相続税を申告する必要もありません。不動産相続に関しては、不動産の価値が基礎控除を上回って、課税される可能性は高い傾向となっています。

理由は、不動産が高価な財産だからです。相続税の対象となる財産には、さまざまな種類があります。少しでも価値があるものは、全て課税対象といっても過言ではありません。その中で、最も高額な財産のひとつが不動産といえます。不動産の特有の軽減措置を含めて、相続税は不動産相続に密接に関わっているのです。

 

現金と不動産の評価方法の差

不動産相続と相続税は密接ですが、不動産は相続税の対象財産の中で、最も節税効果が期待できる財産でもあるのです。矛盾しているように思えるかもしれませんが、現金で1億円の遺産総額と土地のみで1億円の遺産総額では、土地のみが節税効果は高くなる傾向となっています。

このことについては後で詳細に説明しますが、理由は評価方法にあります。税金は原則として時価に課税されます。相続税の課税対象財産の中には時価が分かりにくい財産があります。そのような、財産の時価を算出するためには、評価方法が必要となります。つまり、すべての課税対象財産は、時価を算出するための評価方法が定まっているのです。

その評価方法では、現金や預金なら1億円は1億円と評価されますが、不動産は、現預金や不動産の市場価値より低く算出される仕組みとなっているのです。このことを、利用すれば相続税の節税効果を得ることは難しくありません。2019年の相続税大改正後に不動産相続する人が増えている要因ともなっているのです。

 

現金と自用不動産・賃貸用不動産の評価額の差

それでは、実際に不動産相続に課税される相続税が、現金と比べてどの程度節税効果があるのかを検証します。ここでは、遺産総額は2億円で、現金で2億円、自用不動産の市場価値が2億円・賃貸用不動産の市場価値が2億円として計算します。相続人は、被相続人の妻と子ども2人の計3人で、法定相続どおりに相続したとします。

 

現金での相続税評価

現金は、相続税において評価の軽減措置がない財産となりますので、控除は基礎控除のみです。法定相続どおりに相続すれば、相続税は以下のようになります。

基礎控除=3,000万円+600万円×3=4,800万円

課税遺産総額=2億円-4,800万円=1億5,200万円

まず、課税遺産総額を法定相続分であん分して相続税総額を算出します。法定相続分に対しての控除額はこの際に差し引かれます。

相続人 法定相続分 法定相続による遺産額 税率 控除額 税額
課税遺産総額の1/2 7,600万円 30% 700万円 1,580万円
子① 課税遺産総額の1/4 3,800万円 20% 200万円

 

560万円
子② 課税遺産総額の1/4 3,800万円 20% 200万円 560万円

税額を合計すると、相続税総額は2,700万円です。この総額を実際の相続割合であん分する必要があります。また、このケースでは配偶者控除が適用されますので、以下の表を参考にしてください。

相続人 実際の相続分※1 相続税相当額 控除額 実際に納める税金
遺産総額の1/2 1,350万円 1,350万円 0円
子① 遺産総額の1/4 675万円 0円※2 675万円
子② 遺産総額の1/4 675万円 0円※2 675万円

※1このケースでは法定相続どおりでしたが、遺産分割協議や遺言書により相続分が法定相続ではなかった場合は、実際の相続分で相続税を算出します。

※2子の控除は先の相続税総額算出時に控除されているので、ここでは0円となります。

遺産総額2億円の現金を妻と子の3人で相続した場合の実際に納める相続税は、1,350万円となります。遺産総額からすると相続税率は6.75%となりました(妻の控除については、後で詳しく説明します)

 

自用不動産の相続税評価

不動産の相続税評価は、土地と建物を別々に評価すように定められています。相続税では、自用の土地を「自用地」といい、居住用の建物を「自用家屋」といいます。遺産総額2億円の内訳として、自用地の市場価格が1億5,000万円で、自用家屋の市場価格が5,000万円として試算します。

不動産鑑定協会では、「 」とあります。つまり、市場価格の70%程度が相続税評価額に相当するということです。

このことから、2億円の市場価値がある不動産の相続税評価は、市場価値の70%程度となりますので、1億4,000万円となります。土地と建物に分ければ、自用地が1億500万円で、自用家屋が3,500万円です。

実際には、自用地は路線価方式で算出し、建物は固定資産税評価額と同じとなります。自用地の相続税評価方法は、路線価方式と倍率方式です。宅地であれば、路線価方式が一般的ですので、路線価方式の計算式を以下に記します。

自用地の評価額=正面路線価×面積×画地補正率表

路線価方式では、土地の形状によって、評価額がさらに下がる仕組みとなっています。路線価と画地補正率は以下の国税庁ホームページで確認できます。自用家屋の評価額は、固定資産税評価額と同じです。

