遺産相続と生前贈与・生前放棄!亡くなる前にできる相続対策とは

  1. 贈与
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懸命に築き上げた財産や先祖代々守り続けてきた財産などを贈与するとなると悩ましいのが税金です。

放置すれば法定相続されていくということはよく理解しているかと思います。

しかし、自分の財産の整理は円滑に、できるだけ節税して譲渡したいと考えている人は少なくありません。

今回は遺産相続と生前贈与について解説します。非課税についても詳細に説明しますので財産整理の参考にしてください。

 

生前贈与とは

生前贈与とは財産を継がせるための手段ですが、法律上は生前贈与という言葉はありません。

理由は、贈与とは契約であり、契約である限りお互いが存命でなければ合意できませんので、契約そのものが成り立たないからです。故に、法律上は生前という言葉は除外して単純に贈与として扱われています。

しかし、生前贈与という言葉が広く使われているのも事実です。遺産相続を視野に入れた贈与を生前贈与と捉えると理解しやすいでしょう。

因みに、遺言書を作成して、死後に財産を贈与することを遺贈といいます。遺贈の場合は、相手の合意無しで贈与できますが、法律上は相続として扱われます。まずは、生前贈与に関する税を理解することから始めていきます。

 

生前贈与に関わる税金

生前贈与に関する税金の種類で代表的なものは5つです。対象となる贈与や贈与する財産の種類によって異なってきます。

  1. 贈与税
    生前贈与でもっとも多いのが贈与税です。贈与税の課税方法は暦年課税と相続時精算課税の2種類がありますので、贈与契約後に選択することができます。ただし、相続開始3年前から行われた贈与は相続税の対象です。
  2. 相続税
    生前贈与ですが、相続税として課税されるケースがあります。前途した相続開始3年前からの贈与と相続時精算課税制度を選択した場合です。相続税には基礎控除があります。相続税対象の贈与を足しても遺産総額が基礎控除以内なら相続税の申告や納税の必要はありません。
  3. 不動産取得税
    生前贈与で不動産を贈与された場合は、不動産取得税が課税されます。不動産取得税は、課税標準に規定のパーセンテージをかけて算出しますが、課税標準は原則として固定資産税評価額と同じです。
  4. 登録免許税
    登録免許税は不動産の登記に対して課税される税金です。生前贈与の場合は、固定資産税評価額の2%となっています。(国税庁:7191 登録免許税の税額表https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
  5. 所得税
    生前贈与における譲渡所得とは、土地や建物、金融商品やゴルフ会員権などの資産を譲渡する事によって生ずる所得です。
    譲渡所得の金額は、次のように計算します。
    収入金額- (取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額
    所得税には、住民税と復興特別所得税がセットになってついてくることが多いです。譲渡所得についても同様とご認識ください。(国税庁:1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm

 

贈与税には時効がある

生前贈与に限らず贈与税には時効があります。つまり、時効が成立すると贈与税を納めなくて済むことになるのです。贈与税の時効は、贈与の発生から6年で、贈与を意図的に隠していた場合は7年です。

 

時効でもほとんど免除されない

贈与税に時効があることは間違いありませんが、免除されるケースは稀です。相続税など別の税で徴収されることがほとんどです。

贈与は契約だということを前途しました。贈与契約の証拠がなければ時効はいつまでも成立しないことになります。

税金は、法に則って平等に納めなければなりません。その税金を免れようとすると返って痛い目にあいます。申告期限を守らなかった場合は、加算税が課せられます。そして、納税期限までに贈与税を納めなければ加算税にプラスして延滞税が課せられることになります。

それでも、贈与税を納めなければ、刑事罰が課せられる可能性が上がります。申告していない場合は「故意の申告書不提出による脱犯」で、不正行為よって納税を逃れようとした場合は「脱税」で刑事罰に値します。

もし、贈与税の時効を狙った生前贈与を企んでいるのなら、それは、非常に危険な行為であり愚かな行為です。

 

遺産相続の生前放棄

親族間の関係が不仲であったり、親に居所を知られたくなかったりと家族間であっても問題を抱えている事例は意外と多くあります。

また、親がかなりの借金を抱えている場合もあります。不仲や借金で遺産を相続したくないと思っている人は多いでしょう。

ここでは、遺産を放棄する方法と相続させたくない者への対策を解説します。

 

遺産相続放棄とは

遺産相続放棄とは、法定相続人が被相続人の遺産に対する相続権を放棄する行為です。家庭裁判所に申立てて、認められれば相続放棄できます。

相続放棄でよくみられるケースは、親の遺産総額が債務超過であった場合です。負の遺産は放棄するが、そうではない遺産は相続するといったことはできません。

全ての遺産相続権を放棄することになりますので、相続放棄した相続人は1円たりとも相続することはできません。

 

