税務署で自ら遺産相続申告をする方法とは?税理士との違いも

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両親をはじめ、親族が亡くなることは辛いものです。喪失感は癒えませんが、遺産を相続すれば税務署に申告しなければなりません。

せっかく残してくれた遺産ですので、できるだけ大事に使いたいと思い自身で税務署に出向く人も少なくありません。

ここでは、相続税についての基本的な申告方法や税理士へ依頼した場合の費用などについて解説します。複雑な相続税申告の一助となれば幸いです。

 

遺産相続の申告は個人でも可能

遺産相続の申告は個人でも可能

遺産を相続したが、相続税を申告しなければいけないのか、申告するとしてどうやってするのかなど相続税でお困りの方もいるでしょう。

人生の中で遺産の相続など、何回も訪れることはないので知見がなくて当然のことです。しかし、遺産を相続した限りは申告する必要があるのかないのかを確認して、ある場合は相続税の申告をしなければなりません。

遺産相続申告者の中には、税理士などのプロフェッショナルに依頼することなく、自身で税務署に訪れ申告する人もいます。

ここでは、申告する必要の有無から、税務署の相談窓口の活用まで解説します。

 

まずは申告する必要があるか判断

遺産を相続したからといって、誰もが相続税を支払う訳ではありません。相続税の申告が必要な人は、相続人の8%程度とされています。

単純に言って遺産総額が3600万円以下なら相続税の申告は不要です。理由は、基礎控除があるからです。

基礎控除とは、遺産総額から差し引かれる控除額です。現制度での基礎控除は、

3000万円+600万円×法定相続人の人数

となっています。先程の3600万円の根拠は、法定相続人が1人でも3600万円の控除があると示したものです。法定相続人が5人なら6000万円の基礎控除が認められています。

この基礎控除を上回る遺産を相続した人たちが、相続税の申告対象者となります。

 

相続税の対象となる遺産

相続税申告の対象者かどうかを判断するためには遺産総額を算出しなければなりません。それにはまず、相続税の対象となる遺産を知る必要があります。

主な課税対象遺産

  • 金融関係
    現金・預貯金・株式・投資信託など
  • 不動産
    土地・土地に関する敷地権や借地権などの権利・自宅・保有している賃貸住宅・倉庫など
  • その他
    自動車・単車・家具・ゴルフ会員権・著作権・商標権・特許権・宝石貴金属・骨董品・美術品・売掛金・損害賠償請求権など
  • 死亡保険金
    非課税分を超える金額
  • 死亡退職金
    非課税分を超える金額

このように様々なものが課税対象となっていますので細心の注意を払って遺産総額を計算する必要があります。

参考までに、死亡保険金と死亡退職金の非課税枠は、500万円×法定相続人の人数です。

現預金については、価値はそのままですが、それ以外の課税対象遺産は評価によって現金に換算されます。評価の基準は相続税法で細かく決まっていますので、国税庁のホームページや各税務署の相談窓口で尋ねると良いでしょう。

 

税務署の相談窓口を活用

遺産総額を計算した結果、相続税の申告が必要となった場合の相談相手として税務署の窓口があります。

ただし、税務署は法律を重視したアドバイスを行うので節税対策にはならないと認識してください。

税務署へ相談することのメリットは

  • 無料で相談できる
  • 電話や面談など相談方法が選べる
  • 相談時期を自身で決定できる。

ただし、確定申告の時期は、税務員が忙殺されているので避けたほうがよいでしょう。

 

遺産相続の申告には期限がある

遺産相続の申告には期限がある

遺産総額を算出した結果、基礎控除を上回っていれば相続税申告をすることになります。相続税の申告には期限があり、納税の仕方にもルールが定められていますので留意する必要があります。相続税の申告そのものに大変な労力を要する上に、納税は現金一括とされていますので、相続税に見合った現金を用意する必要があります。

 

死亡日から10ヶ月以内に申告

相続税の申告は、相続開始から10ヶ月後までとなっています。相続開始とは、被相続人の死亡日です。例えば、1月15日に被相続人が亡くなった場合は、11月15日が申告期限となります。