自用不動産の相続税を試算すると以下のようになります。基礎控除は4,800万円です。

課税遺産総額=1億4,000円-4,800万円=9,200万円

相続人 法定相続分 法定相続による遺産額 税率 控除額 税額
課税遺産総額の1/2 4,600万円 20% 200万円 720万円
子① 課税遺産総額の1/4 2,300万円 15% 50万円

 

295万円
子② 課税遺産総額の1/4 2,300万円 15% 50万円 295万円

相続税総額は1,310万円となりました。相続税総額を実際に相続分であん分します。

相続人 実際の相続分※1 相続税相当額 控除額 実際に納める税金
遺産総額の1/2 655万円 655万円 0円
子① 遺産総額の1/4 327万5,000円 0円 327万5,000円
子② 遺産総額の1/4 327万5,000円 0円 327万5,000円

遺産総額2億円の自用不動産を、妻と子の3人で相続した場合、実際に納める相続税は、655万円となります。遺産総額からすると相続税率は3.275%となります。現金での相続と比べると695万円の節税となりました。

 

賃貸用不動産の相続税評価

賃貸用不動産の相続税評価は、自用不動産の相続税評価が基になります。相続税では、賃貸用の土地を「貸家建付地」といい、賃貸用の建物を「貸家」といいます。貸家建付地の相続税評価は下記の計算式で算出します。

貸家建付地の評価額=自用地の評価額-自用地の評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

この計算式の中で、借地権割合と借家権割合は、下記の路線価図・評価倍率表で確認できます。賃貸割合は、下記の式で算出します。

賃貸割合=課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計÷当該家屋の各独立部分の床面積の合計

貸家の相続税評価方法は、以下のようになります。

貸家の評価額=自用家屋の評価額-自用家屋の評価額×借家権割合×賃貸割合

この場合の借家権割合や賃貸割合は、貸家建付地と同じです。

それでは、自用不動産の相続税評価を基に、賃貸用不動産の相続税評価額を算出します。借地権割合・借家権割合・賃貸割合は、平均的な指標を用いますので、それぞれ60%・30%・90%とします。

貸家建付地の評価額=1億500万円-1億500万円×60%×30%×90%=8,799万円

貸家の評価額=3,500万円-3,500×30%×90%=2,555万円

賃貸用不動産の相続税評価額=8,799万円+2,555万円=1億1,354万円

賃貸用不動産の相続税評価額を基に相続税を算出します。基礎控除は4,800万円です。

課税遺産総額=1億1,354万円-4,800万円=6,544万円

相続人 法定相続分 法定相続による遺産額 税率 控除額 税額
課税遺産総額の1/2 3,277万円 20% 200万円 455万4,000円
子① 課税遺産総額の1/4 1,638万5,000円 15% 50万円

 

195万7750円
子② 課税遺産総額の1/4 1,638万5,000円 15% 50万円

 

195万7750円

相続税総額は、846万9500円となりました。相続税総額を実際に相続分であん分します。

相続人 実際の相続分※1 相続税相当額 控除額 実際に納める税金
遺産総額の1/2 423万4,750円 423万4,750円 0円
子① 遺産総額の1/4 211万7,375円 0円 211万7,375円
子② 遺産総額の1/4 211万7,375円 0円 211万7,375円

遺産総額2億円の賃貸不動産を、妻と子の3人で相続した場合、実際に納める相続税は、423万4,750円となります。遺産総額からすると相続税率は2.117375%となります。現金での相続と比べると926万5,250円の節税となり、自用不動産と比較すると231万5,250円節税できたことになります。

賃貸用の不動産は、借地権や借家権などがあるので、自分の思うようにリフォームしたり立て直したりすることができません。自由に使用できないことが考慮されて、相続税評価が下がる仕組みとなっています。

国税庁:財産を相続したとき

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_4.htm

国税庁:路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

国税庁:画地補正率表

https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/map/H30/hoseiritsu.pdf

 

不動産そのものによる相続税の節税

不動産そのものによる相続税の節税

不動産そのものが、現預金などと比較して相続税の節税効果があることは説明しました。次は、不動産そのものを処分したり、活用したりすることで相続税の節税効果を得る方法を解説します。

また、賃貸物件の節税対策は、以下の記事で詳細に解説していますので、参考にしてください。

賃貸物件は相続税対策になる!申告までに知っておくべきこと

http://sozoku-susume.com/2020/10/04/inheritance-tax-measures/

 

不要な不動産は早めに決断

不動産を多く保有している人の中には、活用していない不動産を手放さずに放置している場合があります。以前なら、土地に古屋が建っていることで、固定資産税の特例措置を受けられたかもしれません。しかし現在は、空き家問題改善などの促進から、特定空き家についての特例は適用されません。

また、使っていない別荘や山林などで不要と判断できるなら、手放すことで相続税を節税できます。しかし、別荘や山林の需要は高いとはいえません。贈与や処分するにも受け手がいなければ、保有し続けるしかありません。所在地の自治体や町内会などに寄付することで処分できる場合もあるので、売れないと分かれば積極的に処分しましょう。遺産総額を減らすことで、相続税の節税も可能となります。

