保険金は遺産にならない?保険のメリットを相続に使う方法とは

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長年に渡って築き上げた財産。ここまで蓄えるために途方も無い税金を納めてきたのに、相続で子たちが更に税金を納めることになる。頭では理解していても気持ちが納得できていない人は意外と多いでしょう。

節税対策は諸々ありますが、保険を利用する方法は使い勝手が良いです。

相続人以外にも財産を譲れますし、上手に使えば大幅に節税できる可能性もあります。

今回は、相続と保険について解説します。自分の財産を有意義に分割できる手段になる可能性も秘めているので是非御一読ください。

 

遺産相続に保険を使うメリット

相続税の大幅な税法改正があったのは2015年です。この改正によって相続税の対象者となった人も多いでしょう。

その後も相続税について改正されていますが、増税傾向であることに変わりはありません。そこで、節税対策として注目を浴びているのが生命保険です。

相続における生命保険のメリットで代表的なものは3つあります。

  1. 非課税枠を利用できる
  2. 保険金の受取人を指定できて、円満な遺産相続を可能にする
  3. 遺産分割協議決定を待たずに保険金を受取れる

この3点を上手く活用すれば、自分の財産を思うように分割することができ、相続させたい人物に財産を譲渡することが可能です。

 

生命保険と死亡保険の違い

生命保険には広義の意味で捉えるものと、狭義の意味で捉えるものがあります。

広義の生命保険は、人間の身体に対するリスクマネジメント的な要素をもち、病気や怪我にも対応していますが、死亡時にも保険金を受取れる仕組みになっている保険です。生命保険全般を指すと捉えると解りやすいです。

狭義の意味の生命保険は、生命そのもののリスクマネジメントとして扱われる言わば死亡保険です。

この記事は、遺産と保険についての解説ですので、この狭義の意味である死亡保険を用いて解説を進めます。これ以降、保険や保険金の記述は死亡保険・死亡保険金のことを指すとご理解ください。

 

保険金と遺産相続の関係性

保険金は相続税の課税対象となる可能性はありますが遺産分割の対象になりません。相続税法でみなし相続財産に指定されています。

保険金は、被相続人が残してくれた財産の中でも独特の性質をもつものです。保険について理解を深める為にも、ここでは保険金と遺産相続の関係性を解説させていただきます。

 

2-1:保険金は遺産にならない?

保険金は相続税の課税対象であり、みなし相続財産です。みなし相続財産とは、厳密には、被相続人の死後に遺産として受け取るものではありませんが、実質的に財産を相続したのと同様とされるものです。

保険においては、受取人が受け取る保険金を指すことになり、保険金以外では、死亡退職金がみなし相続財産と認められています。

 

保険金は遺産分割の対象外

保険金は被相続人が受取人を指定しているため遺産分割の対象外です。遺産分割協議などで相続争いになる例は数え切れないほどあります。

このような争いに巻き込まれることなく財産を譲渡できる手段なのが保険金です。民法でも相続財産と認めていないので誰からも不当に奪われることはありません。

特別受益の対象とも認められるケースも稀です。ただし、他の相続人と比べて著しく高額な保険金だったり、被相続人との関わりを考慮して不公平であると判断されたりした場合は特別受益と認められて、他の遺産分割分から保険金分を差し引かれる場合があります。

 

遺産分割協議書に記載不要

保険金はそもそも遺産分割の対象ではないので、遺産分割協議の議題にも上がりません。よって、遺産分割協議決定書にも記載の必要がありません。

通常、被相続人の預金を引き出す場合は、遺産分割協議決定書が必要です。

しかし、保険金は預金ではない金融商品ですので、書類の不備がなければ潤滑に相続人の口座に保険会社から振り込まれます。

 

保険金は遺留分の侵害対象?

保険金は、原則として遺留分の対象にはなりません。そもそも遺産分割の対象財産にもなっていません。

しかし、保険金を含めた遺産総額が1億円で、4人の相続人が2000万円の遺産を分割している最中にもう1人の相続人が受け取った保険金が8000万円だとすると問題になる場合があります。

被相続人への献身的な介護もなく、多額の保険金を受け取るのは著しく不公平と判断された場合は遺留分の侵害対象になる可能性もあります。

 

特別受益とみなされた場合は遺産分割対象

先にも述べましたが、著しく不公平であると認められた場合は、保険金であっても遺産分割対象となり、遺産分割協議で議論されることにもなり得ます。

その場合は、保険金分が他の遺産から相殺される可能性もあります。また、保険金の一部を分割するように司法が判断することもあり得ます。

その場合は、遺産分割協議決定書にも記載する必要があります。

 

保険金は相続税の対象

保険金に対する税金は、保険料を負担した人によって異なります。保険料を被相続人が負担していた場合は相続税です。保険金の受取人が負担していた場合は所得税であり、保険料負担者と被保険者、そして保険金受取人が異なる場合は贈与税です。

この「相続対策のすゝめ」では、遺産相続についての記事を掲載していますので、保険金についても相続税に関するものを解説させていただきます。

 

