不動産の生前贈与とは?基本からメリット・デメリットまで解説

  1. 生前贈与
  2. 53 view

不動産は、遺産分割の際にトラブルになるケースがある財産です。相続対策として不動産を生前贈与する方法があります。しかし、生前贈与は贈与税が課税されたり、手続きが煩雑だったりするので、悩んでいる人も多いようです。

今回は、不動産の生前贈与について、基本からメリット・デメリットまで解説します。この記事を読めば、不動産の生前贈与についての知識を深めることができるでしょう。

 

生前贈与とは

生前贈与とは

生前贈与とは、生前に財産を贈与することです。贈与は、相続と違っていつでも誰でも行うことができます。ただし、生前贈与を受けた人は、贈与税が課税される可能性があります。それは、不動産に生前贈与についても同じことがいえるのです。

 

一般的な生前贈与

生前贈与は、所有している財産を生前に贈与することです。相続税の節税対策として行われるケースでも一般的となっています。また、相続税の納税資金の確保や財産の有効活用という面から見ても効果的といえます。ただし、贈与税が課税される事を念頭において節税対策しなければなりません。

相続税には3,600万円を超える基礎控除がありますが、贈与税の基礎控除は、年間110万円以下となっています。また、贈与税の税率は相続税の税率よりも高くなっていますので、注意が必要となります。

 

不動産における生前贈与

生前贈与は、現預金だけではなく土地や建物といった不動産でも可能です。現預金や不動産以外では、美術品や骨董品でも贈与対象として問題ありません。贈与税の基礎控除は110万円なので、不動産贈与は受贈者に贈与税が課税される可能性が高くなります。

しかし、不動産の贈与税は、不動産を評価した価額に対して税率がかけられる仕組みですので、現預金と比べると贈与税額は低くなる傾向となっています。 また、不動産贈与を受けた人は、贈与税以外に不動産取得税や登録免許税、固定資産税などの税金を納めなければなりません。

 

不動産の生前贈与の流れ

不動産の生前贈与の流れ

不動産の生前贈与を知るには、その流れをつかんでおくほうが理解しやすくなるでしょう。不動産の生前贈与は、一般的な贈与とは違った内容がありますので、ここで説明していきます。

 

贈与契約書の作成

生前贈与は契約です。相続と違って、生前贈与は契約であるとの認識を持っておくことが重要になります。口頭で契約することも可能ですが、口約束だと後々のトラブルに発展する可能性も否定できません。契約である限り、生前贈与に関しては贈与契約書を作成しておく方が良いでしょう。不動産の贈与契約書には、いつ・誰が・誰に・どのような不動産を贈与するのかを最低限記載しなければなりません。

夫婦関係であっても血縁関係があっても契約である限り、贈与契約書を書面に残しておく方が、贈与者・受贈者の双方にとって安心です。また、親族間だからといって、安易な贈与を約束することは避けるほうが良いでしょう。贈与契約書を作成すると、後になって取り消すことが難しくなる可能性は高くなるからです。

 

登記の名義変更

不動産贈与契約書の作成が完成し贈与契約が完了したら、不動産の名義変更をする必要があります。不動産の名義変更は、期限がなく仮に名義変更しなくても罰則はありません。

しかし、贈与を受けた不動産が、自分の所有であることを証明することができないので、贈与契約完了後には名義変更を済ませておくことをおすすめします。

 

贈与税の申告

不動産贈与については、贈与税が課税されるケースが多くを占めます。前途しましたが、贈与税の基礎控除は110万円以下です。110万円以下の評価額である不動産は、稀なケースになりますので、不動産贈与に関しては贈与税が課税されると認識しておく方が良いでしょう。

贈与税は、受贈者自身が税金を計算して申告と納税を行うか、税理士などのプロフェッショナルに依頼して、申告と納税の義務を果たすことになります。

 

名義変更や贈与税に関する書類

不動産の贈与税は、基礎控除を含めた軽減措置が適用されます。基礎控除は、110万円以下で贈与税の申告では暦年課税制度となりますので、ここでは暦年課税制度で必要な書類を説明します。

贈与税に関する書類(暦年課税)

  • 贈与税申告書第一表
  • 受贈者の戸籍の謄本又は抄本(不動産の贈与を受けた日から10日以上経過したもの)
  • 受贈者の戸籍の附票の写し(不動産の贈与を受けた日から10日以上経過したもの)
  • 登記事項証明書又は、受贈者が居住用不動産を取得したことを証明する書類。

不動産の名義変更は法務局に申請書と添付書類を提出し手続きします。必要な書類は以下のようになります

不動産の名義変更の書類

  • 登記申請書
  • 対象不動産の登記識別情報通知(登記済権利書)
  • 固定資産評価証明書
  • 不動産贈与契約書
  • 贈与者の印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
  • 受贈者の住民票