生前に遺産相続放棄はできない

結論から言って、被相続人が存命であれば遺産相続放棄はできません。そして、相続放棄の念書や契約書など何の法的根拠もないので無効です。

生前の相続放棄ができない理由は、家庭裁判所が受付けていないからですが、それにも理由があります。被相続人が存命中に相続分を譲渡することが法的に認められていないからです。

どうしても相続放棄をしたいのであれば、法に則って相続開始から3ヶ月以内に相続放棄を家庭裁判所に申し立てる以外に方法はありません。

 

生前に相続させたくない者がいる場合

生前の相続放棄とは逆に、相続させたくない者の相続権を生前に奪いたいと思っている人もいるでしょう。

相続させない方法は2つの方法があります。

1つは、相続人廃除で、もう一つは相続欠格です。しかし、どちらも代襲相続が可能なので効果は薄いと理解してください。この2つの方法で、被相続人が生前に可能な手段は相続人廃除です。

相続人廃除の方法は、家庭裁判所に相続人廃除の申立てを行うのですが、被相続人への虐待や暴力・非行行為などが認められなければ、相続人廃除も認められません。

相続欠格は、被相続人に罪を犯した者などに自動的に下されるものですので、被相続人が何らかの行動を起こす必要はありません。

 

遺産相続における生前贈与の非課税枠

財産をもつ多くの人が生前贈与を利用する理由は非課税枠があり、相続税対策が可能だからです。

また、法定相続人などにとらわれることなく、自由に好きな人に財産を贈与できることもメリットの1つです。

ここでは、贈与税の非課税枠に絞って解説させていただきます。理解を深めることができれば大きな節税効果が得られるでしょう。

 

基礎控除内なら非課税

一般的な贈与に対する課税は暦年課税です。暦年課税には基礎控除があり、贈与された年の1月1日から12月31日までの贈与合計が110万円以下なら申告も納税もしなくて良いです。

つまり110万円以下の贈与なら非課税です。故に、この制度を利用する人は非常に多くいらっしゃいます。

しかし、毎年同じ金額が贈与されている場合は、連年贈与とみなされる可能性があります。贈与する金額を同じにしないことや贈与する日にちを変えるなど工夫したほうが良いでしょう。また、贈与毎に契約書を交わし保管することをお奨めします。

(国税庁:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm

 

相続時精算課税は2500万円まで

贈与税を申告する際は、先程の暦年課税だけでなく、相続時精算課税制度を選択することもできます。しかし、相続時精算課税制度は適用対応者でなくては選択できません。

適応対応者は「贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫」と定められています。

相続時精算課税のポイントは

  • 贈与金額2500万円までを課税金額から控除される
  • 贈与された財産の贈与税は相続時に支払う
  • 贈与された財産は相続財産としても形状する
  • 相続時精算課税制度を用いた結果、計算された相続税はこの制度によって課せられた贈与税と相殺される

2500万円を超えた贈与には一律20%の贈与税が課税されます。また、相続時精算課税制度を利用するとその贈与者からのその後の贈与は暦年課税に戻せなくなるので、慎重に選択する必要があります。

この制度を要約すると、贈与税2500万円までは非課税にするが、後で相続税として納めなさいということです。

(国税庁:No.4103 相続時精算課税の選択)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm

 

住宅取得資金贈与は3000万円まで

住宅資金贈与は、直系尊属からの贈与により、自分が住む住宅の新築や取得又は増改築等した場合に適用される非課税枠です。

非課税枠は住宅の契約締結日によって変わるので以下をご確認ください。

住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 省エネ住宅以外
平成31年4月1日~令和2年3月31日 3000万円 2500万円
令和2年4月1日~令和3年3月31日 1500万円 1000万円
令和3年4月1日~令和3年12月31日 1200万円 700万円

ご覧のように、最高額が3000万円ですので、子や孫に住宅を提供したいと考えている人は計画を急いだほうが良いかも知れません。

基本的な要件は、受贈者が贈与を受けた年に20歳以上であることと受贈者の年収が2000万円以下であることです。

(国税庁:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm

 

夫婦間贈与は婚姻期間が20年必要

夫婦間で不動産や不動産取得費用の贈与を受けた場合にも特例で配偶者控除が受けられます。

主たる適用要件は婚姻期間が20年以上あるということです。控除額は基礎控除110万円と別に最高2000万円の控除を受けることができます。

因みに、この配偶者控除は1度きりのものですが、離婚後、別の配偶者と20年以上婚姻関係を続ければ再度適用されます。しかし、20年という歳月を考えると1度きりとご認識いただいたほうが良いでしょう。

(国税庁:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm

 

学費なら教育資金贈与

教育資金として贈与された場合にも非課税枠が設定されています。直系尊属からの贈与であって受贈者が30歳未満と定められています。

また、教育資金の範囲も定められていて、学校などに直接支払われるものが対象です。例えば、入学金や授業料、保育料などです。学習塾やスポーツ教室などは、23歳未満であれば対象となります。23歳以上であれば、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用に限られます。

