不動産の生前贈与の手続きとは?税金面での注意点も解説

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不動産を所有している人の中には、相続ではなく生前贈与を考えられている人もいるのではないでしょうか。生前贈与であれば、自分の自由に財産を振り分けられます。ただし、後々のトラブルを未然に防ぐためにも、贈与の手続きや税金面の注意事項を知っておくことは重要です。

今回は、不動産の生前贈与の手続きと税金面での注意事項を解説します。この記事を読めば、生前贈与についての知識を深めることができるでしょう。

 

不動産生前贈与の名義変更と注意点

不動産生前贈与の名義変更と注意点

不動産の生前贈与では、受贈者が申請者となって、名義変更の手続きを行うのが一般的です。不動産の名義変更の手続きは、対象の不動産を所轄する法務局で手続きします。ここでは、贈与を受けた不動産の書類など、名義変更に関する注意点を説明します。

 

法務局に提出する必要な書類

贈与における不動産の名義変更には、多種多様な書類を揃える必要があります。注意点としては、1つでも書類が抜けていれば、手続きが完了しないことです。また、記載漏れにも注意が必要となります。まずは、以下の書類を漏れることなく用意しましょう。

  • 生前贈与の対象となる不動産の登記識別情報及び権利証
  • 贈与者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
  • 受贈者の住民票
  • 贈与契約書などの登記原因証明情報
  • 固定資産評価証明書
  • 生前贈与の対象となる不動産の全部事項証明書

不動産関連の書類が多いように感じられる人もいるかもしれませんので、なぜこの書類が必要なのかを説明します。

生前贈与の対象となる不動産の登記識別情報及び権利証は、生前贈与の対象となる不動産を確定するためです。

固定資産評価証明書は、登録免許税を算出するのに必要となります。全部事項証明書がなければ、贈与直前の不動産所有者を確定することができません。

不動産関係の類似した書類であっても、漏れることなく揃えておかないと手続きをすすめることはできないのです。

 

不動産の生前贈与に必要な申請書

必要な書類が揃ったら申請書を作成しましょう。生前贈与における不動産の贈与に必要な申請書は、法務局に用意されているわけではありません。また書式が指定されているわけでもないので、必要な情報さえ記載されていれば、形式はどのようなものでも問題がないのです。

しかし、申請書の雛形などなければ、贈与における不動産の名義変更の申請書を作成することが難しいのが実情です。法務局では、法務局のホームページに雛形が用意されていますので、必要な方は下記のURLからダウンロードして活用してください。

法務局登記申請書

http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207213.doc

 

附属書類もある

上記の書類と重複するものもありますが、贈与における不動産の名義変更については、申請書以外に付属の書類もあるので注意しましょう。

  • 収入印紙用の台紙
    不動産の名義を変更する場合は、原則として収入印紙を貼り付けて、登記申請書とともに提出することになっています。納税額によっては、たくさんの収入印紙を貼り付けることになりますので、収入印紙用の台紙を準備しておく方が良いでしょう。
  • 委任状
    不動産の名義変更の際に、登記のプロフェッショナルなどに委任する場合は、委任状が必要となります。
  • 登記原因証明情報
    登記原因証明情報とは、登記の原因となった事実や法律行為を証明する情報のことをさします。重複しますが、具体的には贈与契約書のことになります。

 

申請書の提出後

不動産の名義変更を提出した後は、1~2週間程度で新しい権利書が発行され、これを受け取る事で不動産の生前贈与の名義変更手続きが完了します。その後の注意事項として、1回限りですが、都道府県税事務所から送られてくる納税通知で、不動産取得税を納税しなければなりません。また、固定資産税や都市計画税は、毎年納税することとなりますので、認識しておくほうが良いでしょう。

 

不動産の生前贈与で課税される贈与税とその注意点

不動産の生前贈与で課税される贈与税とその注意点

贈与は、贈与者が存命中に受贈者へ譲渡することで、お互いの合意があれば成立します。贈与税は、その贈与が成立したら課税される税金のことです。現金だけでなく、不動産や車なども贈与税の対象です。贈与税の基礎控除は、110万円なのでそれ以上の価値があるものを受け取れば贈与税の対象になると認識しておけば良いでしょう。

 

不動産の贈与税の注意点

不動産の場合は、価値がわかりにくい財産です。贈与税は、時価を基に算出しますので、不動産のように価値がわかりにくいものの場合は、評価し価額を算出する仕組みとなっています。