相続税の申告や相続登記に比べると、書類の種類は少ないといえるでしょう。それでも多くの書類を揃え、申告書を書くことは容易なことではないので、難しいと判断した場合にはプロフェッショナルに相談や依頼することもご一考ください。

 

不動産を生前贈与する前に知っておくべきこと

不動産を生前贈与する前に知っておくべきこと

不動産の生前贈与をする前に注意すべきことがあります。贈与契約書の作成や贈与税対策です。また、贈与税には申告期限があり、贈与されたからといっても相続税の遺留分請求からを免れるわけではありません。

ここでは生前贈与する前に知っておいた方が良い項目について解説します。

 

贈与契約書の作成

贈与契約書は作っておく方が良いでしょう。先ほども述べましたが、後のトラブルを未然に防ぐことにもなりますし、不動産の名義変更の必要書類でもあります。 贈与者が亡くなった後に、他の相続人と紛争になった場合も、有力な証拠になる可能性があるのです。

贈与者と受贈者の意思で決定した内容なので、書面に残しておくことは重要なこととなります。もし、贈与契約書を作成していなければ、贈与者が故人となったり、意思疎通ができない状態となったりした場合に、贈与者の意思を証明することができなくなるのです。

 

暦年贈与

暦年贈与は、年間に110万円までの控除を受けることができる制度です。贈与者の財産が多くて、相続税が課税されると予想される場合には、暦年贈与を利用すると良いでしょう。

不動産相続においては、高額な不動産を110万円に刻んで贈与することはできません。ワンルームマンションや地方の不動産などで、贈与税の課税評価額が比較的安価であれば暦年課税制度を利用する方が良いかもしれません。

 

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は贈与税の特例制度です。適用される生前贈与の範囲は、贈与する側が60歳以上の父母または祖父母となり、贈与される側20歳以上の子や孫が対象となります。要するに、直系の親族間にだけ認められた特例制度ということです。

生前贈与を行えば、基礎控除である110万円を超えた価額に対して贈与税が課税されます。相続時精算課税制度を使えば、2,500万円までの贈与が非課税となり、2,500万円を超えた贈与額に対して一律20%の贈与税が課税されることになります。

ただし、この制度は相続時に贈与分を精算する制度です、基礎控除を超える遺産総額であれば、贈与分を上乗せして申告し納税しなければならない可能性があるので注意が必要です。

 

贈与税の申告期限や相続税の遺留分

贈与税の申告期間は、2月1日から3月15日までとなっていて、納税期限は3月15日までです。申告期限を過ぎると、加算税や延滞税が課される可能性があるので注意が必要です。

相続人の遺留分についても注意が必要となります。遺留分とは、一定の法定相続人が最低限の相続財産を受け取る権利のことで、侵害することはできません。相続人の遺留分を侵害した贈与については、請求されれば受贈者が支払うことになりますので、生前贈与を受ける場合はあらかじめ確認しておくと良いでしょう。

 

不動産を生前贈与するメリット

不動産を生前贈与するメリット

不動産の生前贈与のメリットを考えるには、不動産相続のメリットを参考にするとわかりやすくなります。ここではその視点から解説を進めていきます。

 

相続対策が自由な時期にできる

生前贈与のメリットの1つとして、贈与者が贈与の時期を、自由に決断できることがあげられます。路線価が低い間に贈与しておけば、相続時に路線価が上がっていたとしても高額な相続税が課税されることはありません。

 

不動産収益が受贈者のものになる

賃貸物件を生前贈与すれば、贈与後は不動産収益が受贈者のものになります。仮に、10年前に賃貸マンションを贈与しておけば、10年分の家賃収入は受贈者のものになるのです。賃貸マンションを贈与していなければ、10年分の家賃収入のなかで、いくらかは贈与者の財産となる可能性もあります。

その状態で相続が発生すれば、相続税の納税額が高くなる可能性があります。収益物件を所有しているのであれば、早めの生前贈与が節税対策になるかもしれません。

 

相続トラブルのリスク軽減

相続では、遺言書を認めて公正証書としても、相続人の遺留分が認められていたり、遺産分割協議において遺言書を覆されたりすることもありえます。結果として、遺産分割で親族間が揉めたりトラブルになったりする可能性もあるのです。

しかし、相続人の遺留分を考慮した生前贈与であれば、相続のトラブルを未然に防ぐことが可能となります。各相続人の遺留分を侵害せずに、贈与契約書を交わした生前贈与であれば、受贈者は他の相続人と紛争が起きるようなリスクを軽減できるでしょう。

 

法定相続人以外にも贈与できる

相続となれば、法定相続人は原則として遺産を受ける権利があります。もし、法定相続人以外に遺産を分割するとなったら、法的効力のある遺言書などが必要となります。

しかし、生前贈与であれば、贈与する側であっても、される側であっても制限はありません。親族でなくても、生前贈与を受ける権利が阻害されることはないのです。

ただし受贈者は、贈与税を申告し納めなければなりません。しかも、相続税よりも多くの金額を納める可能性が高いことを認識しておく必要があります。

 