 

更地に賃貸物件を建てる

賃貸不動産の節税効果は、先程検証したとおりです。更地では、賃貸用の不動産ほどの大きな節税効果が期待できませんので、市場調査の結果として需要が望めて、建物を建てる費用を捻出できるなら、賃貸用建物(貸家)を建てることで、大きな節税効果が期待できます。

特に、建てた賃貸物件が、相続開始日に満室状態であれば、賃貸率があがるので、より大きな節税効果を得られるでしょう。また、家賃収入という不労所得を得られる大きなメリットもあります。

 

賃貸物件は贈与しておく

相続税対策の肝は、遺産総額を生前に減らしておくことです。所有している賃貸物件の中で、手放して家賃収入が減っても、生活に困らないようであれば、生前贈与しておくと良いでしょう。生前贈与することで、子や孫へ家賃収入を得られるメリットも譲ることができます。

贈与時の不動産評価方法は、相続税の不動産評価と同じです。ただし、税率が異なりますのでご注意ください。

 

相続税の特例などを利用した節税

相続税の特例などを利用した節税

不動産相続には、節税につながる特例や特別控除などがあります。知らずに申告しても、税務署が教えてくれる可能性は少ないので、損をしないように利用できる制度度はできるだけ利用するようにしましょう。

 

小規模宅地等の特例を利用

不動産相続で相続税が節税できる特例の中で、小規模宅地等の特例は、大きな効果が望める特例です。対象となるのは宅地で、条件を満たせば、相続税評価額を50%~80%減額することが可能となります。

特例を適用しようとする宅地に、配偶者居住権の目的となっている建物があっても特例の適用を受けることは可能です。基本的に小規模宅地等の特例は土地に対してであって、配偶者居住権は建物に対する権利となっています。配偶者居住権については、後で解説します。

小規模宅地等の特例は、複雑ですので、詳しく知りたい人は下記のホームページで確認してください。

国税庁:小規模宅地等の特例

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

 

相続税配偶者控除を利用する

相続税の配偶者控除は、相続税の控除としては最も大きな効果があります。前途した「現金と不動産の評価方法の差」で相続税の計算をしましたが、配偶者は全額控除となっています。理由は、配偶者控除の軽減額が以下のどちらか多い方となっているからです。

  • 実際の相続額が1億6,000万円まで
  • 配偶者の法定相続分相当額

仮に先の、市場価格2億円の自用不動産を妻だけが相続した場合は、相続税評価額が1億4,000万円だったので非課税となります。この制度のデメリットをこの例で説明すると、妻から子への相続のときに相応の相続税が課税されることです。しかし、相続税を納める現金の準備ができなかったときなどには、有効な手段です。

 

配偶者居住権を知る

民法の改正により、2020年4月より新しい権利が認められるようになりました。その権利は「配偶者居住権」です。この権利は、配偶者が遺産相続によって、住み慣れた家を手放さないですむように定められた権利です。つまり、被相続人が亡くなって遺産相続問題が起こっても、死ぬまで住み慣れた家に住み続けることができるのです。

しかし、配偶者居住権があるといっても、遺産分割や遺産相続は必要です。配偶者居住権には、民法と相続税での評価があります。かなり、複雑な計算が必要となりますので、権利を行使する前に相続税のプロフェショナルに相談しましょう。相続税の配偶者控除と照らし合わせないと、節税効果を得ることができない場合もあります。

配偶者居住権を詳しく知りたい人は、下記の国税庁ホームページで確認してください。

国税庁:配偶者居住権等の評価

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4666.htm

 

不動産相続の節税対策は計画的に

不動産相続の節税対策は計画的に

ここまで、不動産相続における相続税の節税について解説してきました。不動産相続そのものが現金相続と比べて節税となっていることを検証し、自用不動産と賃貸用不動産の節税効果も比較検証し、効果が望めることを知ることができたのではないでしょうか。

また、遺産総額を減らして節税する方法、相続税の特例などを利用して節税する方法も説明してきました。しかし、実際の不動産相続は手続きが複雑です。無理をして、相続税申告や相続登記を進めた結果、節税効果を得られなかった例も数多くあります。

不動産相続で、悩んだり行き詰まったりすれば、躊躇なく不動産相続に強いプロフェショナルに相談・依頼しましょう。当サイトの記事で相談先を詳しく説明していますのでご参照ください。

土地相続の相談は誰に?タイプ別の相談先を解説

http://sozoku-susume.com/2020/12/07/consultation/

また、この「相続対策のすゝめ」は、相続に関する記事のみに特化したサイトですので、有効に活用すれば、不動産相続に関する知識を深めることもできるでしょう。

 

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

記事一覧

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。