農地を遺産として相続したら何をすればいいのか?ケースごとに解説

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農地の相続は他の不動産の相続よりも複雑です。

なぜなら農地は食料の供給のために欠かせない土地であり、簡単に売り出すことも用途を変更することも出来ないようになっているからです。

しかし農業をしないにも関わらず相続をしても管理費だけが積み重なっていくだけです。

農地が遺産に含まれているときどうすればよいのか、3つのケースにまとめて解説していきますので、この悩みを抱えている人はぜひ参考にしてください。

 

まずは届け出を行う

農地を相続するときも他の遺産と同様に、遺言や遺産分割で取得者を決めることになります。

それでは遺産をどのように分配するかが決まったとしましょう。

まず農地については、公的機関への届け出から始めることになります。

これらの手続きに関して期限を過ぎたり、そもそも手続きをしなかったりの場合は罰金の支払いや税金の控除が無くなることもあります。

農地の相続の際には必ず避けては通れないことですので、しっかりと解説していきます。

 

法務局で相続登記

これは農地に関わらず、土地や建物の不動産を相続した場合に必ず届け出を行う必要があります。ここで注意が必要なのが相続登記には期限がないという事です。

そのため、後回しにされがちだですが相続登記を終えていないと農地の名義変更はできず農地の名義変更は期限を過ぎれば罰金等も発生します。

相続登記を行わないデメリットには、その他にも「不動産を売れない」「手続きが面倒になる」などが挙げられます。

申請は窓口に直接行ってもいいですし、オンラインでも郵送でもできます。

相続登記は自分で行うこともできますが必要な書類は多岐に渡るため、そのような手間をかける時間がないという人は司法書士に依頼することも一つの方法です。

通常は書類一式を出してから1週間から2週間ほどで登録が完了します。

登録が完了したら次に行うのは「農業委員会で名義変更」をすることです。

 

農業委員会で名義変更をする

農地の名義変更は農業委員会に届け出をしますが、そもそも農業委員会とはどういったものなのでしょうか。

農業委員会とは、農地の売買や貸借それに農地の転用に関する許可などを出している公的機関です。

全国の各都道府県の市町村区にあるため、インターネットで農業委員会と住んでいる市町村区で調べれば、近くの農業委員会の場所がわかります。

農地の名義変更に関しては、相続登記と違って「相続を知ってから10か月以内」が期限です。

期限内に届け出をしなかった、もしくは虚偽の届け出をした場合は10万円以下の罰金が課せられます。

届け出に必要な書類は二つあります。

一つ目は先ほど紹介した相続登記、二つ目は農地の相続等の届け出書です

二つ目の農地の相続等の届け出書に関してはインターネットからPDFでダウンロードできます。

農地の名義変更は不動産の相続登記さえ終っていれば、農地の相続等の届出書を書くだけなので難しくもなく、時間も必要としません。

相続することが決まったのなら、まずは相続登記を早めにしてから、農地の名義を変更しましょう。

 

相続税の申告と納税

農地を相続した場合も、他の遺産と同様に相続税が発生します。

ちなみに相続税とは、不動産や現金、株式等の金融財産、それに自動車や家具などを相続するときにかかる税金です。

基礎控除の額は大きいですが、特に不動産を受け継ぐ際は土地の評価額や広さによって課税額は非常に大きくなります。

相続税は、相続をしてから10か月以内に申告と納税を行う義務があります。

申告と納税をしなかった場合は控除がなくなったり追徴課税が発生ます。

 

農地にかかる相続税の評価方式

そもそも宅地の相続税を決める場合は、主には「路線価方式」と「倍率方式」があります。

ところが農地にかかる相続税は宅地とは異なってきます

  • 純農地・半農地【倍率方式】
  • 市街地周辺農地【農地が市街地農地であるとして評価した金額の80%】
  • 市街地農地【宅地比準方式または倍率方式】

農地はその農地の場所や周辺の環境によって種類が変わります。

ちなみに農地の評価方式は主に「倍率方式」と「宅地比準方式」がありますが覚える必要はありません。

覚えておくべきことは農地にも種類があり、その種類によって農地の評価は変わり、相続税も変わるということです。相続する農地が純農地なのか、それとも市街地周辺農地なのか、どのような種類かを確認しましょう。

また申告をする際に不安であるならば税務署への相談や、税理士を活用することをおすすめします。

申告にミスがあった場合などは税務署から指摘を受けることがあり、場合によっては過少申告課税などの追徴課税を受けることもあります。

特に土地の評価に関しては非常に専門性が高いため、自信がない場合は税理士に依頼するのが無難である。

 

相続税の基礎控除額

相続税の基礎控除額は以下のものです。

3000万円+600万円×遺産を相続する人数

相続する遺産の価値がこの基礎控除額を超えた場合に相続税を納税しなければなりません。

とはいえ相続する遺産の価値が基礎控除額を超えず0円となった場合も申告は必要です

申告をしなかった場合は、申告忘れ、または申告をしていないとみなされるため注意が必要です。

 