申告期限までに相続税申告書を税務署に提出し、相続税を支払わなくてはなりません。支払いにもルールがあり、現金一括納付となっています。

申告期限に1日でも遅れるとペナルティが発生するので要注意です。ペナルティは、延滞税と無申告加算税の2種類あります。

延滞税は、相続税申告は済ませましたが、納税が期限を過ぎた場合に発生します。無申告加算税は、期限までに申告も納税も間に合わなかった場合に発生し、延滞税と合わせて納税しなければなりません。どちらのペナルティも課税額に相応の税率を加算されるので期限にまでに収めるように努めると良いでしょう。

 

間に合わないときは税務署に相談

相続税の申告期限に延長はないと認識しておくと良いでしょう。

遺留分侵害請求権を行使されて手続きが間に合わない場合や、相続人の異動があった場合などは最大2ヶ月の延長が認められる可能性があります。

そのような場合は、予め税務署に相談し、進捗状況を担当者に報告するようにすればペナルティを免れる可能性もあります。

 

遺産相続の申告に必要な提出書類とは

遺産相続の申告に必要な提出書類とは

相続税を申告するには、様々な書類を準備しなくてはなりません。この書類が、非常に難しく量も多いので、プロに依頼する人が後をたたないのです。ここでは、一般的に必要な書類から相続税申告の流れを解説しますので、自ら申告する人は是非、ご参照ください。

 

一般的な相続申告書に必要な書類

相続税申告書に必要な書類は、相続人全員が必要な書類と相続する遺産によって必要な書類があります。先に相続人全員が必要な書類を説明し、その後相続する遺産の種類によって必要な書類を説明します。

相続人全員が必要な書類

  1. 被相続人の戸籍全部事項証明書
  2. 被相続人の住民票の除票
  3. 被相続人の戸籍の附票
  4. 相続人全員の全部事項証明書
  5. 相続人全員の住民票
  6. 相続人の戸籍の附票
  7. 相続人全員の印鑑証明

身分関係は以上です。続いての書類は現預金関係です。

  1. 預金残高証明書
  2. 既経過利息計算書
  3. 過去5年分の通帳や定期預金の証書
  4. 現金

ここまでが、相続人全員が揃えなくてはならない書類です。

以下は、相続する遺産の種類によって必要な書類です。

  1. 土地・建物を相続する場合に必要な書類
    • 土地の全部事項証明書
    • 地積測量図・構図の写し
    • 固定資産税評価証明書
    • 住宅地図
    • 名寄帳(固定資産税課税台帳)
    • 賃貸借契約書(貸地・借地・賃貸住宅など)
    • 建物の売買契約書
  2. 上場株式を相続する場合に必要な書類
    • 証券会社の預り証明書
    • 登録証明書
    • 配当金の支払通知書
    • 被相続人の直近5年間の取引明細
  3. 非上場株式を相続する場合に必要な書類
    • 過去3期分の決算書
    • 税務申告書の写し
  4. 投資信託などの金融商品を相続する場合に必要な書類
    • 残高証明書
    • 投資信託の信託財産留保額・個別元本額
  5. 生命保険を相続する場合に必要な書類
    • 生命保険金支払通知書
    • 生命保険所の写し
    • 火災保険などの保険証書の写し
    • 解約払戻金が判断できる書類
  6. 自動車・単車を相続する場合に必要な書類
    • 車検書のコピー
    • 車種・カラー・走行距離
  7. 死亡退職金を相続する場合に必要な書類
    • 支払通知書及び源泉徴収票
  8. ゴルフ会員権やリゾート会員権などを相続する場合に必要な書類
    • 預託金証書または証券の写し
  9. 過去3年以内の贈与がある場合に必要な書類
    • 贈与税申告書
    • 贈与契約書
  10. 相続時精算課税制度の適用を受けている場合に必要な書類
    • 相続時精算課税制度選択届出書
    • 贈与税申告書
    • 贈与契約書
  11. その他必要に応じて提出する書類
    • 遺言書の写し
    • 被相続人の過去3年分の確定申告書
    • 準確定申告に必要な資料
    • 過去の相続税申告書
    • 被相続人が略歴
    • 配偶者財産資料