不動産を生前贈与するデメリット

不動産を生前贈与するデメリット

次は、不動産を生前贈与するデメリットについて説明です。メリットの場合と同様に相続税と比較しながら進めていきます。

贈与税は相続税と比べると、基礎控除が低くて税率が高い傾向になっています。下記の表で確認してください。

贈与税 相続税
基礎控除 暦年課税110万円/年
相続時精算課税2500万円
3000万円+法定相続人数×600万円
最高税率 55%(3,000万円超) 55%(6億円超)
最低税率 10%(200万円以下) 10%(1000万円以下)

贈与税と相続税の速算表

贈与税 相続税
暦年課税の基礎控除110万円を差し引いた贈与額 税率 控除額 法定相続分に応じた相続金額 税率 控除額
200万円以下 10% 1000万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円 3,000万円以下 15% 50万円
400万円以下 20% 25万円 5000万円以下 20% 200万円
600万円以下 30% 65万円 1億円以下 30% 700万円
1000万円以下 40% 125万円 2億円以下 40% 1700万円
1500万円以下 45% 175万円 3億円以下 45% 2700万円
3000万円以下 50% 250万円 6億円以下 50% 4200万円
3000万円超 55% 400万円 6億円超 55% 7200万円

※相続税は基礎控除を超えて相続税の申告や納税義務が生じた場合の税率です。

この表では、贈与税の控除は一般的な暦年課税を用いました。贈与税の最高税率が適用されるのは3,000万円を超える贈与額に対してです。相続税の最高税率が適用されるのは相続額が6億円を超えた場合です。

このように、贈与税のほうが相続税よりも低い金額から課税されて、速いペースで税率が上がっていくことが分かります。しかし、贈与税、相続税ともに特例や軽減措置がありますので、よく調べてから相続対策することをおすすめします

国税庁:贈与税の計算と税率(暦年課税)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm

国税庁:相続税の税率

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

 

不動産取得税が課税される

不動産取得税とは、土地や建物を取得した時にかかる税金のことです。都道府県に納める地方税であり、都道府県の税事務所で納税の手続きをします。

不動産取得税の税額は、課税標準額に一定の税率をかけて算出する仕組みとなっています。課税標準額とは、税額を計算するにあたり、税率に乗じて税額を決めるための価額のことです。不動産における課税標準額とは、固定資産税評価額となります。

税率は宅地建物共に課税標準額の4%が基本ですが、要件を満たせば軽減が受けられる可能性もあるので、確認するようにしましょう。 ちなみに、相続で不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されません。

 

登録免許税の税率が上がる

相続で不動産を取得し、相続登記する場合の登録免許税は、課税標準額の0.4%と定められています。不動産の生前贈与の場合は、登記の名義変更となり登録免許税は課税標準額の2%に設定されています。

不動産の生前贈与の場合は、課税標準額に対して不動産取得税が4%で、登録免許税が2%です。相続の場合は、登録免許税が0.4%のみとなりますので、その差は、5.6%もあるのです。

 

小規模宅地の特例等が適用されないケースがある

相続税には、小規模宅地等の特例があって、適用されると相続する宅地の評価額が最大80%減額される可能性があります。

生前贈与で、相続時精算課税制度を適用した場合や生前贈与から3年以内に贈与者が死亡した場合には、生前贈与であっても相続税の対象となります。

問題なのは、相続税が課税される場合であっても、相続時精算課税制度が適用されているならば、小規模宅地等の特例は適用されないことです。結果的に、相続税の納税額が多くなる可能性がありますので、相続税精算課税制度の申請は慎重にほうが良いかもしれません。

 

不動産の維持費は受贈者が負担する

贈与によって取得した不動産については、不動産取得税を納めたり名義変更で登録免許税を納めたりするだけではありません。不動産を所有していれば、固定資産税や都市計画税を毎年納めることになります。

また、建物の維持費や土地の整備費などの経費も受贈者が負担することになるでしょう。不動産の生前贈与は、細かな注意が必要となるのです。

 

不動産の生前贈与を理解して効率的な相続対策を

不動産の生前贈与を理解して効率的な相続対策を

ここまで、不動産の生前贈与について、生前贈与の説明から不動産の生前贈与の流れ、不動産生前贈与のメリット・デメリットなどを解説してきました。相続対策として不動産の生前贈与を行う場合は、贈与契約書の作成や税金対策などが必要であることを理解できたのではないでしょうか。

肝要なのは、トラブルにならない不動産の生前贈与と、相続税よりも高額になりがちな贈与税の対策です。

生前贈与で悩みが生じたり、トラブルになったりするようでしたら、あらかじめプロフェッショナルに相談してから、生前贈与をすすめるほうが良いかもしれません。また、この「相続対策のすゝめ」では、相続に対策に関する多種多様な記事を掲載していますので、活用していただければ、きっとお役にたてるはずです。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

記事一覧

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。