農地を相続し農業をする場合

農地を相続した人は「相続した農地で農業を続ける・始める」「相続した農地を売却する」「農地を相続せず、放棄する」という3ケースに分かれます。

相続登記と土地の名義人の変更に関しては、3つのケースに共通して、必ず行わなければならないことです。

しかし相続税に関して「相続した農地で農業を続ける・始める」人は納税を猶予される特例があります。

相続税の猶予や免除は農業をやる人にとって大きなメリットとなるので、確実に知っておきましょう。

 

相続税が猶予される特例

農地を売らず、または放棄する人を減らし、農業を続ける人を増やすために相続税が猶予される特例制度があります。

税金を猶予される要件は、主に二つです。

一つ目は「被相続人(つまり故人・遺産を贈与する側)が農業を営んでいたこと」、二つ目は「相続人が農地を相続後も農業を続けること」です。

ちなみに相続税を猶予されたいからといって、相続後すぐに土地を売却などした場合には、相続税に利子がついて、納税する金額が大きくなるので注意が必要です。

逆に農業を続ければ、猶予はいずれ免除となります。

また後継者が亡くなった場合も免除の対象の一つです。

基本的に農業を続け、3年ごとに継続届出書を税務署に提出されていれば猶予され続けることになります。

提出し忘れると猶予は取り消され、本来納税するべき金額に利子も加わるので注意が必要です。

 

農地を売却する

相続人が遺産として残された農地から遠く離れた場所に住んでいた場合、管理することも難しいため農地を売却する人は多いかと思います。

農地を売却するときは農地としての売却、または農地を宅地などに転用しての売却の二通りがあります。

農地は制度面でも、需要の面でも難しい。

農地は食料生産のために非常に重要な土地であり、本来は売買や転用はあまり認められない為、売却は難しい面があります。

更には、昨今は就農人口の高齢化や農業離れが深刻であるため、ますます土地に買い手がつかなくなってきています。

だからこそ農地としての売却、転用しての売却を考えている人はぜひ参考にしてください。

 

農地のまま売却する

農地のまま売却するにしても、宅地や駐車場などに転用して売却するときも、まずは農業委員会から許可を得る必要がある点では共通しています。

農地のまま売却することに関しては比較的難易度は低いです。

買い手が現在農家であること、またはこれから農家や農業に関わろうとしていることが主な条件となります。

買い手が現在は農業をしておらず、これから農業経営に関わろうとしている場合は一定の要件を満たすことが必要です。

また売却するだけではなく、貸し出すこともできます。

買い手を探すときは自分で探すのもよいですが、農業関連機関や農業委員会に相談するのが無難です。

買い手が見つかったときは、契約と所有権の移転登記をすることで、実質的な手続きは完了です。

比較的簡単な作業であるため司法書士に依頼しても費用は高くありません。

 

農地以外の用途で売却する

一方、農地以外に転用して売却する場合の手続きは複雑です。

まず覚えておくべきは転用できない土地もあるということです。

転用できるかどうかは「立地基準」と「一般基準」に基づいて判断されます。

以下の条件に該当する土地の転用は許されません。

●農用地区域内農地

農用地区域内農地とは、農業を振興している地域にある農地のこと。振興している地域とは、質が良く生産性の高い農地や営農上なくてはならないと指定された地域。転用は原則不許可。

●甲種農地

甲種農地とは、市街地から離れた郊外や農地が広がる市街化調整区域のこと。農業をするうえで適した環境であるとされているため、転用は原則不許可。

●第一種農地

第一種農地とは、農業の公共投資の対象となった土地のこと。自治体や政府の補助金が使われているため、整備もされており、生産性が高く、大規模な農地を指す。転用は原則不許可。

●第二種農地

第二種農地とは、現在市街地ではないが、将来的に発展する可能性のある場所に位置する農地のこと。また公共の投資も行われておらず、生産性は高くなく、小規模な農地。周辺の土地が転用できない場合、つまり宅地や駐車場として転用する価値があると認められたときに許可を得られる。

上記の土地の種類のことを「立地基準」と言います。

許可が下りない土地には特徴があるので、その特徴から農地以外として売却できるか判断できます。

転用できない土地の特徴は「大規模」「生産性が高い」「市街地から遠い場所に位置する」「公共投資が行われていること」です

これらに該当する土地は、農業委員会が原則許可を出しません。

逆にいえば「小規模」「生産性が低い」「市街地の中、または市街地から近いところにある」農地は転用して売却できます。

農地以外の目的で売却したいときは、農地の転用などに詳しい不動産会社に相談することが一番といえます。

農業委員会が許可を出すか否かについて、実は明確な基準はありません。

つまり申請する者によって、許可が下りるのかどうかが変わることもあるということです

農地として売り出した場合は、用途や農地としての価値がある程度決まっているため価格はあまり高くなりません。

しかし他の用途で売り出す場合、すぐ買い手がついたり高額で買い取ってもらえこともあります。

高く売却できることに越したことはないので、ここは専門家の不動産会社に任せたい部分です。

ちなみに一般基準は、その農地がしっかりと農地として使われているのか、または周辺の農地に悪影響を及ぼさないか、という基準です。

 