保険金の非課税分

保険金がみなし相続財産であることは先に説明したとおりです。そして、保険料を被相続人が負担していた場合は、保険金の受取人が相続税を申告することになります。

ただし、保険金には非課税枠が定められていて、その金額を超えない場合は申告や納税の必要はありません。

保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数

仮に、法定相続人が5人いれば保険金の非課税枠は2500万円となります。この金額を超えた分の相続税が課税されることになります。

(国税庁:相続税法2019版 P22-P36

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/pdf/31/03.pdf#page=11

 

受取人が相続税を申告するケース

遺産相続における相続財産が、保険金だけというのは稀です。考えられるケースとしては、相続放棄などで他の遺産を受け取らない場合です。通常は、他の相続財産と合算して、相続税を申告し納税するかどうかを判断します。

相続税には、保険金の控除と別に基礎控除額があります。

基礎控除=3000万円+600万円×法定相続人の数

先の例と同様に計算すると、法定相続人が5人の場合は基礎控除が6000万円となります。すなわち、保険金と合わせた遺産総額が8500万円を超えなければ相続税の申告も納税も必要ないのです。

ただし、8500万円を超えた場合は、相続税を申告し納税しなければなりません。その場合は、保険金の受取人が他の相続人より多くの税金を納めることになるでしょう。

(国税庁:相続税法2019版 P22-P36

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/pdf/31/03.pdf#page=11

 

財産目録に保険金も載せる

相続税を申告するとなると財産目録を作成したほうが良いです。財産目録とは、被相続人の財産が一覧となっている表のことで、財産の内訳を明確にできるものです。

財産目録は、相続税の申告の判断や遺産分割協議にも役立つし、相続税申告にも必要なものです。相続税を申告する場合には、保険金も載せる必要があります。

 

保険の解約払戻金は遺産相続の対象

保険の被保険者が亡くなると保険金が受取人に支払われるのが通常です。

しかし、被相続人が契約者として他の人間に掛けていた保険は、当然ながら保険金が支払われることはありません。その保険の遺産相続での扱いは、生命保険契約に関する権利が相続税の課税対象となるのです。

理由は、保険を解約した特に発生する解約払戻金です。解約払戻金は保険の契約者に払い戻されるお金であり、相続財産の一部となります。

これまでは、死亡保険を念頭に記事を進めてきました。ここでは、被相続人が契約者であり受取人も被相続人である場合の保険や解約払戻金について解説します。

 

解約払戻金は遺産分割協議の対象

保険金の受取人が被相続人で、契約者も被相続人である保険も多く販売されています。例えば、広義の意味で捉えた生命保険やがん保険、学資保険などです。

このような保険契約では、被相続人が死亡すると解約払戻金が発生します。保険契約における解約払戻金とは、保険契約者が自ら契約を解約したり、保険契約者が死亡したりの場合や、保険会社から契約を解除されたなど保険契約を途中で解約した場合に保険契約者に対して払い戻されるお金です。

解約払戻金は、受取人が被相続人ですので、死亡保険の保険金のような固有の権利ではなく、相続財産として扱われます。

故に、被相続人の遺産総額にも加えなければならないですし、遺産分割協議の対象財産でもあります。

 

解約払戻金も遺産分割協議決定書に記載する必要あり

遺産分割協議の対象財産であれば、当然、遺産分割協議決定書にも記載する必要があります。保険会社によっては、この遺産分割協議決定書を提出しなければ解約払戻金が支払われないケースがあります。

通常、金融資産については、遺産分割協議決定書の提出がなければ金銭は支払われない事が多いので注意が必要です。

また、解約払戻金は財産目録から外れている場合も多いです。保険の解約払戻金が相続財産であると認識していなければ、保険の解約手続きを忘れたり、税務署から指摘されたりする場合があります。

 

家を相続したら火災保険の名義も変更

遺産分割協議が無事に締結し、家を相続することになれば登記の名義変更が必要です。その際に、火災保険の名義も変更しておくことをお奨めします。

意外と忘れられがちな保険ですので注意しておくほうが良いです。登記は配偶者で、火災保険の名義が被相続人のままなどというケースでは、万が一のときにトラブルになりやすく、泣きっ面に蜂のような事態を招きかねません。

また、遺産分割協議が長引いている間に不払い解除にならないように注意も必要です。相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月間です。その間に遺産分割協議を進めるわけですが、それが長引いて気づかない間に解除になっているケースもあるのです。

大切な家を守る保険である火災保険は、火事だけでなく災害時にも適用されるケースが多いです。異常気象が増えていることも勘案すると、火災保険についての手続きを忘れずに済ませておくほうが安心度も上がるでしょう。

その際に火災保険の契約内容について、今一度理解を深めておくと万が一のときに役立つかもしれません。

 

保険を使った遺産分割や生前贈与で節税

相続税が増税傾向であることに変わりなく、賢明な相続税対策はエンディングプランに入れておかねばならない時代です。

また、遺産分割時にトラブルが起こらないように準備する上でも保険は欠かせない手段です。

保険を上手く利用することで、節税になる可能性も非常に高いです。ここでは、節税方法や保険の利用方法を再点検して解説します。

 