非課税枠は最大で1500万円であり、学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円が限度です。

(国税庁:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4510.htm

 

結婚子育て資金の贈与でも非課税枠がある

親や祖父母からの譲渡で、結婚や子育て資金に当てられる資金であれば非課税枠が設定されています。

この制度の非課税枠は、1000万円が限度ですが一度に1000万円の贈与でなくても良いです。例えば、結婚時に200万円で出産時に300万円、そして子育てに200万円など分散することも可能です。ただし、その都度非課税申告書を提出する必要があることを忘れないでください。

(国税庁:No.451直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4511.htm

 

遺産相続と生前贈与の関連性

一般的に遺産相続を前提とした贈与を生前贈与と呼ばれています。故に、生前贈与と遺産相続は切り離せない関係なのです。また、生前贈与には多種多様なメリットやデメリットがあります。先に述べたような非課税枠があるので節税になりますし、贈与によって財産を減らすことで相続税も節税になります。

また、法定相続人などに縛られることなく自由に財産を贈与できることも大きなメリットです。相続であれば、法定相続人や遺留分などに阻まれて、遺言書を認めても思うように相続させることができない場合もあります。メリットの面からみても遺産相続と生前贈与の関連性は深いと言えます。

 

生前贈与があった場合の遺産相続

生前贈与があった場合の遺産相続で要注意なのが、遺産相続開始3年前までの贈与は相続税の課税対象だということです。また、相続時精算課税制度を選択した場合も相続税の課税対象となります。

遺産分割協議においても、生前贈与されている相続人の取り分は少なくなる傾向があります。また、あまりにも多額の生前贈与を受けている場合は、他の相続人から遺留分侵害請求権を行使される可能性もあります。

 

相続税における生前贈与の扱い

相続税における生前贈与の扱いで多いのが相続税の納付対策です。相続税の申告と納付期限は相続開始から10ヶ月以内であり、納付方法は現金一括です。

その現金を工面することが困難な遺産の場合は、相続人が非常に苦労を強いられる形になってしまいます。

そのような事態にならないように生前贈与を活用します。例えば、不動産関係の財産を生前贈与しておくことや相続税を納付できる現金を贈与しておくことです。

そうすれば、相続人が困難な目に合わなくて済み、遺産分割もスムーズに進むでしょう。

 

遺産相続前に不動産を生前贈与

生前贈与と聞くと現金を思い浮かべがちですが、不動産の生前贈与も意外と多いのです。先の述べたように相続税対策としての手段でもあります。

また、遺産分割でトラブルの種となるのも不動産です。その不動産を生前贈与することは相続トラブル回避の賢明な選択かもしれません。

 

土地を生前贈与された場合

土地を含む不動産を生前贈与された場合は、現金と違って手続きが必要です。その流れを説明します。

  1. 不動産贈与契約書を作成する
  2. 登記の名義変更に必要な書類を集める
    • 対象不動産の登記識別情報通知(登記済権利書)
    • 贈与者の印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
    • 受贈者の住民票
    • 固定資産評価証明書
    • 不動産贈与契約書(登記原因証明情報)
    • 登記申請書
  3. 法務局で名義変更の申請を行う
  4. 贈与税を申告する

土地などの不動産であっても贈与税の申告時に暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらかを選択することが可能です。

不動産の生前贈与には、不動産取得税や登録免許税の負担などで多くの費用が発生することを考慮して贈与が行われることが望ましいでしょう。

 

生前贈与された家を売った場合

贈与された家などの不動産を売却するのは受贈者の自由ですが、贈与者が存命であれば相談や報告後に売却するほうが良いでしょう。

贈与された不動産を売却した場合は税金が発生します。必ず課せられる税金と所得を得た場合に課せられる税金があります。

必ず課せられる税金

  • 登録免許税
  • 印紙税

売却によって所得を得た場合に課せられる税金

  • 譲渡所得税
  • 住民税
  • 復興特別税

不動産は贈与された場合でも多くの費用がかかりますが、売却で所得を得ても大きな税金がかかります。なるべくなら、売買や贈与などで動かさないほうが節税できるということも判断材料に入れておくと良いでしょう。

 

生前贈与で賢明なエンディングプランを

生前贈与のメリットには相続税対策や節税対策が可能であることと、自由に財産を贈与できることなどがあると述べてきました。

この記事では、それらの詳細にまであえて踏み込んでいません。相続税であっても贈与税であっても非常に細かくルールが決められていて難解な部分が多いからです。特に、必要な書類などは素人が作成できるわけがないと誰もが匙を投げたくなるかも知れません。

しかし、上手に生前贈与を利用すると節税になり、相続がスムーズになることは事実なのです。難解なルールの攻略はこの「相続対策のすゝめ」にお任せください。必ずや賢明なエンディングプラン作成のお役に立てるはずです。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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