農地の相続を放棄する

3つ目は農地を放棄するというケースです。

金融財産の場合は分配することが比較的楽であるためあまり困りませんが、不動産の場合は分けることが困難であり、かつ相続人の誰も欲しがらないこともあります。

そのため遺産の一部を放棄したい人も多いのです。

しかし農地を放棄するときは他の全ての遺産の相続も同時に放棄することになります。

相続人全員が放棄することに同意しなければならないが、同意したときは被相続人が死亡してから3か月以内に家庭裁判所に申し立てなければなりません。

更に気を付けなければならないことは、遺産の相続を放棄しても管理する義務は残ることです。

放棄された農地は自治体が買い手を探したり、最終的には国が受け持ったりすることになります。

しかし、それまでの間は相続人が家庭裁判所から選任された相続財産管理人に報酬を支払い、土地の管理を一任することになります。

都会に生活の基盤を置いているからと、農業ができない土地を持てない人も多くいることでしょう。

売却する手間をかけたくないこともわかりますが、相続人の意志が一致することや、他の遺産も受け取れないこと、管理するお金がかかることもしっかりと考慮してください。

 

農地の相続に関する主なトラブル3選

ここまで農業を続ける・始める、農地を売却する、相続を放棄するケースの必要な手続きなどを解説してきました。

ここで農地の相続に関して共通するトラブルを紹介していきます。

事前に起こりうるトラブルを知っておけば、実際にそのような事態に直面したときも対処しやすいです。

 

相続人への税金の負担が重い

農地を相続する場合の税金の負担は無視できません。

基礎控除があるとはいえ、土地が大規模であったり農地として優れていたりする場合の相続税は基礎控除では足りないときもあります。

相続税への対策は「農地を受け継ぎ農業に従事することで納税を猶予」するしかありません。

残念ながら、その他の税金対策はないといえます。

土地の価値を故意的に低く見積もったり申告をしなかったりする場合は、税務署の指摘や追加徴税の対象となります。

そのため被相続人や他の相続人としっかり話し合いながら、農業を続けるか、または売却するのかなど様々な選択肢を考慮しておく必要があるでしょう。

税理士に相談する、または立地が良く転用の許可が得られるのであれば不動産会社と相談して販売価格を上げることも重要です

 

各種手続きに手間がかかる

農地の相続に関しては手間がかかります。

そのまま農地を受け継ぎ農業を始める場合は、相続登記や名義変更、それに納税の猶予の申請となります。

もちろん税金の申請などの際は土地の価値などを判断する必要があるため専門家がいれば心強いです。

しかし、特に土地を売却する場合は、相続登記に名義変更、相続税の申告と納税に加えて、土地を売却する手続きがあります。

土地を放棄する場合にも家庭裁判所への申し立てがあります。

高額な納税をしなければならない可能性を考慮すると、税理士や司法書士などを雇うことにも抵抗を感じるかもしれませんが、税金の申告漏れなどは後で更なるトラブルや出費となります

また土地を転用して売却するときは土地の売買価格が売り方によって変わることもありますので、不動産は選択肢に入れておくべきでしょう。

 

誰が相続するのかというトラブル

最後は農地に限ったことではありませんが、相続人同士のトラブルです。

ここを事前にしっかり決めておかないとトラブルになり、最悪裁判にまで発展しかねません。

重要なことは「遺言で相続人を一人決めておいてもらう」ことです。

農地を含めた不動産は分割して相続することが難しいです。

特に農地は無理に分割した場合は、農業そのものが成り立たなくなる恐れがあります。

そこで他の相続人同士で話し合い、農地を一人が相続する代わりに他の遺産を多く分配する、または農地を受け取った分を他で支払うなど事前に決めておくことが重要です。

不動産の遺産の分配が決まらず被相続人が亡くなった場合、トラブルになるケースは非常に多いです。

被相続人も含め、相続人同士で事前に話し合うことが重要です。

 

まとめ

農地を遺産として受け継ぐことにはお金も手間もかかると考えてよいでしょう。

だからといって土地の名義人変更や税金の申告や納税を怠った場合は、罰金や追加徴税が発生します。

農地はそのまま農業のために引き継いだり、売却したり、放棄したりすることができます。

各種手続きは簡単ではないので、農業委員会や税理士、それに不動産などのプロに任せることで安心できるます。当サイトでも不動産全般に関する遺産相続の相談を請け負っています。

後のトラブルに発展しないためにも、事前にしっかりと調べておくことをおすすめします。

【記事監修】高野友樹

株式会社アーキバンク取締役COO/不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士

不動産会社にて2,000件以上の賃貸売買仲介に関わり、6,000戸の収益物件の管理業務を経験した後、年間で36.9万平米を超える賃貸契約面積を獲得している国内有数の不動産ファンドであるGLR(ジーエルアールインベストメント株式会社)にてAM事業部のマネージャーとして従事。

大規模物件の売買仲介を中心に、投資家へのコンサルティング業務を行い、100億円規模の物件の取引に携わる。2019年より株式会社アーキバンクに参画し、不動産事業部統括責任者として取締役に就任。

不動産投資家の所有物件の買い替えによる資産整理や遺産相続など、その経験と知識を生かしたコンサルティング業務を行っている。

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