ここに記した書類以外にも必要に応じて用意しなければなりません。書類は多種多様にありますので、自身で相続税の申告を行う場合は、二度手間にならないように必要な書類を整理してから動き出すほうが賢明です。

 

遺産相続申告の基本的な流れ

必要な書類が理解できましたら、具体的に相続税申告への行動を取らなければなりません。遺産相続はケースバイケースですが、基本的な流れがあるので説明します。

  1. 被相続人が死亡してから7日以内に死亡届を提出
    被相続人が死亡したら、7日以内に死亡届を市区町村役所に提出する必要があります。死亡届を提出すると、その情報は自動的に税務署に届くことになるということは憶えておくと良いでしょう。無申告で済まそうとする人もいるのが現状ですが、それでは済まされない仕組みとなっています。
  2. 戸籍全部事項証明書から相続人を特定
    被相続人の戸籍全部事項証明書を取り寄せて、法定相続人を特定する必要があります。すでに、法定相続人が判っていても相続税申告書に必要な書類ですので必ず取り寄せておくと良いでしょう。
  3. 相続財産を評価する。
    相続税を計算する上で欠かせないのが遺産の評価です。現預金はそのままの評価ですが、不動産や美術品などは個別に相続税評価を行う必要があります。遺産の種類によって評価の方法が異なりますが、細かく評価方法が決められていますので規定に従って正当に評価すると良いでしょう。この作業が終われば、遺産総額を算出し、財産の目録も作成しておくと良いです。
  4. 相続人を承認する
    相続開始から3ヶ月以内に相続放棄や限定承認などの手続きを済ませなければなりません。3ヶ月間を過ぎると単純承認したとみなされます。単純承認とは被相続人の権利義務を承継することを相続人が無限定に承認することであると民法920条で定められています。つまり、遺産総額がマイナスであっても相続放棄できず、被相続人の負債などを受け継ぐことになるのです。
  5. 被相続人に代わり準確定申告を行う
    確定申告の期限は通常1月1日から12月31日までに生じた所得を申告します。しかし、途中で亡くなった場合は、死後4ヶ月以内に相続人が被相続人に代わり準確定申告を行う必要があります。被相続人が、そもそも確定申告の対象者でなければ準確定申告は不要です。
  6. 遺産分割協議を行う
    遺産総額と財産目録が完成していれば、相続人全員が集まって遺産分割協議を行います。遺言書があればそれに従って分割することになりますが、遺留分が侵害されているようなら遺留分侵害請求権を行使することもあり得ます。遺産分割協議で、相続人全てが納得できたら遺産分割協議決定書を作成します。この遺産分割協議決定書があって始めて遺産を相続できるのです。
  7. 相続税申告書を提出
    遺産相続申告書は、相続開始から10ヶ月以内に税務署に提出しなければなりません。同時に現金一括で相続税を納付する必要もあります。
    尚、相続税申告書は1~15表までありますが、一般的なものは以下の表です。

    • 第1表:相続人個人ごとの情報と税額を計算
    • 第2表:相続税の総額を計算
    • 第9表:死亡保険金の明細
    • 第11表:相続財産の明細
    • 第13表:債務・葬式費用の明細
    • 第15表:相続財産の種類ごとの明細
  1. 相続財産の名義を変更する
    相続税の申告と納税が終われば、実際の相続です。預金などは、遺産分割協議決定書があれば引き出すことができますが、不動産などは名義を変更しなければなりません。財産目録を確認して、名義の変更が必要なものはこの段階で必ず変更しておくと良いです。名義変更を忘れていてトラブルが起こった例も数多くあります。

ここまで、遺産相続に必要な書類から基本的な遺産相続税申告の流れを説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。

実際の遺産相続は、事務的な事柄だけでも忙殺されるのに親族間での意見の相違や感情が拗れる場合もあります。しかも、10ヶ月以内という期限もあるので、自身で相続税の申告をと考えているのなら、相当の準備と覚悟が必要です。