そこで、注意したいのが不動産の時価です。贈与者が購入した価格と、不動産業者が査定する価格には違いがあります。一般的な建物付きの不動産の場合は、購入価格より査定価格が低くなる傾向となっています。理由は、建物の価値が年数とともに下がるからです。よほど、土地が値上がりしない限り、購入価格を上回ることはないのです。贈与税の評価は、不動産業者の査定よりもさらに低く算出される場合が多くなっています。

 

不動産の贈与税の計算方法

贈与を受けた不動産は、土地と建物に分けて評価し、贈与税算出の基となる価額を算出します。土地は、主に路線価方式と倍率方式で評価します。路線価方式とは、国税庁で定められた路線価を基に算出する方法です。倍率方式は、路線価が定まっていない土地に適用され、固定資産評価額を基に算出する方法となっています。

算出された不動産の価額を基に贈与税を算出するのですが、受贈者は暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらかを選択しなければなりません。何もしなければ、暦年課税制度が適用されます。ここでは、その暦年課税制度における贈与税について解説をすすめます。

 

暦年課税制度

暦年課税制度は、1年間に受けた贈与の合計額に対して課税される制度です。贈与税では、もっとも一般的な制度です。暦年課税制度には、1年間の贈与額に対して110万円の基礎控除があります。この基礎控除は毎年適用されますので、仮に10年間110万円以上の贈与を受け続けた場合は1,100万円の控除額となります。

 

一般贈与財産と特例贈与財産

暦年課税制度には、一般贈与財産と特例贈与財産があって、それぞれ税率や控除額が異なりますので、贈与税の申告には注意が必要です。特定贈与財産とは、20歳以上の直系卑属に対して贈与された財産のことで、特例税率が適用されます。また、一般贈与財産とは、特例贈与財産に該当しない贈与財産のことを指しています。

ちなみに直系卑属とは、子や孫などのことで、自分より後の世代の中で直通する系統の親族のことです。

 

贈与税計算の基となる不動産評価額

不動産の贈与税計算の基となる不動産評価の方法は、相続税の評価方法と同じです。土地については、路線価方式と倍率方式が主に用いられますので、ここでは路線価方式と倍率方式について説明します。

路線価方式
道路に面する標準的な宅地の、1平方メートル当たりの価額をもとに、計算した金額で評価する方式。下記の式で算出します。

路線価方式=路線価×地積×奥行価格補正率

倍率方式

倍率方式は路線価が定められていない地域の評価方法です。倍率方式の土地の価額はその土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。

建物については、固定資産税評価額が適用されます。「建物の評価=固定資産税評価額」ですので、固定資産税の納税通知書などで確認すると良いでしょう。

路線価や倍率・奥行補正率は下記の国税庁ホームページで確認できます。

国税庁:路線価図・評価倍率表

https://www.rosenka.nta.go.jp/

国税庁:奥行価格補正率表

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/07.htm

 

暦年課税方式(一般税率)による計算方法と税率

不動産贈与を行う場合の注意点は、贈与税額を知らずに贈与し、思いも寄らない高額な贈与税を納めなければならない事例が発生していることです。贈与税は、速算表を参照すれば簡単に計算できますので、予め贈与税額を計算しておくと良いでしょう。贈与税額をしっていれば、贈与対策や相続対策がたてやすくなります。

暦年課税方式は、1月1日から12月31日までの1年間で贈与を受けた金額から基礎控除である110万円を差し引いた贈与額に対して課税されます。一般贈与財産における、基礎控除を差し引いた後の贈与額に対する税率と控除額は、下記の速算表で確認してください。

暦年課税一般贈与財産用速算表

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

仮に不動産評価が800万円であれば、税率は40%で、控除額が125万円ですので、贈与税学は以下のようになります

800万円×40%-125万円=195万円

 

特例贈与財産の計算方法と税率

特例贈与財産は、直系尊属と直系卑属間だけの特例ですので、一般贈与財産に比べて、税率がアップするペースが緩やかで、控除額は大きくなっている特徴があります。つまり、直系親族間での贈与のほうが優遇されているということになるのです。

暦年課税一般贈与財産用速算表

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

一般贈与財産同様に、800万円の評価額の不動産贈与を受けた場合の特例贈与財産の贈与税は、以下のようになります。

800万円×30%-90万円=150万円

一般贈与財産と比べると特例贈与財産は、贈与税が45万円安くなることがわかります。

 

不動産贈与税の節税方法にも注意点あり

不動産贈与税の節税方法にも注意点あり

贈与税と相続税を比べると、相続税は税率が低く、控除額が高い傾向になっています。つまり贈与税のほうが、たくさんの税金を納めることになるのです。しかし、贈与税を節税する方法もあるので、申告の際には注意が必要です。知らずに申告して、納税した後で還付を求めても、手間がかかり返還されるまで、1ヶ月以上かかるとされています。