保険を利用した相続税対策の方法

保険を使った相続税対策は大きく分けて3つです。

  1. 一時払い終身保険をかける
    一時払い終身保険とは、一生涯の死亡保障に対する保険料を契約時に一括で支払う保険です。保険金は、支払った保険料とほぼ同等分を受取人が受取れる仕組みとなっています。

仮に法定相続人は5人で、被相続人の遺産総額が8000万円として2500万円の一時払い終身保険に加入したとします。保険の非課税枠は、法定相続人1人当たり500万円なので2500万円が非課税となり納税の必要がなくなります。また、遺産総額は、8000万円から2500万円が差し引かれるので5500万円となります。

相続税の基礎控除は、3000万円+法定相続人1人当たり600万円ですので、6000万円です。結果的に相続税の申告は不要となり納税の義務もなくなります。8000万円の遺産総額で、この保険を使った相続税対策をしていなかった場合は、基礎控除を超えた金額である2000万円に対して課税されるますので、相続税を申告し納税しなければなりません。

  1. 子や孫に生命保険をかける
    子や孫に生命保険をかけるのは解約払戻金を子や孫に継がせるためです。解約払戻金は相続税の対象ですが、保険を解約せずに相続する方法もあります。

もちろん解約払戻金評価分の相続税が課税される可能性もあります。
しかも保険には、初期の解約払戻金が低額で、後々の解約払戻金が高額になっていく商品もあります。これを活用すれば、子や孫に税の負担を軽減させて多額の財産を譲渡することが可能です。

  1. 保険金を一時所得で受け取る
    保険金の受取人と保険料の負担者が同じであれば、保険金は一時所得となり所得税が課税されます。
    保険の所得税の計算式は、以下のようになっています。
    保険金の所得税=(保険金額-支払った保険料-50万円)×1/2×税率

この制度を利用する場合、最も負担となるのが子や孫が支払う保険料です。しかしそれは、被相続人が毎年、子や孫に110万円以内の金額を生前贈与してそれを保険料に当てる方法で解決します。因みに贈与税の基礎控除は年間110万円です。保険金を所得税として受け取るメリットの例を挙げますと

  • 保険金額は1500万円とする
  • 保険料は毎年100万円で、子に毎年100万円を贈与する
  • 子は100万円の保険料を支払う

このケースで10年後に被相続人が亡くなったとすると課税所得金額は、
(1500万円-1000万円-50万円)×1/2=225万円です。この225万円に他の所得をプラスして総所得金額に応じた税率をかけると税額が計算できます。もし、他の所得がない場合は税率が10%ですので22万5000円が所得税となります。

(国税庁:No.1750 死亡保険金を受け取ったとき

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm

 

遺産分割に保険を使うメリット

遺産相続や生前贈与において保険を使うメリットは税金対策だけではありません。保険がもつ様々なメリットの中から遺産に関するものを3点説明させていただきます。

  1. 保険なら受取人だけで手続完了
    遺産分割において現預金や金融商品は、遺産分割協議決定書がなければ、現金を引き出すことができないだけでなく、名義の変更も売買保険も難しいです。

保険も金融商品ですが、受取人が指定されていますので、他の相続人に関係なく保険金を受け取ることができます。
相続税の納税対策にも繋がるので計画的に一時払い終身保険を利用すると良いでしょう。

  1. 相続放棄しても保険金は受取れる
    被相続人の負の遺産が保険金を除いた遺産総額よりも多い状態であれば、相続放棄を選択する可能性が高いです。

相続放棄すると全ての遺産を受け取る事ができなくなりますが、みなし相続財産である保険金は受取人固有の資産ですので、相続放棄しても保険金を受け取ることができます。
ただし、法定相続人が減るので非課税分が少なくなり、納税額が増える可能性はあります。

  1. 原則として遺留分の対象にならない
    遺留分とは法定相続人が最低限保証されている遺産の取り分です。しかし、保険金は遺留分の計算には含まれませんので、被相続人の裁量で自由に財産を譲渡できるのです。

ただし、極端に不公平な遺産分割であれば、他の相続人が調停や訴訟を起こす可能性が高くなり、結果として保険金であっても遺留分の計算に含まれる恐れがあります。被相続人は、遺産相続においてトラブルが起こらないように留意するほうが良いでしょう。

このように保険のメリットを活用することで遺産相続がスムーズになったり、納税対策ができたりします。

 

保険を知って相続に活用する

遺産相続は、税金対策だけでなく相続人間のトラブルまで視野に入れて対策を講じる必要があります。被相続人が存命のうちは、家族内の確執があっても表面化せずにすんでいたものが、亡くなった途端に溢れ出すことも考えられます。

どうしても遺産を譲渡したい人や、どうしても相続させたくない人間もいるでしょう。保険の特性を知れば、被相続人の思いを具現化できる可能性は上がります。

しかし、保険は非常に多い金融商品です。迷ったときには、この「相続対策のすゝめ」をご利用ください。相続や保険のプロフェッショナルがきっと貴方の役に立つでしょう。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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