 

遺産相続税申告を税理士に依頼する場合

遺産相続税申告を税理士に依頼する場合

相続税の書類が膨大で複雑であることを知れば知るほど、相続税申告のプロに依頼する人が増えます。現に、相続税申告者の90%以上が税理士などのプロフェッショナルに依頼しています。

また、自身で相続税を申告して、多く払いすぎても税務署は返してくれない可能性が高いです。税務署は法を優先してアドバイスしますが、税理士は合法的な節税ができないか模索しながら相続税申告を進めてくれます。

税理士に依頼するもう1つのメリットは、相続税申告後の税務調査に関する事です。税理士に依頼して申告した場合、税務署の調査の可能性は低くなりますが、自分で行った場合は税務調査の対象となる確率が高くなる傾向があります。

ほとんどの場合、相続人は税に関する素人ですので、申告漏れがあると判断されがちになるのも致し方ないかもしれません。

また、税理士が申告した相続税申告書について税務調査に入られたとしても、税理士が責任をもって税務署に説明してくれるますので、相続税で悩まされる可能性はほとんどありません。

 

依頼する場合に用意するもの

税理士に依頼する場合となっても、必要な書類は準備しなければならない場合もあります。基本的に身分を証明する書類は、相続人が準備したほうが良いかもしれません。

遺産相続税申告で必ず必要な書類

  1. 相続人のマイナンバーを確認できる書類
  2. 相続人の身元を確認できる書類
  3. 死亡診断書
  4. 遺言書がある場合は遺言書
  5. 相続人全員の印鑑証明
  6. 被相続人の戸籍全部事項証明書
  7. 相続人の戸籍全部事項証明書
  8. 相続人の住民票

これだけの書類を揃えていれば、安心して税理士に依頼できますが、税理士によっては、相続人全員の印鑑証明だけ用意すれば、後の書類は全て揃えてくれるケースも多いです。

この他に相続する遺産の種類ごとに必要な書類がありますが、税理士に任せておけば何も問題ありません。土地などの件で立ち会いが必要な場合は事前に連絡がきます。

 

税理士にかかる費用・手数料の相場

税理士に相続税申告を依頼した場合の費用総額は、一般的に遺産総額の0.5%から1%とされています。

ホームページに料金表を公開している税理士もいますので費用の参考にすれば良いでしょう。しかし、金額の安さにつられて安易に任せるとオプションなどで費用がかさむ場合もあるので注意が必要です。

 

信頼できる税理士とは

税金に関する法律や制度は複雑怪奇で非常に難解です。弁護士であっても刑事事件専門や人権に特化した弁護士がいるように、税理士でも、税の種類によって専門分野があります。

税理士は、相続に強い税理士や企業向けの税理士など多様に別れています。理由の1つに税理士の国家試験が挙げられます。

所得税法と法人税法にプラスして1つの税法、つまり3つの税法に合格すれば税理士に成れるのです。故に、相続税に対して素人のような知見しかない税理士も存在します。

税理士に相続税申告を任せる判断をした場合、相続人は税理士を見極めなければなりません。しかし、ネットで検索すれば相続に関するプロと謳う税理士は溢れているのでポイントを整理しておきます。

相続に強い税理士を見極めるポイントは

・相続税申告件数が多い

・相続税以外の税金は扱っていない

・報酬が明確

・税務調査の実施率が低い

などです。

大切な遺産相続の申告を任せる税理士ですので、疑問に感じたことは率直に尋ねて信頼できる税理を選択してください。

 

書類が苦手な方は迷わずプロに相談

書類が苦手な方は迷わずプロに相談

ここまでの説明で、相続税の申告に必要な書類や流れはご理解いただけたでしょうか。

相続税申告は、そもそも書類が苦手という人には辛い作業になりますし、大切な被相続人を亡くしたダメージから抜け出すまもなく、相続税関連で忙殺されるのは苦痛でしかありません。

当サイトでは、相続に関するあらゆる記事を掲載していますので、ぜひご参考にご覧ください。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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