ここでは、贈与税を節税できる可能性がある制度を3つ紹介します。この制度に当てはまる場合は、制度を活用するようにしましょう。結果的に、相続対策にもつながります。

 

不動産贈与にかかる配偶者控除

夫婦間で居住用の不動産を贈与した時には、配偶者控除を受けられる可能性があります。この制度が適用される条件と注意点は、婚姻期間が20年以上の夫婦の間であり、居住用不動産又は、居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合となります。

控除の内容は、110万円の基礎控除の他に最高2,000万円まで配偶者控除を受けられることになっています。この控除の適用を受ける手続きとしては、財産の贈与を受けた日から10日以上経過した戸籍謄本又は抄本と戸籍の附票の写しが必要となります。また贈与を受けた人が、居住用不動産を取得したことを証明するものも必要となりますので、登記事項証明書を取得し、贈与契約書を作成しておきことも注意点となります。

 

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子や孫に対して財産を贈与した場合に、選択できる贈与税の制度です。この制度を選択する場合には、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日の間に受贈者が、相続時精算課税制度を選択するための申請書を提出する必要があります。

この制度は、贈与税を相続発生時に清算する制度なので、贈与者が被相続人となった際には、贈与された財産を相続財産として相続税の算出を行う必要があります。しかし、相続財産が相続税の基礎控除以内であれば、相続税は課税されません。

また、この制度を選択した場合には、暦年贈与の年間110万円の贈与税基礎控除受けられなくなることは認識しておきましょう。

 

暦年贈与の利用

暦年贈与は、贈与税の算出を行う上で、最も一般的な制度であることは前途しました。年間110万円の基礎控除であっても、複数年に分けて贈与することで、節税が可能となります。ただし、不動産の場合において現金のように単純に分けて贈与するということは難しくなります。

不動産贈与において暦年贈与を利用する場合は、不動産を受贈者と共有持ち分とすることから始まります。その後、毎年贈与者の持ち分を贈与すれば、基礎控除分の110万円は毎年控除されます。ただし、とても手続きが複雑になるので、贈与のプロフェッショナルに相談したり依頼したりしてすすめると良いでしょう。

 

不動産の生前贈与では贈与税以外の税金にも注意を

不動産の生前贈与では贈与税以外の税金にも注意を

不動産の生前贈与では、贈与税以外の税金も課税されるので注意が必要です。主なものは、不動産取得税、登録免許税、固定資産税となります。ここでは、この3つの税についての概要と注意点を説明します。

 

不動産取得税

不動産取得税とは、不動産を購入したり贈与を受けたりした場合に課税される地方税です。不動産取得税の計算方法は、原則として課税標準額の4%に設定されていますが、あくまでも標準税率なので、地方公共団体によって違いがあります。不動産取得前に注意して確認しておきましょう。

また、不動産取得税は、相続では課税されない税金です。相続対策として不動産贈与を考えている場合には、マイナスの要因となることも認識しておく必要があります。

 

登録免許税

登録免許税は、登記の名義変更の際に課税される税金で、名義変更の手数料的な要素もあります。登録免許税の計算方法は、課税標準額の2%に設定されています。相続の場合は、0.4%ですので5倍の差があることも知っておくと相続対策の参考になります。

 

固定資産税

贈与を受けた不動産には、毎年固定資産税が課税されます。固定資産税とは、毎年1月1日時点で不動産を所有している人に対して課税される税金で、市町村などに納める地方税です。

贈与を受けた不動産の注意点は、放置しないことです。居住せずに有効活用もしていないのであれば固定資産税を納め続けるだけになります。また、不動産が土地であれば、近隣住民に迷惑がかからないように、雑草を刈り取るなどの手入れも必要となるのです。

 

不動産の生前贈与は税金面にも注意が必要

不動産の生前贈与は税金面にも注意が必要

ここまで、不動産の生前贈与の手続きや税金面での注意点を説明してきました。不動産の生前贈与は、現金で贈与するよりは節税効果があり、相続対策になりますが、相続と比べると税金が高い傾向です。

しかし、相続税を納める資金を捻出や、高額になることが予想される相続財産を生前贈与することで相続税を抑える効果は期待できます。そのためにも、不動産贈与に関する税金の知識を集めることや贈与税の節税対策を知ることは、必要なことではないでしょうか。

不動産贈与の注意点を理解してより良い相続対策をすすめるためにも、この「相続対策のすゝめ」をご活用ください。当サイトは、相続対策に関する記事を専門に掲載しているサイトですので、きっとお役にたてる記事がみつかるでしょう。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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